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抗がん剤の副作用はどうしてでるの?  その8

ここ数回にわたって、抗がん剤の副作用というよりは、「体重減少」についてお話ししてきています。
もちろん副作用でも体重が減ってしまいますが、「がん」自体の影響で体重が減ってしまう場合があります。
その原因の一つが、「がん誘発性体重減少(cancer-induced weight loss : CIWL)」です。
今回は、そのCIWLの中でも、「がん悪液質」についてお話ししていきたいと思います。
最後までお読みいただけたら嬉しいです。
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▼腫瘍の大きさとCIWL
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「がん(腫瘍)」の重量が体重の0.01%を超えるとCIWLを起こすと言われています(Ottery, Cancer Proct (1994))。
体重が60kgの場合、腫瘍量としては6gになる計算です。
腫瘍径1cmで1gほどといわれているので、直径1.8cmくらいになると、「がん」の影響で体重減少が始まることになります。
何らかの症状で病院を受診して、検査の結果「がん」が見つかる場合は、既にこのくらいになってしまっているということになります。
ですので、それよりも小さな段階で「がん」を見つけるためには、検診を毎年きちんと受けることが大切です。

「がん」が大きくなればなるほど、身体に与える影響も大きくなってきます。
最初は「何となく食欲がわかない」という程度であったものが、「食欲ない」になり、「食べられない」となってきてしまいます。
食べていないから体重が減るということもありますが、これまでお話ししてきたとおり、食べていても体重が減ってきてしまってもおかしくはありません。
そして、見た目で明らかに筋肉が落ちてきてしまう、痩せ細ってきてしまうと要注意。
「悪液質」になってきてしまっているかもしれません。
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▼がん悪液質とは
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がん悪液質とは「通常の栄養サポートでは完全に回復することができず、進行性の機能障害に至る、骨格筋量の持続的な減少を特徴とする多因子性の症候群」と定義されています(Fearon K, et al. Lancet Oncol. 2011; 12(5): 489-495.)。
つまり、
①普通に食べているだけでは回復しない
②それどころか、徐々に進行してしまう
③最終的には機能障害(死)に至る
④筋肉が落ちるのが特徴
⑤がんによる様々な要因が複雑に関連している

進行がん患者さんの80%に認められ、化学療法の効果の減弱、副作用の悪化、治療中段の増加、生存率の悪化などに関与するとされています。
また、「食べたくても食べられない」や「食べていても、痩せていく(弱っていく)」状況は、患者さんと家族の間で食事をめぐっての対立の原因になってしまうことも多いようです。
さらに、痩せて外見が変わってしまったことや食べに行っても残してしまうことなどから、外出・外食の機会が減ってしまい、孤立しがちという指摘もされています。
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▼がん悪液質の診断
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がん悪液質の診断基準は以下の①から③のうちのいずれかに当てはまる場合です。
①過去6ヶ月間の体重減少が、5%以上
②BMI20未満の人は、体重減少2%以上
③体重減少が2%以上かつサルコペニア(筋肉量の減少)

「体重の減少」がキーワードです。
しかも、たった5%!
60kgの人であれば、-3kg=57kgまで減ってしまうと「悪液質」と診断されるということです。
もちろん、意図的なダイエットで体重を減らした場合は別です。
また、抗がん剤の副作用で一時的に食べられず、体重が減ってしまう場合もこの限りではありませんが、これまでお話ししたとおり、「体重減少」そのものが抗がん剤治療の継続性に影響したりしますので、体重が減らないように対策することは大切です。
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▼がん悪液質、診断の意味
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がん悪液質には、3つの段階があります。
悪液質を中央に、一歩手前の「前悪液質」と一歩先の「不応性悪液質」です。
前悪液質→悪液質→不応性悪液質 の3段階
(不応性悪液質は不可逆的悪液質と呼ばれることもあります。)
「不応性悪液質」の段階になってしまうと、どんな治療も効かなくなってしまい、体重減少・筋肉量低下は進む一方となります。
そしてこの段階に入った多くの方は3ヶ月程度で亡くなるとされています。
不応/不可逆とは、どんな治療にも反応しない(不応)、もう元に戻せない(不可逆)という意味です。
なので、重要なことは、不応性悪液質になる手前の、「悪液質」や「前悪液質」の段階でみつけ、何らかの対処をすることです。
悪液質になったら「もうおしまい」ということではなく、まだ「取り返しがつく」状態なので、
「少し体重が減っただけで、なんともないけど、本当に『悪液質』なの?」という疑問があるかもしれませんが、まだ「取り返しがつく」段階で対処することが重要で、「本当に悪液質」かどうかは正直あまり重要ではないのです。
「悪液質」と考えて対処して、本当は悪液質ではなかったとしても、「よかったね」で済む話で、特に対処しておいて悪いことはないと考えています。
逆に、「悪液質」とわからずに対処せず、「不応性悪液質」に進んでしまうと、そこから色々と対処しても「不応」ですから、時すでに遅しです。
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▼まとめ
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今回は「がん悪液質」についてお話しさせていただきました。
またまたとてもわかりにくかったかと思いますが、体重が減ってきたら「悪液質」かも?と考えて何らかの対処をし始めましょうということだけでも覚えてかえってください。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
また次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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