俳句とエッセー⑳『 海山村Ⅱ - 青時雨 - 兼題「白靴」 』 津 田 緋 沙 子
青 時 雨
お 出 か け の 一 家 と り ど り 夏 帽 子
子 は 父 の 麦 わ ら 帽 子 被 り た く
飼 育 科 の 生 徒 揃 ひ の 麦 藁 帽
新 し き 卒 塔 婆 を 濡 ら す 青 時 雨
白 靴 や フ ラ ン ク シ ナ ト ラ 風 の 人
白 靴 や 渓 の 吊 橋 渡 り 切 る
カ タ カ ナ 語 溢 る る テ レ ビ 積 乱 雲
兼 題 「 白 靴 」
玄関に並んだ五才の孫の靴。きれいなピンクにアニメの絵柄、
何だかあちこちキラキラしている。子の母によると「疾風」とい
う名までついているそうな。
本当に最近の靴コーナーは色とりどりだ。白い運動靴など探す
のに苦労する。駅伝やマラソンの選手の靴も蛍光色鮮やかにぴょ
んぴょん跳ねている。
白い運動靴で青春時代を過ごした私の一番の思い出は土曜日の
靴洗いだ。母の下命で、姉弟四人、運動靴と上靴をごしごしと洗
ったものだ。靴などそう頻繁に買ってもらえるものではなかった。
村には父が利用する靴の修理屋さんの小さな店もあった。
兼題の「白靴」に思い巡らすうちに、浮かんできた思い出があ
る。 NHKの確か「私の宝物」という番組。その回に登場した老
夫婦の宝物は、紫の袱紗に包まれた小石だった。 一人息子が特攻
隊で出撃する時、細々と靴修理の店を営む身では旅費を工面する
ことが出来ず、会いに行けなかった。戦後、やっと知覧の記念碑
を訪れた日、 ここを息子が歩いたかもとこっそり拾って持ち帰っ
たものだと。
なかなか俳句はできないが、兼題に難行苦行する時間が、私に
とっては豊かな時間のような気がする。 (了)
下記に、これまで公開した津田緋沙子さんの俳句とエッセーをまとめましたので、ご一読いただければと思います。
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