見出し画像

【医師直伝】インフルエンザの新薬ゾフルーザ【耐性ウイルスは?メリット・デメリットは?3分超解説/2020年最新版】


画像1

こんにちは森田です。 

報道によると、今年はインフルエンザの流行が例年よりだいぶ早いみたいですね。

日々の外来診療や在宅医療でもボチボチ患者さんが出始めております。

報道といえば、インフルエンザの新薬『ゾフルーザ』についても『耐性ウイルス』のニュースが出ています。



そんな事いわれても・・そもそも

『耐性ウイルスって何?』
『新薬のメリットは?デメリットは?』
『で、結局飲んだほうがいいの?』

って思いますよね。

果たして去年日本で一番多く飲まれた新薬『ゾフルーザ』。

今シーズンは大丈夫なの?それとも飲まない方が良いの?

今回はそのへんを超簡単に3分で解説したいと思います。



◎新薬「ゾフルーザ」の基礎知識。「何が新しいの?」



薬を飲む患者さんにとってもっとも新しい点、それは、


「一回飲めば治療終了!」


これに尽きるでしょう。

これまでの薬は、

1日2回を5日間=計10回のタミフル(内服)リレンザ(吸入)とかでしたから。

ま、唯一「イナビル」は一回のみで終了できたのですが、こちらもリレンザと同じく「吸入薬」で、粉末を気道・肺に吸い込む形式の薬。ちゃんと肺に入ったのか?なんて考えるとやはり小さな子供とか高齢者には使いにくい感じでした。

その点、今回の新薬ゾフルーザは、


「ほんとに一回で終了、しかも飲むだけで簡単!」


なので、患者さんにとってはとても楽ちんですよね。




◎ゾフルーザの作用機序


薬の作用機序なんて興味ないと思いますので、飛ばしたいところですが、一応簡単に。

これまでの薬インフルエンザウイルスが体内の細胞内に入り、細胞の中で増殖したあと細胞外に出ていくところをブロックしていたんですね。

でも、今度の新薬「ゾフルーザ」は、その細胞内での増殖自体をブロックしてくれるとのこと。

なので、その効果として以下が挙げられます。【新薬を開発したシオノギさんが強調するのは、ここ!】


  ウイルス検出期間が短縮される!


と言う効果です。


つまり、増殖自体をブロックしてくれるから(?)インフルエンザにかかってもウイルスが早く体内からいなくなってくれる効果がある。ということですね。これまでのタミフルよりだいぶ短縮されたと報告されています。(ウイルス検出期間中央値はゾフルーザが約24時間、タミフルが約72時間、偽薬で約96時間)


これは凄い!


と拍手したいところですが、意外にそうでもないというデータも。

実は、


  症状が改善するまでの時間はタミフルと大差ない。


らしいです。

じゃ、意味ないじゃん!

と言う声も聞こえてきそうですね。ごもっともです。


ウイルスが早く体内から消えてくれることも大事ですが、患者さんにとってもっと大事なのは早くつらい症状がなくなることですから。


そういう意味では、効果は限定的なのかもしれません。

インフルエンザのつらい症状の代表格は、頭痛・発熱(またそれらによる倦怠感・食欲不振)などですが、これらの症状は解熱剤で抑えることが出来ます。解熱剤で楽になると食欲も出て回復も早いかもしれません(ただし、熱がある方が回復も早いとも言われています)。インフルエンザのときに病院でもらう解熱剤の代表格はアセトアミノフェンですが、実はこれ、病院の薬と同じ成分のものが市販薬でも買えます。(詳細は末尾)




◎「ゾフルーザ」のデメリット

そう、もちろんデメリットもあります。大体この3つくらいでしょうか。


  1. 価格が高い

■ ゾフルーザ:約4800円
   (3割負担で約1500円)


ちなみにこれまでの薬はこれくらい。

・イナビル:約4300円 (3割負担で約1300円)

・リレンザ:約3000円 (3割負担で約900円)

・タミフル:約2700円 (3割負担で約800円)

・タミフルのジェネリック:約1400円(自己負担400円)


新薬になるほど高い感じですね。

ちなみに以上は薬代だけのなので、実際の窓口での支払いには診療代・検査代などがプラスされます。


  2.ウイルスの変異(耐性ウイルス)が出やすい。

ここで報道で話題の『耐性ウイルス』の話が出てきます。

耐性というのは、体内で薬の攻撃を受けたインフルエンザウイルスが、その攻撃を勉強して自分を変化させ、薬を効かなくしちゃうこと(ウイルスの変異)。

なんと言うことでしょう!

実は、他の菌やウイルスでもそうなのですが、インフルエンザウイルスは薬に対して耐性を獲得することがよくあって、以前からあるタミフルでも耐性ウイルスが問題となっていました。

で、新薬ゾフルーザでも同様に耐性ウイルスが高率に出現しちゃった!ということですね。


今回の東京大学の河岡教授から発表された論文(注:下記)によると、

「発売当初ソフルーザを飲んだ人の約1割(小児では2割以上)で耐性ウイルスが生じると言われていた(これでも結構高率)が、去年投与された小児を調べたら3割で耐性ウイルスが出現していた」

しかも、

「ゾフルーザを飲んでいない子供からも耐性ウイルスが検出されており、耐性ウイルスは人から人へ感染するようだ」

といことでした。

3割で耐性ウイルス!しかもそれが感染する!

