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【台湾建築雑観】設備工事のトラブル

台湾では、設備工事に関するトラブルがとても多く、いくつかの内容は日本ではあまり遭遇することのない問題です。
ここでは、僕が自分で経験した、或いは友人の相談を受けた、具体的な設備工事のトラブルを紹介してみます。

1) キッチンが水浸しに

2年ほど前、台南で働いている友人が連絡をしてきました。設備工事のトラブルに巻き込まれているのだが相談に乗って欲しいというものです。

彼女は、比較的古いマンションの3階に住んでいました。およそ築20年は経っているだろうと言っていました。このマンションで、自分の厨房の排水口から排水が流れ出てくるというのです。大家さんに言っても埒が空かない。この様なことになる理由は何なのか、どの様な対応をお願いしたら良いのかということでした。

それで、具体的な建物の状況と問題点をヒアリングしました。

  1. このマンションは1階と2階を店舗に使っている住宅階は3階から7階まで彼女は3階に住んでいるということでした。

  2. 出てくる排水は比較的綺麗な水。透明で臭いもない。

  3. このトラブルは既に2回遭遇している。今回が3度目。その都度対応してもらっているのだが、この様なことが起こる根本的な理由がわからない。

上記の様な説明を聞いて、僕の推測するこの排水の逆流の理由を説明しました。

  1. すぐ下の階が住宅から店舗に変わっているので、3階の直下で排水配管の振り回しが起こっている可能性が高い。店舗と住宅では平面形状が違うので、排水の縦配管の位置が変わるため、排水を横方向に移動させているということです。この横引き配管部分で汚れが溜まり、排水管が詰まっていると考えられる。

  2. 日本ではその様な横引き配管がある場合、適宜点検口を設け、そこで配管内の掃除ができる様になっているが、台湾ではその様な点検口がない可能性もある。そうした場合、上の階からしか掃除ができない。方法としては日本であれば高圧洗浄を行う。できなければ、ブラシを配管の中に入れて、汚れを削ぎ落とすくらいしか方法がない

  3. 最近の排水設備設計では、この様な横引き配管がある場合、その直上階でこの様な事故が起こることを避けるために、配管をもう一層下まで延ばし接続する様にしている。台湾の古い建物ではその様な配慮がない可能性がある。

そして、下記の様な簡単なスケッチを書いて友人に渡しました。建築の技術的な説明には、ビジュアル化して示すことが有効と考えているので、この場合も文字だけではなく、図版を添付しました。

友人に示した参考図

この説明を聞いて、この友人は大家さんを相手に理由はこの様に考えられると説明したそうです。そして、下の階の排水配管の清掃を依頼して、何とか対応をしてもらったとのことでした。それでも、大家さんと設備業者に対してかなり粘って説得したらしいです。これまでの、彼らとのやり取りでは、原因が分からないままだったので、うやむやにされていたが、今回は原因を特定できたので食い下がったと言ってました。

我々が今住宅計画で行っている設備設計では、この様な横引き配管では、直上階の配管はすぐ下では幹線配管には接続しない様に設計しています。もう一つ下の階で接続して、排水が逆流して流れ出る様なことを物理的に防いでいます。
また、横引き配管では、適宜清掃口を設け日常のメインテナンスをできるようにし、この様なトラブルが起こらないように、あらかじめ対応をしています。そして、仮に起こっても、その様な清掃口が設けられていれば対応は比較的容易です。

台湾の古いマンションでは、その様な計画的な配慮がされていないということですね。

2) 浴室の天井から滝が流れる

次は、僕の住んでいるマンションで起こった出来事です。

ある夜突然、浴室の天井から音を立てて水が溢れてきました。量としては水道の蛇口を全開にした様な勢いで、止まらずに水が溢れ出てくるのです。まるで小さな滝の様な状態です。おかげで、バスルームは水浸しになり、尚且つ水の止めようがありません。

原因は、天井内に設けられている何らかの配管が壊れたことと考えられました。しかし、天井裏は真っ暗で様子が分かりません。とにかく水を止めないといけないので、どうしたら良いか考えました。
日本ではこのような場合、どうしても水を止めたければ、玄関脇にある水道の元栓を閉めれば良いと考えます。しかし、台湾の集合住宅では玄関周りに水道の元栓はありません。僕は幸いに、台湾の集合住宅の元栓がどこにあるか知っていました。普段から台湾の集合住宅の設備設計図書を見ながら工事の打ち合わせをしているので、元栓のありかも分かっていたのです。

