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真鍋淑郎先生の英語はなぜ通じるか

手元に2021年10月27日の新聞記事があります。タイトルは「英会話上達の秘訣。ノーベル物理学賞真鍋淑郎氏のカタカナ英語が日本人の理想に最も近い」。記事の主人公は、サブタイトルの通り、昨年ノーベル物理学賞を受賞された真鍋淑郎先生(プリンストン大学上級研究員)です。

しかし、私は、この記事のさまざまな部分に疑問を感じました。今日は、そのことを書いてみたいと思います。

まず、この記事に先生の英語が「お世辞にも"流暢"とはいえないにもかかわらず」という下りがあった点です。しかし、やはり記事中にある「時に多くの記者から笑いを誘っていた」ということは、先生の英語は、しっかりとコミュニケーションの道具として機能していたということです。"流暢"が何を指すかは、また議論のあるところだと思いますが、「しっかり伝わっている」という意味では、十分流暢であると感じました。

そして、カタカナ英語。カタカナ英語って、皆さんはどう定義しますか。私なりの定義は、次のようなものです。

<私のカタカナ英語の定義>
子音で終わることの多い英語が日本語に入ってくると、日本語では「子音+母音」が一つの発声単位(音節あるいはシラブルと言います)であるために、英語の単語の最後にある子音に母音を付けてしまうという癖があるため、「カタカタ化」する。このようにしてできた「英語」を「カタカナ英語」というのだ。

例えば、"Christmas"という単語、英語では2音節(発音される母音の数で概ね何音節で発音される単語であるかがわかります)ですが、日本語に入っていると、 く(kとu)、り(rとi)、す(sとu)、ま(mとa)、す(再びsとu)と、英語にはなかった、いわば余計な母音がたくさん侵入してくるので、音節の数が変わってしまうのです。

お馴染みのハンバーガーチェーンは、Mc Do naldと3音節で発音されるのですが、日本語に入ると「マ」「ク」「ド」「ナ」「ル」「ド」と6音節になってしまいます。甚だしきは、"Strong"。英語では1音節ですが、日本語では、ゆっくり発音すると「ス」「ト」「ロ」「ン」「グ」で5音節(ただし、通常発音では、最初のsとtと、それに続く「rとoとn」いう3つの音が一拍で発音されて「スト」「ロン」「グ」と3音節で発音されているようです。(日本語でも、子音が続けて発音されることは起こります)このような現象が「カタカタ英語」化であると私はみています。

では果たして真鍋先生の英語が「カタカナ英語」であるかを、私の定義に沿ってみてみると、決して「カタカナ英語」ではなく、ネイティブスピーカーと同じく、子音で止まるべきところはちゃんと子音で止めて発音されています。そういう意味では、同じ記事にあった「長年、日本語だけを話してきた私たちがネーティブのような話し方を目指すと、かえって意味が伝わらないことが多い」という表現は、誤りであると思われます。

そもそも「私たちのネーティブのような話し方」はネーティブのようでないから伝わらないのであって、真にネーティブのような話し方をすれば、英語として伝わらないはずはないと思います。マスコミの言説は、影響力がありますから、こうしたミスリーディングな記事があるのは、本当に残念だと思いました。

ところで、受賞が決まった真鍋先生の記者会見が、プリンストン大学で行われたのですが、そこでの会見(かなり報道されましたが)とても、先生の人柄を彷彿とさせる楽しく、しかも元気のもらえるものでした。どうぞ、時間をとって、ご覧ください。

私は、日本人の発する音そのもの(真鍋先生の発する英語の音には、確かに日本人特有のものがたくさんあります。それが、むしろ個性として歓迎されていたというようにも思います)よりも、こうした音節の区切り方の違いや、(別の記事で取り上げたいと思いますが)ストレスの置き方(俗にいうアクセント)が正確でないために、日本人の英語が伝わりにくくなる傾向があると考えています。そんな問題意識で、オンライン講座を作りました。ご興味のある向きは、ぜひご利用ください。


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