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蓮舫さんの「出馬しっぺ原則」はけっこう凄い

四半世紀ぶりに東京都民に戻って初の都知事選は「蓮舫」と書いて1票を投じました。小池都政にほとほと嫌気がさしていましたし、YouTubeで蓮舫さんの演説を連日観るうちに、一度彼女に知事をやらせたい、と心から思えてきたからです。

もちろん蓮舫さんが強く訴えた、例えば、「若者支援」に深く共感したということもあります。ただ、それ以上に、演説そのものの持つ力、可能性に改めて目を見張る思いがしたことも大きかった。

か細い四肢からハスキーな声を絞り出すようにして、彼女が紡ぎ出す一言ひとことを何千人もの聴衆が固唾を飲んで待っています。時折、

「蓮舫!」

と叫ぶ、遠雷のような声援がかすかに聞こえはするのですが、基本、会場を支配しているのは静寂です。蓮舫さんの思いと、聴衆の願いとがシンクロするたびに、その静けさを地鳴りのような唸り声と大きな拍手とが突き破る。蓮舫が、聴衆が心から政治を変えたい、と希求しているのでした。

スマホの小さなスクリーンを通じてさえ感じられる切迫感と熱量は、経済が疲弊し、政治も腐敗しきったどこぞの途上国の大統領選挙と見まごうばかり。いや待てよ、看板こそ「都知事選」だが、これは紛れもなく既得権益にまみれた暗君の首のすげ替えがテーマの小国の闘争なのです。それだけに、今回の選挙結果ばかりは自分のことのように納得がいかなかったですし、落胆も大きかった。

もちろん、蓮舫さんほどの知名度と今回証明された演説力とをもってすれば、早ければ今秋にも行われる衆院選で、あるいは来年が既定の参院選で国政に復帰するのは時間の問題かと思っていました。それが、つい一昨晩(7/13)、双子のお子さんの片割れ(男性の方)との掛け合いで自宅から配信された動画(※文末参照のこと)によれば、概略、

「これでまた、なに食わぬ顔で選挙に出て、国政に復帰するのは違う気がする」

と蓮舫さん。これには、「陰の声」担当の息子さんもしばし絶句しておられましたが、その狼狽ぶり、僕もよーくわかります。

それにしても、在宅非戦闘モードの彼女と、ときおりかけるおダサいメガネ(老眼鏡?)とが好印象のその動画で、彼女がたびたび口にした「このまま(しれっと)国政に戻るのは違うと思う」には、いまやいたく共感していますし、それが本心ならば、今回の都知事選、立候補表明の時点にまで遡って、改めて彼女の英断を称え直したいと思います。

個人の体験に引き寄せて語るのもなんですが、蓮舫さんほどでないにせよ、僕も相応の決断をもって選挙に臨み、で、結果、得票及ばす落選した苦い過去があります。もちろん、都知事選でも国政選挙でもなく、前職の大学でのこと、紆余曲折あって学長選に担がれたのでした。

今回の都知事選では、締め切ってみれば立候補者が56名にも達し、ポスター掲示板の枠が足りないこと自体も恰好の話題になりましたが、こちらの学長選の立候補者は2人だけ。もはや、細かい数字は記憶の彼方ですが、めのこで言えば、全学の票が5対4に分かれたのでした。もちろん、相手候補が5で僕は4。なので、石丸候補や蓮舫候補への、

「善戦だった! でも僅かに及ばず残念!」

との労いの言葉掛けがいかに無意味で無価値であるか、僕には痛いほど分かる気がします。1番だけが当選なら、2番でも、3番、56番でも落選は落選なのですから。

もちろん、落ちるわけにはいかない選挙から受かるわけない選挙までグラデーションはさまざま。加えて、請われてこわれて出る選挙から止められてもとめられても出る選挙まで動機もさまざま。ただ、どんなかたちのどんな動機の選挙であれ、

「よし、私(僕)出るわ」

と出馬を決めた瞬間から、「言い出しっぺ原則」ならぬ「出馬しっぺ原則」が効力を発揮するのであります。

すなわち、例えば、仕事やボランティアの現場で、なにか提案をなした当の本人が、結局、最後の最後まで面倒を看る(=詰め腹を切らされる)役目を甘受するのが「言い出しっぺ原則」。これに倣うならば、いかなる経緯や事情があるにせよ、ひとたび選挙に出馬したならば、当選・落選の如何に関わらず、いかなる賞賛も批判も出馬者が一手に背負って立つのが「出馬しっぺ原則」です。

結論的には、時間こそがクスリで、それ相応の時が経ってみればすべてはセピア色の懐かしい出来事なのですが、その過程では、あーすれば良かった、こーすれば良かったとか、あいつは味方かと思えばとんだ食わせ者だったとか、挙句には、そういえば投票日の朝、妻(息子)が淹れてくれた知覧煎茶の茶柱が寝てたなとか……忸怩たる思いジクジクでありましょう。

「担ぐんならもっとちゃんと担げ」

とイライラが募る、ということもよくある話で。

ただ、繰り返しとなりますが、今回の蓮舫さんの決断は本当に胸のすく思いで、感謝してもし切れませんし、演説も本当にカッコ良かった! しかも、その「出馬しっぺ原則」の発揮ぶりはまばゆいばかりです。ここからは、どうか、一人の時間も大事にされて、どこぞの地方議会の首長なのか、もう一度国政なのか、はたまた「第3の途」なのか、神様がくれた「落選しっぺの休息時間」を心ゆくまで楽しんでください。蓮舫さん、ありがとう。




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