短い映画レビュー 「ベルリン アレクサンダー広場」 2023年9月
2020年に映画化されているが、私が見たのは、1980年にドイツで製作された全15時間のテレビシリーズである。
レビューを読むと、空っぽの主人公が、その時々の状況に合わせて自分を適応させることに評者の注意が向いているが、人間とはそんなものだろう、と私は思っているので、そこに違和感を感じなかった。
私が感じたのはもっと些細なことである。この映画の原作は、1929年に出版された。第一次大戦でドイツは敗北し、莫大な賠償金を課され、戦後のドイツは低迷した。そして1927年に金融恐慌が、1929年には世界恐慌が起こり、ドイツは更に荒廃し、ナチスが台頭する土壌が出来た。その時代のお話である。
だとしても、当時のベルリンが豊かに見えた。ドイツ人の監督なので、それなりに時代考証をしていると思うが、車さえ気にしなければ、現代を舞台とした映画として違和感なく私には見れる。服装も、お店も、今とそれほど変わらない。アレクサンダー広場には当時すでに1913年開通の地下鉄が走っていた。しばしばこの映画の舞台になっているのはその地下通路だと思う。(日本に初めて地下鉄が開通したのは、1927年上野と浅草間である。上野と浅草は目と鼻の先である)
ホフと呼ぶのかアルコールを出す軽食屋には外国産のカナリアを飼っている。下層階級の主人公フランツはよくその店に出入りする。下層階級でも外食するのだ。
食文化で言うと、飲むビールは常に黒ビールであった。お店ではチーズだけを挟んだライ麦パン?を食べていた。イメージ通りのドイツである。
ドイツ人からすれば空気のようなこれらのことどもが、私には楽しかった。
敢えて内容に立ち入れば、主人公フランツとその影・ネガとしての存在であるラインホルトとのやり取りが興味深い。自分とは正反対のものに親密さを感じるが受け入れられない。最期に壮絶な自己葛藤劇があり、それを乗り越えたフランツは「サラリーマンになった」。つまり凡人になった。
まぁこれは監督の世界観である。私の世界観とは違う。
この15時間という長大な映画をドイツは今は作れないと思う。そんな予算も出ないだろうし、たとえ1時間分割といえども、観客もそんな忍耐が無い。
日本もそうだが、もっとも製造業が力を持った1970年代から80年代の、その製造業が強かったドイツだからこそ資金が潤沢にあってこの映画が作れたのだと思う。
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