コーチング脳で『がん医療』を考える⑦
今回は、
自分を知るために、過去の体験を振り返ってみましょう、というお話しです。
これまで『目標』や『目的』が大切だよと書いてきましたが、「がん」にかかってしまい、『目標・目的』なんて考える余裕がない、考えてもよくわからないという方も多いのではないかと思います。
自分に合った『目標』がうまく作れない場合、自己理解が不足していることが多いようです。
では、自己理解を深めるためにどうしたらいいか?
過去の出来事を棚卸しすることで、自分が大切にしているもの=『価値観』に気づくことが、自分を知ることにつながっていきます。
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▼忘れていた過去の思い出が語るもの
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『価値観』という、また難しいものがでてきました。
言葉では聴いたことがあると思いますが、「自分の価値観は?」と尋ねられた場合、「私の価値観は●●です!」と即答できる人はほとんどいないのではないかと思います。
価値観リストという便利なリストがありますので、それを眺めて僕の価値観はなにかなぁ~?って考えてみると、「平安」「余暇」「健康」あたりが目に留まりました・・・疲れているのでしょうかね?(笑)
『価値観』というよりは、ニーズ(必要なもの、満たされていないもの)のようですね。
さてさて、このように価値観とはなかなかすぐには出てこないものだと思います。
では、どのようにして自分の価値観を見つけるのか?
そのヒントが、子供時代から過去を振り返って、楽しかったことや充実感を得た体験を思い出すことにあるとのこと。
子供時代に楽しかったこと、夢中だったこと・・・何がありますか?
僕は毎年夏休みになると、友達と近所の森や林にカブトムシやクワガタを捕りに行っていたことを思い出しました。
こんな思い出に何か価値観が潜んでいるのでしょうか?
少し付き合ってください。
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▼子供時代のワクワク体験エピソード
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もう少し具体的に思い出してみます。
暑い中、連日のように友達と自転車で色々な場所に出かけて昆虫採集をしていました。
朝早く出かけたこともあれば、懐中電灯をもって夜の林に出かけたこともあります。
採取したカブトムシを育てることよりは、採取すること自体が好きだったと思います。夏が終わる頃には大きな虫かご一杯になるくらいでしたし、入りきらなくなると大きいものだけ残して他は逃がしたりしていました。
大きな個体がとれるとそれはそれで嬉しかったのですが、大きさを定規で測ったりはしていませんでしたので、大きさよりは数の方が大切だったんだろうなと思います。
とはいえ、数も数えていた記憶はないので、何がそんなに楽しく夢中になっていたのでしょうか?
ここまで書いてきて、思い出したことがあります。
昆虫採集をしていて、とりわけワクワクした瞬間は、新しい採取場所を発見したときです。誰かが教えてくれた場所ではなく、自分たちの経験を生かして、こういう所を探してみたらカブトムシがいるのではないかと、少し足を延ばして今までいったことのない林にいってみる。そこで実際にカブトムシを発見する。それも1匹ではなく、たくさん採取できたりしたとき、本当にワクワクしたことを思い出しました。もちろん空振りだったこともたくさんあったと思いますが、それはそれで失敗ではなく、今度はあちらの方面に行ってみようなど新しいチャレンジの始まりを意味していたと思います。
そんな毎日の中、近所のよく知っているおじさんから話しかけられました。
「今日もムシ採りか!最近はどの辺で採っているんだ?」
僕たちは自慢げに、ずっと遠くの場所まで採りに行っていると答えました。
するとおじさんは・・
「そんなに遠くまで行かなくても、あそこのため池のそばでたくさん採れるぞ!知ってるか?」とのこと
おじさんの指すため池はよくザリガニ釣りをしている場所なので、僕たちもよく知っています。しかし、その近くでカブトムシを採ったことはありませんでした。なのでおじさんに、「あそこはよく知っているけど、カブトムシなんか採れるの?採れそうな木なんてあったかなぁ~?」と答えました。
「じゃあ、ちょっと一緒に行ってみるか」
歩いて数分の場所で、しかもよく知っている場所。ここで本当にカブトムシなんて採れるのか、おじさんの勘違いではないかと僕たちは半信半疑。
