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コーチング脳で『がん医療』を考える 15

「がん医療」にコーチングがどのように役に立つのか?
自分でもピンときていない部分も多いので、今回もまた実例を挙げながら検討していってみたいと思っています。

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▼「抗がん剤治療なんてムダ!」っていう患者さん
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「進行がん」と診断され、「抗がん剤治療しかない」という説明を受けて腫瘍内科に紹介になってくる方が多いというお話しは前回もさせていただいたかと思います。
「それしかない」といわれると「本当に?」「探せばもっと良い治療があるんじゃないの?」ってお考えになる方は多いのではないかと思います(僕もそう考えると思うので)。
今は自宅に居ながらでもインターネットで色々と調べられますから、上記のような説明を受けてから腫瘍内科初診日までの数日間にたくさんの情報を仕入れて来られる方も結構増えてきています(都会ではほぼ全員かもしれませんが、そこはまあ田舎なので・・・)。
そして、診察室に入ってくるなり
「●●病院を紹介してください!私はそこで■■治療を受けたいと思っています!」
といきなり言われることもままあります。

いきなり言われないにしても、化学療法のお話しを一通りさせていただいた後に、そのように申し出る方も時々いらっしゃいます(僕の話を聞く前からいつ言い出そうかとタイミングを見計らっていたのだと思われます)。

進行がん(特に私が主に診療している「消化器がん」)の化学療法では、「がん」の治癒を目指すのはかなり厳しい(確率がかなり低い)状況であるため、「がんを治したい!」という希望の方にとっては、(がんを治すことができない)抗がん剤治療では物足りないと感じてしまうのも仕方がないことかと理解していますが、
「抗がん剤治療なんて、ただの延命治療でしょ!?」って言われたりすると
僕が長年やってきたことを否定されて悲しい部分もありますが
なにより、抗がん剤治療を頑張って受けている患者さん達に失礼だよって思います

「抗がん剤治療よりももっとよい治療法があるはずだ!」
「私のがんを治してくれる名医がどこかにいるはずだ!」
「お金さえ出せば、保険で受ける治療よりも良い治療が受けられるはずだ!」

このように考えている方に、「抗がん剤を受けることがベストなんですよ」と説明しても、なかなか納得していただけません。

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▼コーチングを習う前の僕なら・・
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コーチングを習う前の僕であれば、このような患者さんに対しては

Step1:治癒を高率に期待しうる『理想のがん治療』は残念ながら存在しないことを説明する。

Step2:もしも世界のどこかに『理想のがん治療』があったとしても、それは今回インターネットで探し当てたものではない可能性が高いこと
(誰かにとっての『良い治療』が、あなたにとって『良い治療』かはわからない!)

Step3:『理想のがん治療』を探し求めている間に、がんが進行してしまい、いわゆる標準治療を行うことが難しいような状況になってしまうかもしれないこと

このようなSTEPの説明を経て、あくまでも標準治療を受けることがベストであることを理解していただき、抗がん剤治療を受けるように説得していました。

このような説得にも関わらず、あくまでも『理想のがん治療』を探し求める方もいらっしゃいますし、『妥協して』抗がん剤治療を受けられる方もいらっしゃいますが、特に後者の場合、『納得感』が著しく低いことは明らかです。

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▼まずはラポールを!
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コーチングの先生は、初回の講義の際このように教えてくれました。
コーチングで大切なことは、「良い質問をすること」ではなく、クライアントと信頼関係を構築することであると。
信頼関係が構築されていなければ、どんなに良い質問を投げかけても、うまく受け取ってもらえず、よい回答は得られない。
逆に信頼関係がキチンと構築されていれば、少し的を外した質問であってもキチンと受け取ってもらえる。
信頼関係を築くためには、こちらもクライアントを『尊重』し、『受容』する必要がある。

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▼上から目線
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コーチングを習う前の僕は、患者さんのことを『尊重』していなかったと思います。
こちらは「がんの専門医」として、20年程がん治療に携わっているわけです。
一方、腫瘍内科に紹介されてくる患者さんのほとんどは、つい最近まで抗がん剤の「こ」の字も知らなかった状態で、「抗がん剤」と言われて、あわててインターネットなどで調べて身につけた知識しかもっていません。
そんな「抗がん剤のシロウト」である方を、「抗がん剤のプロ」である僕が、間違った方向に進んでいかないように導いてあげなければならない。
それが腫瘍内科医の役目であると、考えていました。
つまり、患者さんの考えは間違っており、僕の考えが絶対的に正しいという立場で話をしており、正しい道を進んでもらわなければならないという使命感から、説得するのが仕事であると考えていました。
簡単に言えば、上から目線で対応していたということです。
しかも、「ちょっと上」くらいではなく、「かなり上」からの目線でありました。
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▼まずこちらが『受容』する
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コーチングを習うようになってからは、いきなり相手の考えを否定することをやめました。
「がんを治したいんです!」
「抗がん剤以外の治療に賭けてみたいんです!」
「お金に糸目はつけませんので、良い治療があれば紹介してください!」
相手の考えを否定しないのは、否定するよりも断然簡単です。
だって、「僕があなたであれば、同じように考えたと思います」
って言えばよいだけですので・・・。

「え?腫瘍内科医がその考えを肯定するの?」って思われた方がいらっしゃるかもしれませんが、別に肯定しているわけではありません。
あくまでも、「(どのような人生かはわかりませんが)その人が人生を歩んできた結果として、今そうお考えになったのですね。」「僕はあなたと違う人生を歩んできたから、そのような考えに賛同はしないけど、あなたがそのような考えに至っても不思議ではないとは思っています」ということです。
とはいえ、(肯定をしているわけではないけど)否定しないということはとても重要だと思います。

否定される=「わかってもらえない」
否定しない=「わかってもらえた(かも?)」

この違いは雲泥の差を生みます。
少しでも「わかってもらえた」と相手に感じてもらえれば、同じ内容であったとしても
僕の話を聞いてもらえる確率が上昇します。

テクニックと言えばテクニックなのでしょうが、とはいえ長いこと腫瘍内科医をしてきても、全く気づいていなかったことでしたので、僕にとっては目から鱗が落ちた感じでした。

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▼まとめ
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これまでは、「いかにわかりやすく相手に伝えるか」ということに労力を注いできました。
専門用語が多いから、なるべく使わないように
抗がん剤の名前もわかりにくいし
副作用もたくさんあって、全部説明したらいくら時間があっても足らない!
そういう所をどうしたらわかりやすく説明することができるだろうか?
そればっかり考えていましたが
ポイントはそこではなく、
相手との信頼関係(ラポール)を構築すること
話をちゃんと聞いて、相手にわかってもらえたって思ってもらうこと
こっちの方が重要だったなんて・・・

ということで、最近は長々と説明しなくても,必要なことはキチンと伝わっていると感じています。

今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。

“コーチング脳で『がん医療』を考える”シリーズ15はいかがでしたでしょうか?
何か参考になることがありましたら嬉しいです。
次回以降もどうぞよろしくお願いいたします。

この文章は、宮越大樹さんの著書『人生を変える!「コーチング脳」のつくり方』(ぱる出版)(を教科書として、『がん医療』にコーチングを応用する方法について考えておりますので、まだ本書をお読みでない方は是非とも読んでみてくださいませ。

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