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金投資の裏技 「10万円玉」物語(全文無料で読めます)

(この記事は全文無料で読めます)

金相場がずいぶん値上がりしています。NYの先物は1トロイオンス2000ドルを超え、円建て価格もご覧の通り。青がドル建て、赤線が円建て(田中貴金属のサイトより

https://gold.tanaka.co.jp/commodity/souba/m-gold.php

なぜ、という話は割愛します。
私は現在、そこそこの量の金を持っています。
初めて金を買ったのは2008年3月の米投資銀行ベア・スターンズ破綻の直前でした。当時の金価格はドル建てで1000ドル程度、円建てで3000円くらいでした。コツコツ積み立てを続けたので、それなりに利益が出ています。

局所的には喜ばしいのですが、自分の人生全体にとって、あるいは世界にとって、金が値上がりするのはロクでもないな、と憂慮しています。
なぜそう考えるのか、なぜ金に投資しているのか、はこちらのnoteに書きました(有料。このnoteと同じマガジンに入っています)。

金融危機に金投資デビューした際、私は3つの形態を選択しました。

①金地金(物理的な金の塊)
②金積立投資
③金貨

金地金を買ったのは「金融システムの全面的崩壊から世界恐慌まで危機が深まる恐れがある」と考えたからです。実際、半年後のリーマン・ショックの後には世界中でドルの流動性が枯渇する危うい場面がありました。
積立投資はもう少しマイルドなリスクヘッジとして分散投資に組み入れました(気になる方は前述のnoteを参照ください)。

このnoteでは金貨にフォーカスします。今でも一応有効な、ちょっと愉快な「裏技」があるからです。

私が買ったのは、昭和天皇の在位60周年を記念して1986年に発行された10万円金貨でした。正式名称は「天皇陛下御在位六十年記念硬貨」。
以下、Wikipediaから抜粋します。

10万円金貨は、日本で初めて発行された記念金貨、および初の1万円を超える額面の貨幣であり、かつ第二次世界大戦後初の金貨である。
1985年昭和60年)11月18日第3次中曽根内閣の大蔵大臣であった竹下登が、昭和天皇の在位60年を祝うために金貨を発行する方針を発表した。この背景には次年度の財源確保のためと、貿易摩擦が深刻であったアメリカから金貨鋳造に使用する大量の(223トン)を購入することでこれを緩和しようとの思惑があった。そのため当局は10万円金貨、1万円銀貨、500円白銅貨を大量に発行することになった。
特に10万円金貨は1000万枚と発行総額は1兆円にも上った。金貨1枚あたり金を20
グラム使用していたが、当時の素材の価値が1グラムあたり1900円であり、製造費込みでも半分以下の原価にすぎなかった。従来発行された記念硬貨同様、法定通貨ではあるものの殆どは退蔵され、通貨としては流通しないと見込まれたことから、その差益5500億円が国庫に入る見込みであるとされた。

Wikipediaより

発行の経緯自体が愉快ですが、本稿におけるポイントは3つです。

・額面が10万円であること
・20グラムの純金製であること
・大量に発行されたこと

まず「額面が10万円」だから、普通のお金として10万円分の価値があります。
要するに、これは「10万円玉」なわけです。
買い物では使えないだろうけど、少なくとも銀行に持ち込めば1万円札10枚と交換してもらえる。おそらく銀行が日銀に回して鑑定してもらって、と手間がかかるはずなので、換金には時間がかかります。

「20グラムの純金」が何を意味するかは、検索するとすぐ分かります。

真ん中に違うのが混じってますが、右と左はこの「10万円玉」のネット上の取引価格です。
金1グラムの店頭買い取り価格は9000円を超えています。20グラムの金には20万円くらいの価値がある。

つまり、この純金製の「10万円玉」は、額面10万円と時価20万円の一物二価状態になっているのです。

3つ目のポイントは「大量発行」でした。これは記念硬貨としては価値を下げる要素です。希少性がないからプレミアムがつかない。
しかし、これは裏返しで「投資する際にノイズになるコストがない」という魅力にもなります。

勘が良い方はもうお気づきでしょう。
タイトルの裏技とは、この「10万円玉」を買って金に投資することです。
普通の金投資の違いは、額面10万円という最低価格保証があること。

