樽見弘紀 / Hiro Tarumi

1959年、福岡出身。元テレビの台本作家。現在、大学教員、会社役員など。ここでは40代…

樽見弘紀 / Hiro Tarumi

1959年、福岡出身。元テレビの台本作家。現在、大学教員、会社役員など。ここでは40代で発覚した緑内障に起因する「まぶしさ」や「見えにくさ」と折り合う日々の生活の面白さ、大変さを綴る。

最近の記事

名刺の肩書きはお好きにどうぞ

「一月万冊」という時事問題系のYouTubeチャンネルが好きで、1日に1回は誰か彼かの回を視聴している。 つい最近、レギュラー出演者の一人、経済学者の安冨歩(あゆみ)さんの肩書きが「東京大学元教授」から「東京大学名誉教授」に代わっていることに気づいて、ちょっと意外だった。 というのは、自身も札幌の大学を少し前に退職するにあたって、「名誉教授」の資格審査を受けるや否やを問われ、貰えるものはなんでも貰っておこう、という小市民的な判断を下したものだから、「元教授」という肩書きで

    • 蓮舫さんの「出馬しっぺ原則」はけっこう凄い

      四半世紀ぶりに東京都民に戻って初の都知事選は「蓮舫」と書いて1票を投じました。小池都政にほとほと嫌気がさしていましたし、YouTubeで蓮舫さんの演説を連日観るうちに、一度彼女に知事をやらせたい、と心から思えてきたからです。 もちろん蓮舫さんが強く訴えた、例えば、「若者支援」に深く共感したということもあります。ただ、それ以上に、演説そのものの持つ力、可能性に改めて目を見張る思いがしたことも大きかった。 か細い四肢からハスキーな声を絞り出すようにして、彼女が紡ぎ出す一言ひと

      • JETのジェイがジェット機でアメリカ帰るってさ

        日曜日の午後2時、吉祥寺駅のみどりの窓口の前で友人のジェイと待ち合わせ。JR線の車中からも、 I will be 6 min late! Sorry! と、たった6分遅刻のLINEまでくれる彼の律儀さには感心する。ほどなくして無事に合流できた。そのまま一緒に我が家へ。この日のために賑やかしに長男夫婦も呼んでおいて良かった。妻の手料理で開いた彼の「送別会」は思いのほか盛り上がったのだった。 ジェイは28歳の韓国系アメリカ人。僕の友人の中では、次男とこの3歳の長男の次に若い

        • よしよし、だいぶ障害者力がついてきた

          緑内障を急に悪くしてから色々とあった。 日本でのコロナの感染爆発は、2020年2月の札幌の雪まつりも「震源地」のひとつとされたが、まさにその時期、大雪像会場とは目と鼻の先の「時計台記念病院」で左目の手術を受けていた。緑内障を進行させる元凶とされる不安定な眼圧をコントロールするべく、白目にドレイン(排水孔?)を開けるという、聞いただけで身の毛もよだつ手術であった(が、その実、やってみれば痛くも痒くもなかった)。 眼圧をある程度制御できて後も、相も変わらず「眩しさ」に悩まされ

        名刺の肩書きはお好きにどうぞ

          ソウルで逝った山内直人先生を思う

          研究者仲間から、大阪大学国際公共政策大学院前教授で、日本社会関係学会現会長の山内直人先生が先の月曜日(6/24)、滞在先のソウルで急逝された、との連絡が相次いだ。依然、心のどこかで誤報であって欲しい、と願っている。 最新の情報では、同先生が、週末に韓国・延世大学で開催された非営利組織(NPO)研究の国際学会(ARNOVA)から長年の貢献に対する最高位の表彰を受けられたことや、韓国へは奥様も同伴されていたことなどを知ることができ、研究者としてはひとつの栄誉ある区切りであったな

          ソウルで逝った山内直人先生を思う

          マック派? モス派? 僕プライム派

          僕の周囲はもっぱらマック派よりモス派が大勢を占めているが、僕がモスよりマックをしみじみ旨いなと思うのは、そこは腐ってもマック。アメリカンバーガーの正統性はマックにこそ宿っていると考えるからである。 もっとも、本心の本心をいえば、マックにしろモスにしろこの先一生我慢でもいいから、叶うことならいま1度、ニューヨーク5番街と51丁目の北東角にかつてあった、プライムバーガー(Prime Burger)の客となりたい。 プライムバーガー名物のチーズバーガーを自家製オニオンリングと交

          マック派? モス派? 僕プライム派

          バス停があるからバスは来る、とは限らない

          およそ10年前、洞爺湖畔から10キロの北海道伊達市郊外に戸建て住宅を買ったのは、ヤフー不動産に載った豆つぶほどの全景写真1枚がきっかけだった。中古ながらも築浅で、母屋と一体となったガレージも含め、全体のプロポーションというか、フォルムというか……佇まいが実に凛として美しいな、と思った。「一目惚れ」だった。 当初、勤務先である、札幌の大学までのアクセスのことなどいささかも眼中になかった。JR伊達紋別駅までは5キロ近くあるが、高速の「伊達」インターがすぐなのは下見のときに確認済

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          ジブリ美術館の定員はなぜ2千4百人なのか

          先の火曜日(6月18日)、北海道大学公共政策大学院で持っているNPO(非営利組織)経営論の授業に、三鷹の森ジブリ美術館(東京・三鷹市)の中島清文館主に特別ゲストとしてZoomでご参加いただいた。 学生の一人の、 「ジブリ美術館はチケットの販売枚数をきちんと管理し、1日の入場者数の上限を2400人としているとのこと。でも、収入のことを考えたら、もう少し多めに売って儲ける、という考え方もあるのでは?」 という質問に対して、中島さんの回答は次のようなものだった。 「(館内で