直ぐに管理人に電話をして、屋上にある僕の部屋の水道元栓を閉めてくれ。今浴室が水浸しで大変なことになっていると連絡をしました。管理人はすぐに事情を理解してくれ、屋上にある水道の元栓を閉めてくれました。台湾では全ての住宅の元栓と水道メーターは屋上にまとめて設置してあるのです
ようやく浴室の滝は止まりました。しかし、その日は仕方なしに水を使えない状態で夜を明かしました。

翌朝、大家さんに連絡して直ぐに設備業者を手配してもらい、浴室の天井の中を見てもらいました。そして、原因は電気温水器の貯水タンクが壊れたことで、もう電気温水器自体を交換しないといけないと言われました。そうであれば、電気温水器の給水配管のバルブを止めてもらえないか。その配管だけ止めてもらえれば、他のトイレや洗面、台所などの水は使えるのだがと業者に聞きましたが、その様なバルブはないということでした
ということは、代わりの電気温水器が取り付けられないと、この部屋の水道は全て使えないということです。そんな馬鹿なと思いましたが、仕方ありません。会社に連絡して、この様な理由で、バスもトイレも使えない。修理が終わるまで、ホテル住まいを許可して欲しいとお願いしました。

その後、2日間ホテルで過ごしましたが、幸いなことに3日目には新しい電気温水器を準備できたので工事すると、連絡が入りました。そして、予定通りに設備業者が来て電気温水器を取り付けてくれました。

このトラブルの原因は、大家さんでもありません、設備業社でもありません。建物のメインテナンスの問題でもありません。電気温水器が壊れることは機械設備なのでありうることです。これは、この様な設備機器の故障が起こった時に、給水配管をそこだけ止めるという配慮をしていない、設備設計の問題です

この様な、設備機器の取り替えに伴う、必要なバルブの設置という問題は、僕は日常的に出会しています。台湾の設備設計の内容を、日本の設備技師がチェックするという業務に関わっているので、日本側からよく指摘されている問題なのです。台湾人が設備設計をする際には、この様な配慮をあまりしません。

しかし、台湾の技術者に聞くと、これは実のところ忘れているわけではないらしいのです。彼らが、この様な設備機器の取り替えに関わるバルブを設けないのは、イニシャルコストを下げるためであると説明を受けたことがあります。直すのは修理業者がなんとかするだろうから、そのお金はコストカットすべきと考えるらしいのです。とすると、この様な問題を知っていても、建物の設計のデフォルトとして、その様な配慮はしないということです。

この、長期的なメインテナンスのための設計的な配慮をしないというのは、台湾の設備設計の大きな問題の一つであると僕は考えています

3) 上の階のスラブから漏水?

もう一つ、我が家で起こったトラブルがあります。

それは、今度は浴室で天井からポタポタと水が落ちてくるという問題です。この部屋には5年ほども住んでいますが、その時初めて出会した問題で、そんなことが起こる理由が全く分かりませんでした。天井内の何処かから漏れていることは確かなのだけど、何処なのか見当もつきません。これも暗い天井の中なので、理由は特定できませんでした。
ただ、この場合はポタポタという水漏れなので、水は止めずに済みました。

そして、翌日また大家さんに連絡しました。とにかくおかしいので、設備業者を呼んで、原因を調べて治してくれとお願いしました。朝早く連絡したので、昼前には業者を連れて来てくれました。

業者が天井内を調べて、漏水はコンクリートから来ていると説明しました。この、日本人的には理解に苦しむ現象も、僕は理由の想像ができました。台湾では、コンクリートスラブ内に給水配管を設置することがよくあるのですそれが原因らしい
そして、大家さんが管理人に電話をして、上の階で内装工事をやっていないか確認したところ、案の定、正に真上の階でリノベーションの工事をしているということでした。そして、そのリノベーション業者を呼んで、お宅の工事で床スラブの配管を壊していないかと問い詰めました。
そうしたところ、浴室のタイル工事のために正に床の配管を付け替えているところだったのです。

