クンデラについて

クンデラでは、絶対に「不滅」がいい。
最後の一文、主人公の女性を悼む、菫の一輪に託した哀悼は、長編小説全編を偲ぶ感性として、永遠に記憶に残る。
そして、小説の最初ー冒頭へと回帰し、書き手がプールで垣間見た女性の魅惑的なポーズの印象に読了したはずの読者を誘い返し、再度の読書へと繋げる。
「不滅」のモチーフは、にわかに、文字の平面から立ち上がり、人間の暮らす3次元空間
に巻き込みながら、物語に登場する「この、碌でもない俗人たち」の現実を暖かく包む女主人公の視線の優しさでもある。
亡くなっている父親との娘ならではの葛藤、肉親の妹への肉体的な愛憎を帯びた眼差し、唐突として登場するゲーテや喜劇的諧謔性を帯びたヘミングウェイの寸劇など、従来の小説概念を超越した展開手法に翻弄されながら辿る読書の醍醐味こそ、「ある晴れた日の午後、和子は外出した」などという文章の在り方から、多元的位相空間へと多様化する社会の現実を描く先験性に私たちを導いてくれる。
クンデラの「不滅」は、前世紀の文学を超え、今世紀にも「書くことの課題」を突きつける傑作でもあるのです。

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