ピッチングのコントロールとQuiet Eye

ふとコントロールを良くする方法に関する論文を調べてみようと思ったものの

フォームの特性を調べても、再現性が高いとか当たり前な結論しか出てこない気がしたので
フォーム以外の「狙い方」みたいなところで何か良い方法がないか調べてみた

そうすると
バスケやゴルフなどでQuiet Eyeという動作がコントロールに寄与するという論文をいくつか発見
なので、Quiet Eyeが野球のコントロール向上にも応用できるのか調べて検討してみた


Quiet Eyeって何?

フリースローやダーツなどの標的照準運動の正確な熟練者に見られる特徴的な視線行動で

動作開始前に目標点に対して安定した長い注視適切なタイミングで行うことが特徴

提唱者のVickersが2016年にそれまでの研究状況をまとめた論文によると

視線のぶれが3°以内で最低0.1秒以上注視する行為

これをQuiet Eye(QE)と呼び
パフォーマンスが高い選手はQEの時間が長い

2007年のメタ分析では、非熟練者と熟練者を分ける3つの視線行動のうちの一つだとされ、熟練者は非熟練者より62%QE持続時間が長かったのこと

また、競技の制約上無限に時間を取ることはできない場合もあるが
ターゲットにすぐ焦点を合わせることで持続時間を長くしているよう

また、プレッシャーや不安はプレイヤーの注意力を奪い、QEの持続時間を短くするようだ

果たしてピッチングに応用できるのか?

Google Scholarで見つけられる範囲では、ピッチングとQEの関係を調べた研究はほとんどなく
強いて言えば以下の2つの国内研究があった

投球モーション中のどの部分で視線を遮るとコントロールが悪化するかを調べた研究
https://sports-performance.jp/paper/1517/1517.pdf

QEの理論を活かしたシステムの研究(全文は無料では読めず)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmermd/2023/0/2023_2A1-H23/_article/-char/ja/


おそらく、野球よりもバスケ―のフリースローやゴルフ等の方が、標的タスクとしての成功/失敗を定義しやすいという点で、研究に応用しやすいからだろう

とはいえ、競技特性としては似ているわけだし、研究こそないがVickersもbaseball pitchingという単語を文中で用いていることもあるので
QEの理論が応用できる対象ではありそう


どうやって実践したら良い?

QEのトレーニング法の指針はVickersから提案されている
ざっくりいうとこんな感じ

・熟練者の視線の動きのビデオ等を見て、「何に」「いつから」「いつまで」注視しているか、自身と比較する
・実際の練習ではBlocked and random trainingを行う

Blocked and random trainingの例としては
バレーボールのサーブレシーブをするとき、ボールに書かれた番号を見る、といった
実際のプレーに近い、部分的な何かしらの注視力向上ドリルのことのよう

このバレーボールの例では、実際にレシーブ成功率にプラスの効果があったとのこと

とはいえ、野球のピッチングではこれをやると良いという練習法は確立されていないようだ
ここまでの情報からQE促進のために意識できることを想像で考えると、以下のあたりだろう

ターゲットからの目線のブレを3°以内に狭める

ピッチングで足を上げてから加速期に至るまで、皆ざっくり捕手を見てはいると思うが、このときの目線のブレは、やはり減らした方が良いだろう

そのためには頭の位置がブレにくいような身体の動きももちろん重要だが
そもそも狙う箇所をどれくらい点レベルで捉えられているかも重要と思われる

例えば、コースにこだわらずストライクを入れればOKな場面だとしても
ストライクゾーンをぼんやりとみるのではなく
ど真ん中の一点に照準を合わせるということがコントロール向上に役立つと思われる

対象を長く見る

熟練者は非熟練者よりQEの長さが有意に長いことが報告されているので
力みが生じない範囲で早めに照準を合わせ、それを維持することが重要だろう

投げる瞬間は見なくてよい

途中で挙げた、投球モーション中のどの部分で視線を遮るとコントロールが悪化するかを調べた研究によると

加速期からは視界を遮ってもコントロールの低下は起こりにくいとされている
QEは、主たる目的動作の直前で十分行われていればよいので
運動能力を阻害しない適当なタイミングで視線を離すことは問題ないだろう


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