金が暴落して1グラム5000円を大きく割り込み、20グラム分の金が5万円とか、3万円とか、極端な話、1万円以下になっても、「10万円玉」なのだから、1万円札10枚と交換してもらえます。
一方、金価格が一段と上昇すれば、「10万円玉」もほぼ連動して値上がりします。

私の体験談に即して説明します。
金融危機のまっただ中で「10万円玉」投資作戦を思いついたとき、20グラムの金の価値はおよそ6万円でした。「時価」で利益が出るまでには金価格が5割程度は値上がりする必要があった。
それでも私は数枚、この「10万円玉」を買いました。大量発行のおかげで、街のコインショップの流通価格はとても安かったからです。
私の「10万円玉」の調達コストは1枚10万5000円でした。
あるコインショップに行ったとき、店主から「買い取りをほぼ断っている。買い取るとしても額面の10万円で引き取っている」と聞きました。プレミアムが付かず、仲介業者としては値ざやが取れないうまみに欠ける商品だったのです。
私は店主に「持ち込まれたら買い取って、私に電話をください。必ず10万5000円で買います」ともちかけ、1カ月ほどで予定の枚数を入手しました。

利益が出る可能性が低い段階で「投資」に踏み切ったのを金融の言葉で表すとこうなります。
「5000円のオプション料で実質無期限のコールを買った」
ふつうの言葉に直します。
「10万円玉」なので価値の下限は10万円。この部分は元本であり、ただの現金の等価交換とも言えます。
そして将来、金が大幅に値上がりすれば、連動してもうかる。この「もうかる可能性」を5000円で買った、というわけです。
これは一種のデリバティブ(金融派生商品)のコール(買う権利)と考えて良いでしょう。
特徴は無期限という点です。
通常、コールは1カ月から数カ月、長くて2年程度が取引の期限です。でも、金貨は「現金」ですから、期限がありません。極端な話、生きているうちに一瞬でも金貨が11万円に値上がりすれば、利益が出るチャンスが生まれる。辛抱強く待てるのは、プロと比べた個人投資家の強みのひとつです。
実際、私の仕掛けたこのオプション取引は、数年がかりで「イン・ザ・マネー(利益が出ている状態)」になりました。

「いいことだらけ」のようなこの話、さらに愉快なオマケがあります。
再びWikipediaより抜粋します。

金貨大量偽造事件
1990年1月29日、在位60年金貨の大量偽造が発覚した。
偽造された金貨の枚数は10万7946枚に上り、被害額は107億9460万円という巨額であった。
日本国内最大手の貨幣商が、スイスから輸入した10万円金貨1000枚を東京の都市銀行に預けたところ、チェックをしていた銀行員がそのうち1枚の包装に違和感を覚えた。
その為、日本銀行および警視庁科学捜査研究所で鑑定したところ、預けられた1000枚すべてが偽造であることが判明。その後の調査で偽造された金貨が2年前から日本に流入していたこと、しかも確認された偽造金貨10万7946枚のうち、8万5647枚が日本銀行に還流していたことが判明した。
偽造された金貨は本物から鋳型をとって鋳造したもので、10万円金貨が純金製であったため、偽造が容易であり、このような大量の偽造硬貨が製造できたと見られる。
これら大量の金貨を日本に輸出したのはスイスの貨幣商の男性であったが、その背景には国際的偽造グループが介在していた可能性が高い。しかし偽造グループは特定されず、日本円で約60億円という高額な金銭を懐に入れて消えてしまった。

「原材料を安くあげて金貨発行で大もうけ」を狙った日本政府の裏をかいて、巨額の贋金事件が起きたのでした。
実に愉快な話ですが、投資家としてみると、これはリスクです。ニセモノの金貨をつかまされる可能性があるわけです。
上記記事によると、偽造事件発覚後、「証拠品の偽造金貨は表面を圧延の上で、地金として関係者に返還された」とのこと。
つまり、ニセモノをつかんだ場合、それは「金の塊」に変わり、「10万円の最低価格保証」は消えます。

以上、ちょっと変化球な金投資のお話でした。
それにしても、この「10万円玉」、「お金ってなんだろう?」と考えるヒントにもなり、見かけよりずっと重い金貨の手応えも独特です。街のコインショップで見かけたら、お手に取ってみてはどうでしょうか。
なお、言わずもがなですが、投資は自己責任でお願いします。

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