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1996年、台湾初めての総統直接選挙で

2022年8月初旬、アメリカのペロシ議員が台湾に降り立った際、中華民国に対する中国の威嚇はエスカレートし、アメリカ政府はフィリピン海から巡洋艦を派遣して,この中国の動きを牽制しました。

最近、台湾の安全保障に関わる中国の発言が物議を醸しており、日本でも多くの報道がなされています。しかし、台湾に住んでいる僕はそれほどこの問題を心配していません。その理由を書いてみます。

1996年3月の台湾海峡危機

僕が台湾で結婚し、その後台湾での生活を続けていた時、台湾の総統が民主的な選挙で選出されるという事態がありました。
この時に中国の軍事的な圧力はだんだんとエスカレートしていき、中国軍は台湾海峡にミサイルを発射し、この海域での軍事演習の頻度を上げていました。この時のことはwikipediaでもスレッドが立っていますので、詳細はそちらをご覧ください。

交流協会から日本人への避難指示が出た

このとき、中華民国における大使館に準じる組織交流協会からは、在台湾の日本人に対して避難指示がでていました。今のウクライナの事態の様に、戦争になる危険があると交流協会は判断していたのでしょう。
僕は家内が台湾人で彼女と一緒に生活しており、生活の拠点は台北だったので、日本に帰ることはありませんでしたが、企業で台湾に派遣されてきている人たち、またその家族などは少なからず台湾を離れて日本に帰っていました。その時の日本人学校では、生徒の数が半減したと知人から聞いています。

アメリカの空母部隊が台湾海峡を縦断

この時、アメリカ政府は航空母艦戦闘群を派遣し、台湾海峡を縦断するという行動にでました。これは今回のペロシ議員の訪台時にも同じような軍事的プレゼンスがなされていますが、その前例となっている出来事です。
この軍事行動の結果は、とても鮮明でした。中国軍は即座に台湾海峡から退去しています。ミサイルによる威嚇は止みました。まるで、小魚の群れの中をクジラが泳いでいるようだと思いました。中国の威嚇は張り子のトラであることがはっきりと分かりました。

このアメリカ軍による軍事的アピールのあとに、中国による圧力は一気にやみ、台湾における第一回目の民主的な総統選挙は平和裏に実施されることになり、李登輝があらためて中華民国総統に選出され、台湾は新しい時代に入りました。

今回、交流協会からの避難指示はなかった

ペロシ議員が台湾を訪れるというニュースが流れた2022年8月、大枠として事態はこの1996年の総統選挙と同じような経過をたどっています。中国軍による軍事的な威嚇、象徴的なイベントとしてのペロシ議員の訪台。そして今回台湾海峡に派遣されたのは航空母艦ではなく巡洋艦でした。ですので、アメリカ政府としては、今回の危機の度合いは前回ほどではないと考えていたということでしょう。

そして、今回交流協会からは、前回の様な避難の指示はありませんでした。仕事は通常業務のまま推移していました。変化が起こったのは、ペロシ議員の訪台の前後1週間ほど、為替レートが大きく変動していたということぐらいです。

2022年8月初旬の為替レートの変動

このことは、アメリカと日本の外交・軍事関係者の現在の事態に対する判断を示しているのだと思います。何ら心配することはないと。少なくとも1996年の事態と比べてひどいことにはならない。そのような判断なのだというのが僕の理解です。

中国の内政問題

1996年の台湾海峡の危機に際して、中国から中華民国政府に対して、「2、3週間後、弾道ミサイルを台湾に向け発射するが、慌てなくていい」と事前通告があったのだそうです。これは台中間の非公式ルートを通しての通知です。
これに類したニュースは、中国国内での暴動においても聞くことがあります。そのような暴力は、ポーズとして内政的な事情で行われているので、心配しないでくれと裏のルートで情報を流しているわけです。

今回の事態も似たようなもので、中国政府の目的は軍事的な威嚇をすること、そのものではないのでしょう。そのような行動をとっていることを国内向けに示すことの方に意味があるのだと思います。そして、中国の政府の意図はそこにあると、外交筋・軍事筋は判断しているのでしょう。

ですので、僕が心配しているのは、中国の軍事的な脅威を多くのメディアがこぞってニュースにしている事態です。これは画一的です。メディアによる世論の誘導が行われているのではないか。これは長期的に中国を仮想敵国と想定し、そのための軍事的な準備、法的・物理的な準備を整える必要があるという風に、世論の行先を政治がコントロールしているのが現在の状況なのだと考えています。



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