エッセイ レビュー 沈黙の画布 または 薄暮 篠田節子 ブログ

「薄暮」は2009年7月日本経済新聞社より出版された。のち改題されて「沈黙の画布」2012年8月新潮文庫に収められる。

ミステリー小説である。
農村で絵を描き続けた無名の画家が、死後、幾つかの偶然を経て知名度を上げていくお話だ。そこに画家の妻の承認欲求と、絵を所有する郷土の小金持ち達の欲、本物と偽物を織り交ぜて売買する画商の欲が、物語をミステリーにさせている。

美術出版社の事情、絵画取引の事情がよく調べられて書かれている。それが小説に臨場感を与えている。

読み始めた時に予想したことは、郷土の小金持ち達が、幻想の画家を皆で作り上げ、各自が持つ、その画家が描いたという嘘の絵の値段を吊り上げるために、色々なイベントを仕掛けていくのかな、だったが、結局はそうではなかった。
ミステリーのほとんどは、常軌を逸した画家の妻の行動に帰せられている。人生の空虚さに焦点を当てた物語、ともいえるが、意外性があまり無く、私には物足りなかった。
私の好きな「鏡の背面」2018年のような人間の薄気味悪さ、後味の悪さもなかった。

著者の篠田節子氏は共同体が強く残っているアジアなどの外国に旅行することが好きだと思う。あ、本当にここに行ってるな、と思わせる描写がある。途上国を旅行するのが好きな私はそこに好感を持つ。


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