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おばちゃんのアスパラガス

昨年度から町内会の役員をしている。
町内会の仕事は面倒というイメージがあり億劫ではあったが、地域コミュニティに関わりたい、もっと地域の知り合いを増やしたい、あわよくば忙しい時子供をどこかに預けたいという淡い期待があり始めることにした。

今年度も引き続き継続となった役員業務。私の仕事は会計である。
会計が1番忙しいのは春。町内会の会費の徴収だ。とはいえ私が各世帯を回るのではなく、町内の班長が徴収し、班長から会計がまとめて受け取る。これをまとめるというのが会計の仕事である。

5月のある夜、班長さんの家に回収のお願いと各世帯の内訳を書いた紙を持って回っていた。

町内会のエリアの端に、庭や玄関が美しく整理された班長さんの家があった。5歳の娘を連れて回っていたのだが、近づくと自動点灯する間接照明やスロープに、娘は「ここホテルみたいだね」とつぶやく。

玄関の横には1m程にもなるの造花の花が花瓶に植えられていた。
チャイムを鳴らし、出てきたのは小さなおばちゃんだった。玄関の中には造花が花瓶に飾られ、所狭しと並んでいる。
町内会の紙を渡してしばし話す。

なんでも夫に先立たれ、一人の時間が増えたので、通信講座に申し込み、造花制作の勉強を始めたのだそうだ。最初は難しかったが、作っていくうちに楽しくなり、時間があれば花を買ってきて、花びらやおしべやめしべの研究を重ね、精緻な造花を作るようになったのだそうだ。

色々話を聞いていると15分くらい立ち話をしていた。立ち話にお礼を言い帰ろうとすると、「ちょっとまってて〜」と言うと大きい包みにアスパラガスを抱えて持ってきてくれた。
太いのは娘にあげちゃったけど、1人では食べきれないから、と笑うおばちゃんから喜んで頂くことにした。

家のテーブルにこんもりと盛られたアスパラガスには、一人暮らしのおばちゃんの寂しさと、町内会というコミュニティの価値が詰まっているように思えた。

大好きな造花の話を少しでも話せたのが少しでも楽しいひとときになっていたのであれば嬉しい。
面倒なことも時にはある町内会ではあるが、おばちゃんのアスパラガスを思い出しながら、緩いつながりを作れるよう微力ながら関わっていくつもりである。


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