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俳句とエッセー⑱『 海山村Ⅱ - 掌 の か た ち - 子 年 考 』 津 田 緋 沙 子


   掌 の か た ち


少  年  の  ひ  み  つ  鳥  の  巣  見  つ  け  た  る
鳥  の  巣  や  窪  め  た  る  掌  の  か  た  ち  し  て
春  分  の  日  の  ペ  ン  先  の  影  淡  し
段  畑  の  そ  の  天  辺  の  揚  雲  雀 
揚  雲  雀  ナ  ナ  ハ  ン  バ  イ  ク  疾  走  す
白  魚  を  食  べ  て  散  り  散  り  赴  任  せ  り
白  魚  和  え  祖  母  の  や  さ  し  き  手  の  記  憶
 

  子  年  考

 嘘か本当か解らない話。赤ん坊の時に私はねずみに醤られたと
祖母や母の昔話で語り継がれたこの話は、今でも家族や身内でね
ずみの話題になる度に出てきて皆笑い転げる。子年の二女が一番
大笑いする
 今年もきっとと思っていたら暮れに夫が入院。静かな年末年始
に私はひとりで赤ん坊の自分を思った。ねずみの話で笑い転げて
いた普通の日々の有難さを思った。
 そんな時、友人の書いた短編小説「餌食」が新春文芸賞を得て
新聞に掲載された。舞台は諌早多良の森。リスクを承知で生きる
ために餌に邁進する赤ネズミの行動に「生きるためには勇敢なだ
けでも臆病でも駄目。細心の注意と判断力、何より目立たないこ
とが大切」と悟り、クルド難民キャンプへと旅立つ青年の話であ
る。
 朝タ眺める森の小さな赤ネズミを私は初めて意識した。美しい
森の中の厳しい食物連鎖、強者と弱者の現実は、人間の世界にも
あてはまる。よだかの星は今も輝いているか、窮鼠猫を噛む程の
気魄が私にあるか…。そんなことも考えた新年である。(了)

 下記に、これまで公開した津田緋沙子さんの俳句とエッセーをまとめましたので、ご一読いただければと思います。




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