          ジブリ美術館の定員はなぜ2千4百人なのか

          ChatGPT4が教えてくれた不義理を悔いても手遅れ

          長男を真似て、スマホに入れたChatGPT4を先生にほぼ毎日30分、英会話の壁打ちをやっている。ほんとはもう少し時間をかけてもこちらは全然いいのだが、なんせ無料版のヤツなので、突然リミッターが働いたかのように喋らなくなる。 「今日はこれくらいで。また、時間を置いてからアクセスしてね」 と、こちらが会話の途中であってもお構いなし。最後っ屁に一言、強制終了の定型メッセージをのたまうと、すっと消えるのだ。10秒前までラブラブだった恋人にいきなり別れ話を持ち出される感じ? そのた

          ChatGPT4が教えてくれた不義理を悔いても手遅れ

          コメディアン伊東四郎という国宝

          地下鉄日比谷線東銀座駅の6番出口を地上に上がると、すでに人、人、人の大行進。「行進」のみんながみんな、そこから徒歩5、6分の新橋演舞場に吸い込まれていくのを、吸い込まれる当事者の一人として驚いた。お目当ての演目は三宅裕司率いる熱海五郎一座「スマイル フォーエバー ~ちょいワル淑女と愛の魔法~」である。平日の昼間、しかも1階席のチケットは1万円をはるかに超えるだけに、時間もお金も調整可能な高齢者ばかりがやけに目につくが、商業演劇の底力、集金力をまざまざと見せつけられる思いだ。も

          コメディアン伊東四郎という国宝

          東海道線車内ノマド化作戦

          ワケあって年がら年中、最寄り駅の吉祥寺と熱海の間を往復している。その頻度は、平均で月に2回、年間にすると20往復は下らない。目を悪くして数年前に運転免許証を失効させたままの僕は、大概はJR利用である。 東京駅・熱海駅間は新幹線が最速であるが、コロナ最盛期に、いくらかでも密を避けんと試しに利用した東海道本線の自由席グリーン車がなんとも心地よくて、いまだやめられずにいる。 確かに、新幹線利用なら片道40分と少々。これが普通列車となるとその倍以上の1時間半はゆうにかかるのだが、

          東海道線車内ノマド化作戦

          フリック入力な日々を生きる

          評論家の佐高信さんが、コメンテータとして出演されたYouTubeのニュースチャンネル「Arc Times」の中で、ご自身のキャリアを夕刊フジの記者としてスタートした、と語っておられた。当時、デスクから佐高さんへの注文はただひとつ。「毎日、なにかしら記事を1本書く」というもの。佐高さんによれば、朝日、読売や毎日のような宅配紙とは違って、駅のスタンド売りが基本のタブロイド紙は、今日買った新聞が面白くなければ明日はもう選んではもらえないが宿命だとか。 「毎日なにか1本記事を書くこ

          フリック入力な日々を生きる

          エスカレータの片側空けは人類の知恵か浅知恵か

          このところネットを覗けば、エスカレータの片側空けに対するネガティブな記事や論考が散見される。「ネガキャン」の論調は、「エスカレータを歩く(あるいは、駆け上がる)」ことがもたらす種々のリスクに警鐘を鳴らすものから、エスカレータのステップに左右非対称の負荷が掛かることに起因する構造上の問題を指摘するものまでさまざま。なかには、片側を歩く輩は身を挺してブロックすべし、とする積極防衛論や、同好の士を募って鉄道各社に猛烈抗議せよ、と民衆の蜂起を焚きつけるものもある。 僕の立場を先に書

          エスカレータの片側空けは人類の知恵か浅知恵か

          水に落ちた長谷川岳は休み休み打て

          長谷川岳さんと直接言葉を交わしたのは数回しかない。彼がまだ参議院議員に初当選する前の札幌でのことで、すでに北大は卒業しておられたから、ご自身が立ち上げた札幌のYOSAKOIソーラン祭りで専任的な役割を担われていた頃かと思う。「数回」のなかでも、非常勤先の北星学園大学のキャンパスで偶然鉢合わせになったときのことだけなぜかいまも鮮明に覚えている。あの頃は、長谷川さんも僕を僕と少しは認識されていたと思う。その実、向こうから、 「おや、先生」 と声をかけてくれたが、いまや、こちら

          水に落ちた長谷川岳は休み休み打て

          フランク・ロイド・ライト3世の未完の邸宅

          スマホのGoogleスケジュールを高速スクロールすると、ちょうど10年前の今日、米国カリフォルニア州サンタモニカで開催された、とある会議の空き時間を縫って、高級住宅地として名高いマリブに、建築界の巨匠フランク・ロイド・ライト(1867-1959)のお孫さんを訪ねたことが記されている。で、同じスマホで、今度は写真アプリを立ち上げて、同日の記録を確認すれば、確かに、そのときのライト夫妻や、自身も建築家であるライトさん自らが手がけたご自宅の写真などが次から次へと湧き出てくるではない

          フランク・ロイド・ライト3世の未完の邸宅

          吉田キミコ画のある風景④: 赤帽さんの助手席に乗って

          青梅の個展では、その絵は「非売」となっていました。何年も前から、何点かある近い将来の購入希望リスト中の一枚として、キミコさんのご好意で額縁の上辺に小さな予約済の紙片を貼っていただいていたのです。 人形を抱く少女はキミコ画に独特の朱赤の服が印象的です。その、いわばキミコ・バーミリオンにも増して、絵を収めるケーシング自体がレリーフとしての高い完成度を誇り、しかも、絵そのものと一体化しているのがなんとも素敵。 ただ、キミコさん自身、大きな油絵を描くことに情熱を傾けておられた一時

          吉田キミコ画のある風景④: 赤帽さんの助手席に乗って