【台湾建築雑観】台北の洪水対策
台北では、過去恒常的に洪水の被害がありました。この土地には基隆河、大漢溪、新店渓の3つの河川から盆地に流れ込んでいるので、台風や豪雨による水の流れ込みが膨大になります。そのため、洪水の被害が多発していました。
この問題は、今は瑞芳にある員山子分洪道や、三重にある二重分洪道により、ほとんど克服されていますが、計画の際には今も洪水対策は必須とされています。この建築計画上洪水に対して配慮されていることを説明します。
防潮板
台湾の建物の一階にある諸々の出入口には、防潮板の設置が義務付けられています。中国語では"防洪閘門"或いは"防水閘門"と言われています。これは、普段倉庫に置かれていて、大雨の際に取り付けられる取り外し式のものと、建物の壁面に組み込まれていて、扉の様に開閉式になっているものとがあります。
取り外し式のものは、一階の普通の扉、玄関の開き扉や自動ドアに設けられていることが多いですね。開閉式のものは、自動車用の車路の入り口にあることが多いです。
この様な防潮板は日本では必ずしも設けられていませんが、台北では基本的に新しい建物にはどこでも設けられています。
GLの設定
また、洪水のために一階が浸水することを防ぐために、GL(Ground Level)に対し1FL(1st Floor Level)をかなり高く設定しています。
日本では、1FL=GL+100とか+200などに設定することが多いと思いますが、台北での計画では+400から+1,000となっていることが多いと思います。これは、仮に道路が浸水したとしても、ある程度の高さになるまでは、床上浸水にならない様にという配慮です。
特に昔の建物では、階段を5段から6段ほども上がる設計になっています。台北ではそれだけ洪水による浸水の問題が深刻だったということです。
地下の入口
この一階のレベルを上げるという処理は、道路からMRTに入る地下への入口でも同じように処理されていることが多いです。下の階に降りるのに何故わざわざ上に何段も上がらないといけないのかと昔は不思議に思ったものですが、これも道路が浸水した時の対策なのですね。
連続しない地下道
台北の地下道は建物と直接繋がっていないケースがままあります。これは、聞くところによると、MRT工事の際に地下トンネル全てが浸水するという事故が起こり、その影響を受けて浸水してしまった建物があったからなのだそうです。
もし万が一再度MRTが水没したとしても、自分の建物には水が来ないようにと、幾つかの事業者は、MRTの地下道から直接建物内に入る入口を設けていません。
ただし、この配慮は最近はあまり見ません。台北市の水害に対して昔ほど心配しなくても良くなったからでしょう。どちらかと言うと、MRTからの人の流れを直接自分の建物に呼び込もうと、入り口を設ける方が主流になっています。
台北の洪水対策
今から20年ほど前、しょっちゅう台北に出張で来ていた頃、台北市が台風により水害に見舞われたことがありました。台北の主要道路は全て20cmから30cmも浸水してしまい、街の機能は麻痺してしまいました。特に酷かったのは基隆河の北側の内湖とか大直といった地区でした。地下一階にオフィスを構えていた事務所が水没してしまい、コンピューターや図面がぜんぶ使い物にならなくなっていました。
つい最近まで、台北では日常的にそのような大規模な水害が起こっていたわけです。今でこそ、員山子分洪道や二重分洪道などと言う土木工事が実施され、台北市が洪水に見舞われることは少なくなりました。
しかし、上に説明したような万一のための洪水対策は、今もって全面的に実施されています。
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