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日本に影響した明代の政治概念

日本に今使われている政治・歴史用語が、その由来はどうも明の時代の言葉にあるようだと思い当たる節がいくつもあります。これは中国の明の時代の歴史を勉強していて気がついたことです。
これは、戦国時代から江戸時代にかけて、直接の人的交流があったためだろうと考えています。

何故こんなことになっているのか、その理由は考証したわけではないので単なる思いつきもありますが、それも合わせて紹介します。

【內閣】

内閣という言葉は、明の時代の政治機構にその源を発しています。明の永楽帝は皇帝の権力が宰相に牛耳られるのを嫌い、宰相制度を廃止、権力の皇帝への集中を図りました。そして、6つの行政の長、尚書には何らの権限も与えずに、皇帝の直属の配下に私的な諮問機関のような形で、内閣を設けたのです。この場合の"内"は、伝統的な中国の官僚組織の中での尚書やそのトップとしての宰相を"外閣"と考え、それとは異なった内側の組織という意味合いを持っています。

現代日本でこの言葉が用いられているのは、明治初期に天皇の元に政府の組織を設けようと考えた時にこの言葉を採用したのでしょう。その当時、天皇の元に行政の組織があり、形式的な形であってもこの内閣という言葉を使うのに違和感はなかったのでしょう。
しかし、現在天皇は国の象徴的な存在となり、実際の政治には関わらないということが明らかな時に、この"内閣"という言葉が使われているのは、相応しくないように思っています。

【首輔大學士・首相】

日本語の首相というのは、英語のPrime Ministerの訳語なのだそうです。直訳すると筆頭大臣になりますね。
一方みんな時代の内閣のトップは"首輔大學士"、略して"首輔"と呼ばれています。この語感と、首相という言い方は何となく似ています。しかし、首相というのは首席宰相の略語なのだそうで、直接の関係は無さそうです。

【鎖国制度】

江戸時代に行われた鎖国制度というのは、国内のキリシタン活動を取り締まる人の往来を断つという意味合いと、貿易を江戸幕府の元に一括管理をして、他の大名の貿易を禁止するという、管理貿易を行うという二つの意味合いがあったと考えています。

この海外との貿易を管理するという意味では、明朝の海禁政策は鎖国政策とよく似ています。この二者の間には時間的に200年ものズレがあり、直接的な関係は無いと思われます。しかし、明朝滅亡の際に多くの清朝の支配を肯じない文化人が日本に来ており、そのうち何人かは江戸幕府のブレーンになっています。朱子学を幕府の公式な学問としたり,水戸には尊王攘夷をテーゼとする歴史観を植え付けたりしています。そんな中、外交政策を司る部門に中国人のブレーンがいて、明朝の交易管理システムのことを教えていたのかもしれません。

【土地測量と徴税制度】

豊臣秀吉が行った政策に、太閤検地があります。農地から租税を徴収するに当たり、その根拠を農地の面積とするため、この面積測量を厳密に行う様にしたというものです。時期としては秀吉が太閤となった1590年ごろと言われています。この政策は、秀吉に先立って織田信長や北条早雲も地方規模ながら行なっていた様です。

この土地測量をしっかり行うという政策は、明朝末期の內閣首輔大學士、張居正も行っています。彼の行った政策は一條鞭法と呼ばれており1580年ごろに全国的に実施されたと説明があります。その政策の源流は更に50年ほど遡っており、地方勢力の反対にあいながら、次第に強制力を伴う様になっていき、強力な指導力のもとに全国で実施される様になったというのは、太閤検地とよく似ています。
そして、この時期が10年ほどしか違いがないということは、中国でこの様なことが行われているということを、日本の大名も何らかの形で情報を得ていて、それを参考にしていたのではないかと考えています。
ただし、これは具体的な人の接触が想像できないので全くの想像ですね。

【朱子学と尊王攘夷論】

幕末の政治に大きな影響を与えた"尊王攘夷"という考え方は、水戸で育まれた朱子学にその源流を持っています。この水戸徳川藩に朱子学の考え方をもたらしたのは、明朝末期の思想家、朱舜水です。

この人物は清王朝に征服された中国大陸は、本来漢民族の土地であるという理念を強く持っており、清朝の元に生きることをよしとせず、日本への亡命を図っています。そして、水戸藩が編纂していた「大日本史」にこの王朝の正当性を説く考え方を持ち込みます。それが、尊王攘夷思想として形を変えて幕末の政局に大きな影響を与えていきます。

明の時代の思想の影響

これらの明朝にその源流を持つと思われる思想や言葉が、現在の日本の歴史・政治用語として使われているということがとても面白いです。これらのことを考えると、清朝よりも、その時に滅ぼされた明朝の士大夫による思想による日本に対する影響の方が、より深いのではないかと考えています。



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