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新NISA陰謀論について(無料記事) 投資のススメ・番外編

色々と重なり、間が空いてしまった。ご容赦を。
「パッシブはタダ乗り疑惑」を予告済みで書きかけてあるのですが、この乱調相場で平常運転も気が引けるので、今回は番外編です。
一筆書きですので乱文ご容赦。

「新NISA」がバブルを作った?

何やらネット空間では今回の暴落と新NISAを絡めた、政府批判や陰謀論やらが目立っているようです。曰く、
「新NISAで投資を煽られた庶民が投機に巻き込まれた」
「米国株バブルを延命するために日本人の資産が狙われた」
などなど。もっとダークな陰謀論もありますが、省略。

急落で損した方も多いでしょう(私もです)。
馬鹿みたいに暑くて参っている方も多いでしょう(私もです)。
頭に血が上るのはわかります。
しかし、ここは落ち着きましょう。

まず、「ジャパンマネーが動員されて高値掴みさせられた」論。
確かに、タイミングとしては、高値で買っちゃった人は多いかもしれない。
でも、今回のバブルの形成と崩壊に新NISAが与えた影響はそれほど大きくないでしょう。マネーの規模がそこまで大きくない。
今、マーケットがしっちゃかめっちゃかになっているのは、いわゆる円キャリートレードをやってたヘッジファンドのパニック売りというか換金売りのせいです。
新NISAに絡んだ投資マネーの動きはせいぜい数兆円。
対するキャリートレードは、実態は見えませんが、その数十倍か数百倍の規模です。

おさらいしておくと、円キャリーってのは、投資するお金自体を借金で賄う方法です。円は金利が低いので、高金利のドルに転換すると金利差分くらいのリターンが得られます。ほぼ0%で借りて、5%で貸す、みたいな感じですね。
で、ドル転したお金で、たとえば米国のテック株を買う。それがドヒュンと上がると、ドヒュン+5%儲かる。
とても美味しそうですが、「円高にならない」が前提ですよね、この取引。金利差分が円高・ドル安による為替差損で吹き飛んだから意味がない。
で、ちょっと前まで、日銀はガンガン利上げするガッツはないし、米国の景気は崩れないし、しばらく円安だろ、とみんな考えていたわけです。1ドル160円行った時も、次は180円、200円だ、とみんな言ってた。
だから円キャリーとリスク資産投資をどんどん膨らませた。

利上げは「最後の一滴」だった

ところが、日銀の利上げと米国の雇用悪化が重なって、「あれ?円キャリー、やばい?」と言う雰囲気に一気に変わった。
こうなると、「最初に逃げたもん勝ち」みたいな状態になる。
「円売り・ドル買い→米国株買い」
が逆流すると、
「米国株売り→円買い・ドル売り」
になるわけで、流れが一度そうなったら、
「米国株売り→円買い・ドル売り→日米株安→ヤバいから円キャリー解消」
となる。
今まで日米の株価を押し上げてきた構造がひっくり返ったわけです。
円キャリーって「円借り」なので、早く換金して借金を返さなきゃいけない。貸してる相手は「返さないなら追加で担保をよこせ」と言ってくる(マージンコール、と言います)。早く、売らねば!
このアンワインド(既存の取引の解消)が空前の規模になったので、特に円高自体が株安要因になる日本株が空前の下げになったわけです。

「じゃ、やっぱり植田日銀が悪いんじゃないか」と思いますよね。
私も、良い、悪い、については、そう思いますよ。

まず、とにかく、間が悪い。
日銀会合前には「米国の景気、おかしくないか?」と言った見方や米大統領選の絡んだ思惑で、もう円安は一服していました。
「利上げするぞー」と構えを見せたら、利上げ効果が先に出ちゃった。よくあることです。
日銀も、別に金融を引き締めたいわけじゃないでしょう、今のタイミングで。民間のエコノミストの景気分析も厳しめだし、消費は弱い。
でも、円安を放置したら、物価が高止まりしたり、投機筋が調子に乗ったり、具合が悪い。
だから早めに利上げで一発カマしてやろう、と言う話だったはず。
永田町から「やれ」と言う声が上がったのも円安是正が狙いだったわけで、あのタイミングで利上げする必然性はもう消えていた。

それと、言い方が悪い。
植田さんの会見、利上げしちゃったんだから、ああ言うしかないんだろうな、とは思います。
でも、利上げ自体が「やらんでもいいタイミングでやっちゃった」んだから、「ここからバンバン行くよ」と念押しする必要まではなかった。

と言う具合に、日銀は二重にやらんでもいいことをやってしまった。
でも、その「罪」の大きさは、この大暴落に値するほど大きいか、と言われれば、そんなことはないのではないか。
その程度でこんな暴落が起きるなら、3月のマイナス金利解除の時にも1割、2割くらい日本株が下げてないとおかしい。