日本的な設備工事の常識からは、想像もできない事態です。台湾では、配管を躯体内に設けることが一般的です。例えば雨水配管はよく柱の中に埋め込みますし、給水配管はRCの壁の中に設けます。
日本では、そんな設計をするとその配管の修理はできないし、躯体にもよくないということで、出来るだけしないようにします。
しかし、台湾ではこのように考える事業者は少数派です。台湾人の感覚では、配管は露出すると美しくないので、隠すその手っ取り早い方法はコンクリートの中に埋め込むということです

この日の漏水は、上の階の業者がスラブ内に設けた配管をコンクリートをはつり出して、付け直そうとした際に壊してしまった。その壊れた配管から、コンクリートスラブを伝って、下の階の天井内に染み出していたということだったわけです。
内装工事を行う際に、床のコンクリートを壊して配管をやり直すというこの感覚も、日本人にはありません。日本では打設したコンクリートはできるだけ壊さない。そのまま使うというのが常識です。区分所有の考え方からも、建物のコンクリート部分は共有財産なので、壊してはならないはずです。
しかし、台湾では普通にこのような工事がなされています。床に埋設した電気配管が通電しなければ床をはつり出して、配管をやり直す。壁に設けたコンセントの位置が間違っていれば、コンセントを取り出して、正しい位置でコンクリートをはつり出し新しいコンセントを付け直す。このようなことが日常茶飯事で行われています。それは、リノベーション工事でも同じなのだというのが新しい発見でした。
日本でコンクリート内配管をやるような場合は特別な場合なので、細心の注意を払って間違いのないように施工する。そして、一般的な部分は露出配管とするというのが常識だと思います。

今回のトラブルは、上の階の内装業者が自らの非を率直に認めてくれたおかげで、幸いにすぐに解決しました。しかし、その原因は躯体内に設けた給水配管が壊されたという、日本人の想像を超える問題でした。

4) P.S.が水浸しに

台湾の排水設備設計で、日本ではあまり考えられない様な場所に排水口が設けられているケースがあります。一つは厨房。もう一つはP.S.の中です。

日本では厨房が水浸しになるということは通常は考えません。日本の住宅は木造で作るのがデフォルトであったため、床も木軸構造でフローリング張りないし塩ビシート張といった仕上げになります。その様な床を水を流してモップで拭くという風にはなりません。
それと比べると、台湾の住宅のデフォルトはコンクリート土間の上にタイル張りなので、水洗いをすることが普通です

恐らくこれが理由で、台湾の厨房には排水口を設けるというのが普通の設計です。初めに紹介したトラブルの例も、この厨房の排水口から排水が逆流するというものでした。

一方、P.S.における排水口というのは、理由は別にある様です。これは、P.S.における給排水管そのものから漏水が起こることが多いというのが理由です。そんなことがあるのかと思いましたが、実際に工事現場で、給水配管から水漏れが起こり、P.S.はおろか、廊下全体が水浸しになっている状態を見たことがあります。

これは、設備配管工事の信頼性が低いという問題です。日本でP.S.に排水口がないというのは、設備工事の施工技術がとても高いので、そんな心配をする必要がないからなのでしょう。

台湾の設備設計、工事の問題

これらの設備工事のトラブルを経験してきているので、僕の台湾の設備設計と工事に対する印象は次の様なものです。

  1. 維持管理、長期的なメインテナンスに対する配慮が足りない。これは、ちょっとしたコストをかけて設備計画上配慮しておけば、後々維持管理がとてもしやすいものになるのに、そのコストをかけないのがデフォルトになっている。そのため、習慣的にそれをやらないことになっているのだと考えています。

  2. 設備工事そのものに対する信頼性が低いので、万一のための対応が必要。この問題は、別の局面でも見られるので、あらためて別の文章でも紹介します。

  3. 設備配管の躯体内施工は問題。しかし、社会的な習慣なので、全面的に禁止することは難しい。

  4. 設備の修理業者は、全体の設備工事の内容を把握しておらず、場当たり的な解決しかしない。これは、街の機電設備屋さんのレベルでの話です。彼らでは、設備システムの根幹に関わるような問題に関してはお手上げです。

僕の経験したトラブルから、全体の問題に敷衍するのは、若干問題ありですが、一考察として参考にしてみてください。

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