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ゲイだとはじめて打ち明けられた日のこと #18

僕は、高校2年生のときに同性の後輩に一目惚れをして
そのときに自分のことをゲイだと認識しました。

高校2年間はその彼に片思いを続け、大学生になってからSNSを通じてはじめてゲイの人と出会いました。
それから、ゲイの友達や知り合いも少しずつ増えていきました。

自分と同じ、セクシャリティの人たちと一緒にいるのはとても楽に感じました。

“ゲイの友達と一緒にいることが楽”というよりも、自分と異なるセクシャリティの人たちとのコミュニケーションで辛く感じる場面や葛藤が大きかったようにも思います。


学部やサークルで、バイト先の人たちとの付き合いの中で恋愛や下ネタの話は避けて通れないものでした。
友人たちは違和感なく異性との恋愛や異性との性体験に花を咲かせていました。
僕もそこに同調して話をしますが、僕はノンケのコミュニティー用の自分を演じていたような
当時はそんな感覚だったと思います。


「好きなタイプは?」
「芸能人でいうと誰がタイプ?」
「好きなAV女優は?」
「何系のAVよく見るの?」
「初体験はいつ?誰と?どこで?」
「今、好きな人いないの?」


どの飲み会に行っても、こんな内容の話がテンプレートだったように思います。
男女の飲み会だと割と内容はソフトでしたが男だけで集まると内容の8割が下ネタだったように思います。
僕の地元が田舎だったこともあり、他に娯楽も少なかったことも
異性との恋愛や性の話題が中心になる要因だったのではないかと思います。

そのテンプレートの回答を事前に準備をしておいて
テンプレート通りにコミュニケーションを進めていく。
本当の自分を隠して、ノンケ仕様の自分で友人たちとの付き合いをしている自分。

でも、それはそれで仕方がないとも思っていたし
それでも友人たちの関係は良好だと感じていたので
当時の僕はノンケの自分を演じることに対して特に大きな悩みはなかったように思います。


好きなタイプや芸能人の話などはテンプレートで話をしていたのですが
現在進行系の好きな人の話や性体験は同性のことを異性に置き換えて話をしていました。


大学2年生の冬。
いつも通り、サークルの同期2人と僕の家で宅飲みをしていたときのことでした。
一人は、恋愛経験0。恋愛に全く興味のないサバサバインテリ系の理系女子。
もう一人は現役で運動部に所属している情に厚いゴリゴリ体育会理系女子。

学部や所属しているキャンパスは違いましたが、仲がよくサークル外でもよく三人で飲みに行ったり宅飲みをしていました。

その日もいつも通りの会合。
いつも通りに安い梅酒を炭酸ジュースで割って、たこ焼きをテーブルで囲み
たこ焼きを酒のつまみに談笑をしていました。

サークルの話、バイトの話、授業の話、恋愛の話。


いつも通りだったはずでした。


「ひろトってさ、好きな人の話するときってなんか隠してる感じがするんよね。」

「具体的な話になるとなんとなくはぐらかされている気がするし、ひろトの好きな人の写真だって見たことないし」

「なんか、うちらって信用されてないんやなって思った。まあ、別にいいんだけどさ。」



なんとなく、核心を突かれたような感じがしました。
今までうまくやれていると思っていました。

彼女のその一言で、自分の中でなにかが壊れた感覚がしました。

僕は、僕を隠すことで僕自身を守ってきたし
僕人間関係を円滑にしていく手段としてノンケの僕を演じていました。


本当だったら打ち明けたい。
でも、打ち明けたときに
気持ち悪いって思われたらどうしよう
無理だと思われたらどうしよう
この関係が崩れてしまったらどうしよう
不快な気持ちにさせていまったらどうしよう

様々なネガティブな感情が頭の中を巡りました。


でも、彼女が言った

“うちらって信頼されてないんやな”

という言葉がとても辛く感じました
彼女のその言葉に傷ついている自分がいました

こんなに大好きな二人なのに
二人は僕のことを信頼してくれているのに
僕は、このままでいいのか

僕の中で葛藤が生まれました


彼女たちに打ち明けたい自分と
打ち明けたくない自分

打ち明けたくないというよりは
打ち明けたあとに拒絶されたときの恐怖
受け入れてもらえなかったときに自分がどうにかなってしまうんじゃないかという漠然とした不安が強かったです


