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社会人3年目の後輩が、仕事をやめた。

後輩が仕事を辞めた。転職ではなく、退職した。

入社から3年間一緒に働いていたのに、辞めるほどつらかった彼女に、退職直前まで私は気づかぬままだった。

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徳永さんは、新卒入社した私の後輩だ。OJT研修の時からずっと見てきた後輩の1人で、研修の時から真面目すぎるほど真面目だった。大学時代に小説を書くなどWebメディアへの適性も高く、「絶対徳永さんメディア部署に欲しいです!」と人事に猛プッシュした。

その甲斐あってかWebメディアの部署に配属された彼女は、想像以上の仕事ぶりを発揮してくれた。彼女の素晴らしいところは仕事ぶりだけでなく、コミュニケーションの面でも発揮されていた。

音楽、漫画、アイドル、小説…どんな趣味にも話を合わせられる知識の広さ。否定的なことは一切言わず、何を言っても全肯定してくれる寛容さ。人当たりがいいので、後輩の指導も採用したアルバイトスタッフの育成も、安心して任せられた。

配属されてから数ヶ月後、私と徳永さんは別々のチームで働くことになったけど、ランチの時に休憩室でお喋りしたり、たまに一緒に仕事をしたり、定期的に関わる機会はあった。

だから、仕事や人間関係で悩んでいるのも知っていた。大きな問題が起きたわけではないけど、リーダーと自分のやり方が合わなかったり、意見を言いづらかったり、色々と悩むところがあるようだった。

他のチームの問題に首を突っ込めない私は、その状況を知っても徳永さんから話を聞くことくらいしかできなかった。その後、徳永さんの悩みは完全に解決したわけではなかったけど、折り合いをつけながらチームで仕事をしているようだった。

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入社から2年が経ち、徳永さんは結婚した。結婚を機に、夫の職場である岐阜に引越して、岐阜からフルリモートで働くことになった。そこから退職までは割と早く、岐阜に引越してから約半年で退職が決まった。

退職理由は、新しく任された仕事でいっぱいいっぱいになり、心身共に疲れてしまったからだった。仕事に支障が出始め、休みがちになり、長期休暇をとる予定が、結局退職することになった。

徳永さんは引っ越した環境に慣れなかったわけでも、新婚生活でうまくいっていないわけでも、専業主婦になりたいわけでもなかった。仕事で疲れた心身を本気で回復させるために、一度仕事から完全に離れたいのだという。

人事と徳永さんの面談が終わって退職が決まった時、不謹慎だけど、少し羨ましく思った。転職ではなく、キッパリ仕事を辞めるという決断ができる彼女が。仕事を辞めてもいいと言ってくれる、彼女の夫と両親が。仕事を辞めても当面生きていけるだけの経済的余裕が。

本当はこんな風に妬んだり僻んだりしたくない。でも、今の私が選ばない選択肢をことごとく選んでいく彼女を、本当にすごいと思ったのだ。私も本当に本当に仕事を辞めたくなったら、辞められるのかもしれない。夫も両親も辞めていいよと言ってくれて、実家で暮せばお金も問題ないのかもしれない。

だけど、本当にそれを実現するには、理解してもらうだけの説得が必要だし、その間経済的に迷惑をかけることは間違いない。その先の人生を考えて最良の選択かどうかは私自身もわからないし、そこまでして仕事を辞めたいのかと言われると、そこまでの理由はないかもしれないー

仕事を辞めるという決意をするまでに、彼女がこうしたたくさんの決断と相談をしたのだと思うと目眩がする。メンタルがつらい時、辞める決断をするよりも、惰性で続ける方がよっぽど楽なのかもしれない。だけど、彼女は自分の人生と向き合って、周りを説得して、仕事を辞める決意をした。その意思の強さと行動力に、私は尊敬と嫉妬をした。

子供がいるわけでも、誰かを養っているわけでもないのに、大切なものが増えすぎたなんて私は考えている。私にとって本当に大切なものは、コーヒーを飲んで読書する時間だけだったはずだ。だけど、信頼して一任してくれる仕事も、夫を支えられるだけのお給料も、全部手放せなくなってしまった。私が何かを手放せるようになるのは、今よりもっと大切なものができた時なのかもしれない。

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