発売元のシオノギさんには、「何という薬を飲ませてくれたんだ!」という苦情の電話が相次いでいるということ(-_-;)。ま、それも仕方ないかもですね。。

といことで、各学会も対応しています。

■小児科学会は、『小児に対する積極的な投与を推奨しない』

■感染症学会は、『成人への投与は保留、小児へは慎重投与』

と発表しました。

まだ1年しか使用実績がない薬なので、専門家でも意見が割れているんでしょうね。


『…あ、成人への投与は保留ね。大人は大丈夫なんだ。』

と思うのはまだ早い!デメリットはもう一つあります。


  3.副作用が出揃っていない可能性がある

新薬というのはなんでもそうなのですが、臨床試験(発売前のテスト段階)ではわからなかった副作用が新たに判明することが多々あります。

タミフルでも「こどもの異常行動」などが発売後に騒がれました。

(異常行動については、そもそものインフルエンザの症状なのかタミフルのせいなのかはよくわからず、結果として今はタミフルの小児への投与制限は解除されています、ただし投与した場合の保護者への注意喚起は続いています) 


特に今回の新薬「ゾフルーザ」は、作用機序がこれまでの薬と違うので、副作用についても新しいものが今後判明する可能性は否定できないでしょう。

また、副作用のことを考えると、1回で治療が終了するというメリットはデメリットにもなりえます。タミフルなら副作用が出た時点で内服を中止すれば薬は比較的早く体内からなくなりますが、ゾフルーザの場合1回で治療が終了する=つまり薬が長く体内にとどまり効果が持続するということで、その結果、副作用も長引いてしまう可能性も十分に考えられるからです。



で、結局どうなの?


これまで見てきたメリット・デメリットを総合して考えると、一医師個人としての意見は

「特別な理由がない限り処方することはあまりないかな〜」

と言うところです。


ま、そもそもインフルエンザの場合、薬がどうこうというよりも、まず

◎ワクチンをうつ

 で、それでもインフルにかかってしまったら、

◎安静・休養・栄養

 が大事。

新薬も含めて、インフルエンザ薬の効果は「発熱などの症状を半日〜1日程度早く直してくれる」というくらいの限定的なものです。しかも使うだけ耐性ウイルスが増えるかも…。だったら、しっかりと休んだほうがいいのかな〜、とも思えますね。

この辺のインフルエンザの感染〜服薬〜治癒、などの詳細については、次回で書こうと思っております。


以上、インフルエンザの新薬「ゾフルーザ」についての3分解説でした。



【おまけ】 

インフルエンザのときの解熱剤はロキソニンなどのNSAIDsは使いにくく、 アセトアミノフェンという薬がよく使われます。特に小児の場合はアセトアミノフェン以外は副作用の危険があり使われません。

実はこれ、病院でわざわざ処方箋をもらわなくても薬局で買えます。
以下の3つの薬は、他の薬効成分は入っていない「アセトアミノフェン」単剤の市販薬です。つまり、基本的に病院でもらう薬と同じ。薬剤師さんと相談しながら使うといいですね。(我が家では必須の常備薬です。)

病院で処方される場合、アセトアミノフェン300~500mg前後が一般的な大人の一回分です。



 ◎ノーシンAC

(1錠中アセトアミノフェン150mg、成人は1回で2錠)



 ◎小児用バファリンCⅡ

(1錠中アセトアミノフェン33mg)



 ◎バファリンルナJ

(1錠中アセトアミノフェン100mg、成人は1回で3錠)


注:東京大学の河岡先生の元論文はこちら。
Influenza A variants with reduced susceptibility to baloxavir isolated from Japanese patients are fit and transmit through respiratory droplets
Masaki Imai, Makoto Yamashita, Yoshihiro Kawaoka :Nature Microbiology (2019)
https://www.nature.com/articles/s41564-019-0609-0



注:この記事は投げ銭形式です。

医療は誰にでも公平に提供されるべきと思っていますので
医療情報は基本的に無償で提供いたします。
でも投げ銭は大歓迎!\(^o^)/
投げ銭頂けましたら必ずコメントをお返しします。
いつも一人で寂しく原稿を書いているので、
皆様の投げ銭から大いなる勇気を頂いております!
ありがとうございますm(_ _)m


僕の本

画像2

財政破綻・病院閉鎖・高齢化率日本一...様々な苦難に遭遇した夕張市民の軌跡の物語、夕張市立診療所の院長時代のエピソード、様々な奇跡的データ、などを一冊の本にしております。まさにこれが地域医療・地域包括ケアシステムのあるべき姿だと思います。
日本の明るい未来を考える上で多くの皆さんに知っておいてほしいことを凝縮しておりますので、是非お読みいただけますと幸いです。

画像3



著者:森田洋之のプロフィール↓↓

ここから先は

0字

¥ 500

夕張に育ててもらった医師・医療経済ジャーナリスト。元夕張市立診療所院長として財政破綻・病院閉鎖の前後の夕張を研究。医局所属経験無し。医療は貧富の差なく誰にでも公平に提供されるべき「社会的共通資本」である!が信念なので基本的に情報は無償提供します。(サポートは大歓迎!^^)