色々考えました
たくさん悩みました


悩んだ結果、僕は彼女たちにカミングアウトすることを決めました



僕は彼女たちのことを信頼していたし
信じてみたいと思いました

少なくとも僕のことを知りたいと思ってくれている
彼女たちに打ち明けてみたいと思いました

それで受け入れてもらえなければそれでいい
嘘がある関係性が三人にとって不快なのであれば
その不快さの種類が変わるだけの話だとも思いました


受け入れてもらえる自信はなかったです
でも、何も変えられない自分も嫌でした

これは僕の中で大きな賭けでもありました。



そして後日、彼女たちを僕の家に招きました。
その日に僕がゲイだということを彼女たちに打ち明けようと思っていました。


でも、なかなか打ち明けられませんでした。
どのタイミングで打ち明ければいいのか、宅飲みがはじまってからずっと気が気じゃなかったです。

普段どおりに振る舞っているつもりでも
頭の片隅では、いつ話そうか、いつ話そうか。
やっぱり無理かもしれない…。
今日は話せないかもしれない…。

少し弱気な気持ちにもなっていました。





「ひろト、今日なんか変じゃね。なにかあった?」




そんなとき、一人が僕の異変に気づきました。


もう今しかないと思い、このタイミングで彼女たちに打ち明けることにしました。



「あのさ、こないだうちで飲んだときに俺だけ好きな人の話しするときに隠している感じがして“信頼されてな気がする”ってこと言ってたじゃん」


「あー、そんなこと言ったかもな!ごめん、うちも酔っててさ。気にせんでええよ!そんなこと気にしてたん。ごめんて」


「いや、違うんよ。本当に俺は二人のこと大好きだしめっちゃ信用してるんやけどね。でも好きな人のことで二人に隠していることがあってね…。」




そこから言葉が続きませんでした。



好きな人が男性なんだよね。



その一言が、言葉が詰まって出てきませんでした。
その一言を打ち明けることが本当に怖かったです。

心臓がバクバクとはやく動いていました。
緊張と不安で汗も出てきて、しだいに涙も出てきました。


「大丈夫、どしたん。なんか辛いことでもあるん。」

「ゆっくりでいいよ、大丈夫だから話してみて。」


二人は心配そうに、そしてとても優しくそう言ってくれました。


「実はさ…。ずっと好きだって言ってた人なんだけど、男の人なんだよね。今まで隠しててごめんね。話したかったけど、二人に気持ち悪がられたらどうしようって、嫌われたらどうしようって思ったら言えなくてさ…。」


僕は、ボロボロ泣き崩れながら意を決して二人に打ち明けました。





「え、そんなことで悩んでたん」

「あー、よかった。大したことじゃなくって。いきなり泣きだすからもっとやばいことかと思ったわ」

「そうそう。相手の女、妊娠させたとかって話しされるんかと思った。うち、いくらお金貸せるかなって計算してたわ」

「別にひろトが男を好きだろうが女を好きだろうが、うちらはひろトっていう人間が好きだからぶっちゃけそんなの関係ないよ」

「むしろこんな反応でごめん、せっかく色々悩んで話してくれたのにうちらこんなんで。」



二人は僕のカミングアウトを受けて、ゲラゲラ笑っていました。
お腹を抱えて、笑っていました。

正直、拍子抜けしました。

カミングアウトしたことでもっとシリアスな雰囲気になるか、気まずい空間になるのか
そんなイメージが漠然とありましたが

僕たち三人のいる空間はとても和やかで、温かい空気が漂っていました。


そして僕は、これまで話せなかったことを
二人に話したかった話をたくさんしました。


それから、僕たち三人の仲はさらに深まったように思います。


今でもその二人とは関係が続いています。
僕は東京、彼女たちは名古屋、大阪と三人とも住む場所はバラバラですが
先日、名古屋で三人集合して当時のことなどあれこれ話しました。


当時、彼女たちが僕のことを受け入れてくれたことがとてもありがたかったです。
僕はつくづく人との出会いに恵まれているなと心から思えました。


今回、カミングアウトがうまくいった体験を書きましたが、必ずしもカミングアウトをすることがいいとは思っていません。
カミングアウトが悪いとも思いませんが…、短い言葉でうまく表現することができないのでこのことについてはまた別の機会に書きたいと思います。

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