何が言いたいかと言うと、今回の利上げがシングルアクションとして「やらかした」のではなくて、政府・日銀の「やらかし」はもっとずっと前から溜まってたマグマだ、と言いたい。
それが何かといえば、150円を超えるような水準まで円安を放置したこと。放置というより、加速させたこと、と言ってもいい。
黒田日銀時代から貯めに貯めたマグマを引き継いだ植田さんは、気の毒といえば気の毒ですが、政府が円買い・ドル売り介入を空前の規模でやりながら、日銀がマイナス金利と莫大な国債買い入れを続けるなんてポリシーミックスを続ければ、歪みが貯まるのは必然です。
莫大な円キャリーの山が、その歪みの最たるものだった。

今回の利上げに対して「国内景気や物価を見れば緩和を継続するべきだったのに引き締めを焦ったのが間違い。利上げ凍結か、なんなら撤回して利下げを」なんて声があります。
でも、それって、もう円安が止まった(かもしれない)から言えることですよね。
景気良くないじゃないか、ということなら、多くの新興国はそれを承知でこの2〜3年、それでも利上げをやってきたんです。通貨安でインフレが亢進してしまうから。
日本はそこまで物価は酷くない。
でも、円の下落っぷりは、世界最弱に近い酷いものだった。というか、145円程度では、まだ酷いままです。「安い日本」はから騒ぎじゃなかった。
だから、植田会見ほどアグレッシブでなくても、「一発カマす」のが必要では、というのは当然の議論だった。
今後、マーケットが落ち着いて円安が再燃するようなら、また考えなきゃいけない。
流石に次の利上げのハードルは激烈に上がったので、170円とかまでいかないと難しい気がしますが。

ちなみに植田日銀が一発カマしたところで、円安にかけられるブレーキは大したことはないんです。
今の円安は短期的にはほぼ日米金利差で決まってます。日銀が頑張ったって、3%台から5%台までダイナミックに動く米国の金利の前ではノイズ程度の意味しかない。
円が上がるか、下がるか、これはほぼほぼ米国の金利、つまり米国の景気と物価にかかっています。
日銀は円高に持っていくカードは持っていない。
円安のカードもないけど、無策でいると、ヘッジファンドと日本人が勝手に円を売ってくれる。そんな状態。

一筆書きなので長くなっちゃうな。
何の話だったかというと、今回の暴落は、長年の日銀の緩和と調子にのった投機マネーが長年かけて用意したものであって、2024年からちょろちょとと数兆円動いただけの新NISAは脇役でしかない。モブキャラクラスの脇役。
もちろん、投資した人にとっては、脇役だろうが痛いです(私もです)。
でも、「俺たちをコレに巻き込むために動員したのか」と言われるほど、マーケットでの存在感はないのです。

それでも「投資のススメ」

最悪のタイミングで「貯蓄から投資」の流れを作ってしまい、トラウマを抱えた投資家が新NISAから脱落する。
こんな「政府が悪い」論も聞こえてきます。

えー、まず、ですね。
投資は自己責任です(笑)。
それに、私は最悪のタイミングだとも思いません。というか、最悪のタイミングだった、ともし分かるとしても、それは20年後か30年後でしょう。
日経平均でいえば4万2000円くらいの今年の高値、あれを20年後も抜けず、日本株へのトータルリターン(配当込みの収益)が20〜30年でマイナスになるなら、今は最悪のタイミングだった、と言える。
でも、相当悲観的に世界経済の先行きを見積らないと、そうはならないですよね。株価は名目値なので、「世界経済いまいちだなー」が長引いても、インフレになったら上がっちゃいますから。
今、日本株の加重平均配当利回りは2%くらいでしょうか。最近ちゃんと見てないな。30年分、複利で考えて、その分も吹き飛ばなきゃいけない。
仮に20年積立投資するとして、今年1〜8月の買い付けは全体の3%くらいでしょうか。
私は色々悲観的に見てますけど、それでも「今が最悪のタイミングだった」となる確率は相当に低い、と思います。
積立投資の人は「淡々と継続」が吉ではないでしょうか。
私自身は積立は続けつつ、大暴落の日に前から狙っていた某個別銘柄を2つほど、買っちゃいました。「これくらいなら買うのになー」というところまでバリュエーションが下がっていたので。
超長期保有するつもりなので株価はいくらでも良かったんですけど、3割ほど安全マージンが取れたのはラッキーでした。まだ下がるかもしれませんけど、ちょっと前の高値で買うよりはリスクは少し低い。

なお、あえて付け加えれば「やっぱり最悪だったかー」となるのが心配なので、金(ゴールド)にも分散投資しています。

あれこれ書いてきましたが、そろそろ次のお約束に行かねば、という時間なので、ここまでで。
ということで、大暴落にもめげず、「投資のススメ」の連載は続きます。
今回は番外編なので、全文無料にしておきます。

次回は連載テーマに戻りますね。

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