おじさんは、ため池を過ぎ、脇の細い道を進んでいきます。その道は僕たちも何度か行ったことはあるけど、あまりザリガニも釣れないので最近は足が遠のいていました。とはいえ、ため池からそれほど離れておらず、ザリガニ釣りをしていてもそこから見える範囲の場所です。
ため池につながる小さな小川が流れており、その小川に沿って、小学生だった僕たちの背丈ほどの木がポツリポツリと生えています。
「この木だよ!」とおじさんに言われても僕たちはピンときていません。目の前にあるのはとても小さな木(多分ヤナギの木だったと思います)。僕たちが普段カブトムシを採っているのはずっと大きなクヌギやナラの木でしたから、こんな小さな木にカブトムシなんているわけないじゃんと思っていました。
ところが、おじさんがその木を足で蹴ると、ボトボトボトと、一蹴りで10匹以上のカブトムシ・クワガタが地面に落ちてきます。
唖然としている僕たちにおじさんは「ほら、早く拾わないと逃げちゃうぞ!」
10メートルくらい離れた隣の木でも、ドンと蹴ればまたボトボトボト。
小さな木なので、小学生だった僕たちが蹴ってもボトボトボト。
この日だけで、これまでのひと夏分のカブトムシやクワガタを捕まえたほどでした。
とても興奮しながら帰宅した記憶がありますし、その後おじさんに教えてもらった場所以上の場所を見つけるべく、より熱心に色々な場所を探索しました。
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▼腫瘍内科は天職?
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ここからが本題!
「この出来事の何が良かったのだろうか?」
「このエピソードから僕が大切にしたいこと(価値観)は何だろうか?」
と考えてみました。
『冒険』『探求』『柔軟性』『知識』・・・
こんなキーワードが思い浮かびます。
僕は研修医などから「何故、腫瘍内科なんて選んだのですか?」という質問を受けることが多いのですが、いつも「楽しいからだよ」と答えていました。
とはいえ、「何が楽しいのか?」と尋ねられても、これまではあまりハッキリとした答えができませんでした。
今回、上のようなエピソードを思い出してみて、改めて考えてみると、腫瘍内科という仕事の中にこれらのキーワードが明らかに含まれていました。
『知識』はいうまでもなく、次々と増え続ける抗がん剤の知識、副作用マネジメントの知識、臨床試験の結果から得られる知識などなど。腫瘍内科をしていると常に新しい知識を得る必要があり、これを苦痛に思う方は腫瘍内科医に向いていないかもしれません。
『柔軟性』も大切です。臨床試験やガイドラインはあくまでも基本。実際の患者さんにはそのまま適応できないこともしばしば。そのような場面では柔軟に対応する必要がありますし、柔軟な対応ができないと日常診療では良いがん治療はできないように思います。
『探求』もしかり。日々『探求』の連続といっても過言ではないと思います。同じ抗がん剤でも人により効果も副作用も様々。それらにあわせてその人にあった対策をとる。一人として同じ対応はない。常に正解を探し求めているのが腫瘍内科医かなって思っています。
『冒険』・・・。僕自身はあまり冒険=危ない橋を渡る方ではないと思っています。しかし、がん患者さんが冒険したいという思いが強くある場合、それを応援したいとは思っています。例えば、初診の時点で病状が逼迫し、かなりギリギリの体調であっても、本人が抗がん剤治療にかけたい、一度は頑張ってみたいという気持ちが強ければ、僕はそれを応援し、できうる限りの治療を検討していきたいと考えているということです。
僕は腫瘍内科の仕事が好きで、自分に合っていると感じていましたが、どうしてなのかは不明でした。
今回のワークを通じて、自分の価値観に合った仕事だったからだということがわかり、大変スッキリしました。
また、これからもこのまま腫瘍内科医を続けていっていいんだと、勇気が湧いた気がします。
皆様も是非、過去の感情が動いた体験を思い出してみて、その中から自分の価値観を探してみてはいかがでしょうか?
とってもお勧めです!
今回、文章が大変長くなってしまいましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
“コーチング脳で『がん医療』を考える”シリーズ⑦はいかがでしたでしょうか?
何か参考になることがありましたら嬉しいです。
次回以降もどうぞよろしくお願いいたします。
この文章は、宮越大樹さんの著書『人生を変える!「コーチング脳」のつくり方』(ぱる出版)を教科書として、『がん医療』にコーチングを応用する方法について考えておりますので、まだ本書をお読みでない方は是非とも読んでみてくださいませ。
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