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朝の空も夜の空も平等に価値がある

朝の空に希望を歌い、夜の空に記憶を辿る。

同じ空を見るということ。
同じ時間を生きるということ。

本物は本物であるほど作り物めいている。

スクリーンみたいな空。
だけどスクリーンではない本物の空。
あの向こうが無限に広がる空間ならば、私は空に何を見ているのだろう。

何もない広い空間。

たまたま地面に足がついているけれど、たまたま君が隣にいるけれど、本質的なところで私は宇宙をただよう塵と何ら変わりはない。

朝の空に希望を歌い、夜の空に記憶を辿る。
奇跡みたいな営みはいつ生まれたのだろう。

空は遠く眺める存在ではない。
私は空の中で生きている。

「また会おうね」と、早朝の駅で私たちは誓い合った。
金木犀の匂い。朝靄に色褪せる景色。
「絶対だよ」と長い髪の彼女は笑った。

彼女を乗せた列車が広野の向こうに消えていく。

あれ以来、会っていない。

彼女はどこへ行ったのだろう。
今どこにいるのだろう。

無限に広がる何もない空間。
のどこか。
私も彼女も、金木犀も、塵にすぎない。
ただたまたま同じ場所に居合わせた。偶然。奇跡。それだけのこと。
約束も決意もこの空の中では無力だった。

もうきっと二度と会えない。

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