読書記録㉞(歪んだ正義 「普通の人」がなぜ過激化するのか)

1 「普通の人」が過激化する
・「ローンウルフ(一匹狼)」について。定義を「組織からいかなる指示、訓練、支援も受けずに攻撃する者」としている。日本でも無差別殺人の犯人はこのローンウルフである。
・ローンウルフの性格は、「他者に影響されやすい脆弱性(もろくて弱い)」「混乱しがちな思考」である。
・ローンウルフが攻撃にいたるまでのプロセスは以下の7つ。
①極めて短期間に犯行を思いつくが、必ずしも強固な決意が伴うわけではない。
②実際に犯行に及ぶまで、心の中で十分に気持ちの整理をしていない。
③計画性が乏しい。
④周囲の家族などに相談せず、気づかれないまま決行している。
⑤攻撃性を呼びかけるようなネット上の扇動にさらされている。
⑥ソーシャルメディアなどの影響を受けている。
⑦攻撃方法などについてネット上などで自分で学び、自己流でトレーニングしている場合もある。

2 組織はいかに個人を過激化させるか
・ローンウルフは過激化組織に入って過激化が進む場合と組織に入らずに自己過激化に終始するパターンがある。

3 ローンウルフ2.0
・ローンウルフに見られる特徴として、「個人的な不満を社会問題に帰結させる」こと。これが過激化組織のメンバーとの最大の違いである。

4 「過激化プロセス」のモデル
ローンウルフがテロリズムを起こすまでの過激化プロセスは以下のとおり。
①個人的、政治的な苦悩:自分の仲間が攻撃された、自分の宗教が否定されたなど。
②オンライン上の仲間や過激派グループへの親近感:人は「見たい情報」を集める「確証バイアス」が働き、思い込みが強まる。
③支えるもの:物理的な支援や精神的な支援。テロ攻撃方法の資料を入手するなど。
④意図の流布(広く伝わること):犯行予告など
⑤きっかけとなる出来事:これが事態を好転させる場合もあるし、過激化する場合もある。
⑥テロリズム

5 誰にでもある心身のバランスシート
・苦境に遭っても過激化する人としない人がいるのはなぜか。それには心身のバランスシートが関係している。
・ストレスに遭って心身のバランスが負の方に傾いても、破綻しない人はストレスを受けてもそれを支える力がある。「レジリエンス」がある。
・家族や家を失うなど喪失経験が多かった人ほどうつ症状やPTSDが顕著に見られる。
・社会的少数派(マイノリティ)はバランスシートが負の方に傾きがち。移民や貧困、教育の欠如は直接的な過激化の原因にはならないが、誘因にはなる。よって、社会全体での支援が必要。
・過剰なストレスは認知機能を低下させ、言動に攻撃性が出やすく、思考が単純・過激化しやすくなる。
・幼少期に経験した虐待やいじめ、戦争や犯罪などはトラウマとして人間不信などをもたらす。幼少期に親からの愛情をもらって「世の中は安全である」ことを学ぶ。愛情をもらえなかった人はバランスシートが負の方に傾きやすい。

6 日本における過激化
・新型コロナで未遇の恐怖にさらされた私たちは、普段であれば冷静に対処できることができなくなっている。例えば「自粛警察」。不快感情が攻撃として行動する。
・新型コロナで見られた攻撃性には3つのタイプがある。
①情緒不安定で不安や恐怖に駆られやすいタイプの人が抱く攻撃性。「回避・防衛」を動機とする攻撃パターン。
②「自粛警察」のような『正義』を振りかざして人を攻撃することは自尊心を満たし、周りの人達から賛同が得られれば承認欲求も満たされる、という考え。「制裁・報復」がドとなる。
③多民族などへの「偏見・敵意」が動機とするパターン。

7 過激化をいかに防ぐか
・身近な人の心身のバランスシートを支えること。たった一言が相手のバランスシートを正にも負にも傾けさせる。
・自分の認知のクセを自覚する。
・身近な人の「犯行予告」を流さずに親身になって対処する。
・「小さないじめ、攻撃」を認識する。
・傍観者効果(傍観者が多いほど、助けなくなる)を回避する。
・多様な角度から情報を入手する。


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