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学生時代のヨーロッパ旅行(その十八、スペイン)

バルセロナは、有名な建築作品がある街として有名です。アントニオ・ガウディの設計したサグラダ・ファミリア、聖家族教会堂です。

アントニオ・ガウディ

バルセロナにはガウディの建物群がある。これは建築の勉強をしている学生にとっては常識の様なものです。今では、特に建築を学んでいなくても、多くの観光客がガウディの建物を見るためにバルセロナに赴くでしょう。
僕は、大学で近代建築の普及する少し前の時代のことを勉強していました。19世紀末のアール・ヌーボーと言われる時代です。これは、ヨーロッパの建築デザインが古典様式から抜け出して、新たなスタイルを模索している時代です。
同時代の建築家に、スコットランドのチャールズ・レニー・マッキントッシュ、ベルギーのヴィクトル・オルタらがいます。それぞれ独自のスタイルを生み出して、近代建築に向かう歴史の前奏となっています。

バルセロナでは、その世紀末の建築家の代表の一人であるアントニオ・ガウディの建物をじっくり見学することができました。

グエル公園

最初に見学に行ったのはグエル公園でした。この公園で特徴的だったのは、斜めの柱と、モザイクタイルで作られた様々な造形でした。

斜めの柱は、高低差のある公園に上部にルーフテラスを設け、その下に日差しを遮るスペースを設ける場合に、その外側に設けられていました。日本の木造構造物でも、このように足元で外側に開く形はよく使われています。とても安定して見えますね。

モザイクタイルの曲面は、テラスや屋根面、彫刻等に縦横無尽に使われていて、とても印象的です。ただし、このモザイクアートはガウディのオリジナルというわけではなく、これを専門に手掛けていた職人さんがいたようですね。ガウディはこの技術を自分の建物に積極的に採用したということのようです。

斜めに踏ん張る柱
モザイクタイルのアート
モザイクタイルの手摺りの表現

カサ・ミラ

この建物は僕が見学に行った時は、一階周りと屋上だけを見ることができました。

カサ・ミラの建物は、そのファサードのうねうねした曲面が特徴的です。周辺の建物と比べ圧倒的にその存在感が違います。そして石の曲面による表面にスチールのこれも曲線による手摺り。これは鋳造で作られているのでしょうか。それが壁面にアクセントとなり張り付いてます。

屋上に出ると、まるで彫刻のような排気塔や手摺りなどが、グエル公園のように設えてあり、おとぎの国の建物のようでした。

曲面を優雅にデザインしたファサード。
遊び心に溢れた屋上スペース。

サグラダ・ファミリア

サグラダ・ファミリアの礼拝堂は、今から40年前は、東側の"生誕のファサード"が完成したところでした。ですので、礼拝堂の内部空間はまだ室内になっておらず、兄元から枝分かれした柱が徐々に建設中という状態でした。

この時は、尖塔の上に登ることもできました。とても狭い螺旋階段を登って上がるのですが、組積造の建物のため、ぐらっと来たらそのまま地面に落ちるのではないかと、いらぬ心配をしていたことを思い出します。

地下には、サグラダ・ファミリアの全体模型が置いてあり、完成した暁の勇姿が偲ばれ、その時の状態では、まだ側面の塔が4本完成しているだけなのだと知り、大変な工事を行っているのだなと感無量でした。
構造模型として、天井からロープで吊った物が置いてあり、模型で表現されている複雑な柱の形状の由来が分かるようになっていました。現代の構造解析による力学的分析ではなく、このような重力による直感的な形を根拠としていることに、不思議な説得力を感じました。

グエル公園やカサ・ミラの後に、このサグラダ・ファミリアを見ると、この建物がアントニオ・ガウディのデザインヴォキャブラリーを最大限に活用した、とても大胆な作品だということがよく分かりました。
また、とても精巧な手仕事による、宗教的なデザインだなという印象も持ちました。近代の建築というのは、資本主義的な経済の論理で建てられており、予算にしろ工期にしろ、経済的に合理的なものでないと建てられません。それに比してサグラダ・ファミリアは100年以上の時間をかけて建設が続けられていると、その当時は説明されていました。このような建物は、中世ヨーロッパで実現していたものであっても、現代のヨーロッパでは他の国では実現しないでしょう。もっと工業的な、合理的に建設できる設計と工法で作るに違いありません。このような組積造で、まるで巨大な彫刻を刻む様に作る建物は、現代では他にない様に思います。この様な建設プロジェクトを今でも続けているスペインという国は、とても異なった宗教的情熱を持っているのだろうと考えました。

1980年代のサグラダ・ファミリア
構造架構の模型。

バルセロナの街区

アントニオ・ガウディの建築群の他に、バルサロナの街で気になったことがあります。それは、街の構造が、正方形の街区で整然と構成されていることです。これは、1860年代に採用された都市計画によるものなのだそうです。
これまで旅してきたヨーロッパの都市では、どこに行っても、河の流れを基本とした曲線の中に街があり、このような直線的な道路のみで作られている街はありませんでした。
東京の街に住み慣れた僕には、この様な人工的な街並みは一様で特徴がなく、とても単調なものに感じられました。これは、バルセロナの土地がとてもフラットであるから実現したのでしょう。この街にもし丘や河があれば、この様な都市計画にはならなかった様に思います。

正方形のバルセロナの街区

アクシデント発生!

3日間のバルセロナ観光を終えて、南フランスのニースに移動しようと国際列車に乗り込みました。バックパックを荷物置き場に置き、手元にリュックサックだけ置き、列車の指定席に座って出発を待ちました。

出発まで10分ほどあったでしょうか。ふと入口の荷物置場を振り返ると、僕のバックパックはなくなっていました。荷物置場は僕の視線の後ろ側になっていたので、ほんの一、二分目を話した隙に盗まれてしまったのです。
この様な泥棒やスリによる被害は、南ヨーロッパでとても多く発生すると聞いてはいました。そして、僕も見事にやられてしまいました。

幸いに、手元にはパスポート、トラベラーズチェック、現金、航空券は残っていました。しかし、それだけで、他の着るもの、それまで撮った写真のフィルム、旅行ガイドなどが一切なくなってしまいました。
出発まであと5分、さてどうしようと考え込みました。これは、このヨーロッパ旅行で僕が出会した、最大のアクシデントでした。

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