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コロナ禍なのに死亡数が減る日本の謎。


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こんにちは、医師&医療経済ジャーナリストの森田です。

早速ですが、今日の話題。「人口動態統計速報」です。

これは、日本人の死亡数や出生数などの速報で、毎月厚労省から報告されるものです。普段はそこまで注目されないこの人口動態速報ですが、ここ半年のものには大きな意味があります。

そう、日本の医療・介護事業だけでなく経済活動から学校活動までありとあらゆる人間の活動に大きな影響を与えた『コロナ禍』で、果たして日本の死亡総数がどれだけ増加したのか?という素朴かつ最も重要な事実がこの統計で分かるからです。



ちなみに、世界各国の死亡統計はこのような形で推移しています。多くの国がこのコロナ禍で例年より死亡数が増えてしまっているのがわかると思います。


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出典:Financial Times https://www.ft.com/content/a2901ce8-5eb7-4633-b89c-cbdf5b386938


アメリカでは死亡者数が例年の24%増し。イギリスは37%増し、イタリアは38%増し…かなり、欧米を中心に死亡者数が増えていることが分かります。

ペルーなどは例年の156%増し…、つまり例年に比較して2.5倍も死亡者数が増えている…

欧州や南北アメリカで新型コロナ感染症がいかに猛威をふるったかがよく分かります。

では、日本ではどうだったのか?それがこちら。

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出典:厚生労働省「人口動態統計速報」令和2年7月分(9月25日発表)https://www.mhlw.go.jp/.../jinkou/geppo/s2020/dl/202007.pdf



赤い線が今年の死亡者数で、青い線が例年の死亡者数。

なんと、このコロナ禍でかえって死亡者数が例年より減っているんですね。


日本など東アジア各国のコロナ死亡者数が世界的に見て非常に少ない、という情報はよく報道されていたので知っていた方も多いと思います。でも、「死亡者数が例年よりも減っている」という事実はかなり意外に思われる方が多いのではないでしょうか。

新型コロナ感染症の死者数はこれまでの総計で約1500人、月別にすると数百人、というところでしょう。日本人の総死亡者数は月に10〜15万人ですので、コロナの数百人は誤差範囲だったのかもしれません。


その理由として考えられるのは、

・高いマスク着用率
・優秀なクラスター対策
・国民レベルでの行動自粛・休校措置
・BCG仮説
・交差免疫説

など色々ありますが、僕にはどれが正解なのか分かりません。どれか一つではなく、複数が複合的に絡み合って日本の低い死亡率に寄与しているのかもしれません。(東アジア各国に共通している可能性を考えると、最後の2つが有力かもしれませんが)


ただ、僕は今こう思っています。

「理由はどうあれ、日本も中国も韓国も台湾もモンゴルも例年に比してほとんど死亡者数が増えていない。コロナ発祥国にして世界で最初に感染拡大した中国の周辺国が全て低被害で済んだ状況をみて、これらの国で今から欧米並みに感染爆発が発生するということは常識的に考えて想定しにくいだろう」

と。

理由探しも大事ですが、それが判明するのはいつになるか分かりません。それにもまして重要なのは、わかっている現状をしっかり分析して、想定される未来を予見し、速やかにギヤチェンジしてゆくことではないでしょうか。

 緊急事態宣言や営業自粛要請で経済を止めること。
学校を休校にして子どもたちから教育や友達との交流の機会を奪うこと。
ソーシャルディスタンスや外出自粛で高齢者の生活を制限し孤立を促進してしまうこと…そしてそれらを今後ずっと続けなくてはいけない?という社会的圧力。
これらは、日本社会の根底を、いや「人との交流の中でしか生きていけない人間」としての根本的な何かをこともなげに奪い去る大きな嵐のように感じます。

特に、新型コロナの死亡者の大半は高齢者です。高齢者の終末期を毎日診療している立場から言わせていただければ、徐々に体力・免疫力が低下している高齢者の最後の病態がコロナだろうがインフルエンザだろうが肺炎球菌だろうが大した問題ではありません。仮に入院して人工呼吸器をつけて死を回避できたとしても、それは死を先延ばしにしているだけかもしれません。それよりも、そこに至る過程にいかに寄り添えるか、それまでの人生をどれだけ生き生きと生きていただけたか、のほうが遥かに重要です。

 そうした諸々のこと、および例年より死亡が増えていないことと併せて考えると、前回のような「緊急事態宣言」はメリットとデメリットのバランスが非常に悪かったのではないかとも思います。


 大事なのは未来です。

 今後、秋〜冬の風邪シーズンにかけて日本でも第1波と同規模くらいの感染拡大があるだろうことは容易に想像できます。

 コロナウイルスはゼロにはなりません。おそらく秋冬でまた感染者数も死亡者数も増えてくるでしょう。その時また緊急事態宣言や休校措置を取るのでしょうか?その時大事なのは、それらのデータがどれほどの規模のものなのか、どういう意味合いのものなのか、をしっかりと把握することです。

 来たるべき風邪シーズンにむけて、コロナ冷静な現状分析とバランスの良い政治判断を求めたいと思っています。


 



追伸:そんな話を書いた拙著が9月30日に発売となります。

是非どうぞ(^_^)

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夕張に育ててもらった医師・医療経済ジャーナリスト。元夕張市立診療所院長として財政破綻・病院閉鎖の前後の夕張を研究。医局所属経験無し。医療は貧富の差なく誰にでも公平に提供されるべき「社会的共通資本」である!が信念なので基本的に情報は無償提供します。(サポートは大歓迎!^^)