幻の企画書と「妄想力」の効用 漫画版「おカネの教室」ができるまで②
コルクとのタッグで漫画化プロジェクトが進行中の「おカネの教室」。メイキングの内幕を紹介する連載第2回は、原作の創作の裏側にある世界観とともに、漫画化を目指して高井さんが早くから動いてた内幕を公開します。
未読でしたら、連載初回と漫画家ワタベさんのキャラ絵を巡る苦闘の裏話をまずご覧ください。
では、今回もぶっちゃけて参ります。
「本になる前」からあった映像化希望
「おカネの教室」は、
2010~16年 7年かけて家庭内連載が完結
2017年春 Kindle個人出版で1万部突破
2018年春 インプレス・ミシマ社の共同レーベルで商業出版
というちょっと変わったコースで本になっています。
実は「おカネの教室」はKindle版が出た直後から「漫画化・映像化を!」という要望をたくさんいただいていました。
著者としては、嬉しい半面、「まだ本にもなっていないのに無茶いうなよ」というのが正直な思いでした(笑)
なぜそうした声が多かったかについては、このnoteの前半に私なりの考えがまとめてあります。
該当部分を少し引用します。
片岡義男は20年ほど前、自選の18の短編に自らショートコメントをつけるというユニークな「小説作法」という本を出した。短編「パッシング・スルー」に添えたコメントにこうある。
自分が見た光景をいったん頭の中で映画フィルムに置き換え、そのフィルムを頭のなかで映写しつつ、スクリーンに映し出されるものを言葉で描写していく、という趣を強く感じる。少なくとも小説の場合、僕の書きかたは基本的にこうなのだ。(『小説作法』片岡義男)
「おカネの教室」も同じような手法で書かれている。というより、シーンを思いうかべ、そこで繰り広げられる登場人物たちの言動を写し取っていく以外に、物語を書く方法はあるのだろうか。
いずれにせよ、こうした書き方が、映像化・マンガ化希望が多い一因だろう。読んでいると「絵が浮かぶ」のだと思う。
世の小説家(私は自分はまだ「小説家」ではないと認識しています)がどうやって物語を創作しているのかよく知りませんが、私の場合は「頭の中の世界で進行する映像を記述する」という形で作業は進行します。
私に絵心があったら、「おカネの教室」はそもそも家庭内連載漫画になっていたんじゃないかなと思います。
子ども時代からの空想癖
ついでに話を広げると。
これまた世間の皆さんの頭の中がどうなっているのか、よくわからないのですが、私は子どものころから妄想癖があって、常に頭の中に複数の空想上の世界が存在しています。
泡のようにすぐ消えてしまうものもありますが、空想が膨らんで豊かな世界に育つと、かなりの長期間、頭に居座ります。
たとえば、もっとも寿命が長いものは、子ども時代からかれこれ40年ほどのお付き合いの、ある「街」です。繰り返し夢に出てきますし、たまに起きているときにも空想の中で覗き見たり、散歩に行ったりします。
この他にも「定番」で4つぐらい、「補欠」が同数くらいいて、頭の中の遊び場になっています。
知人にこの話をしたら変人扱いされたので、ここに書くのも若干躊躇しましたが、空想で遊ぶって少なくとも子どもならみんなやることだろうし、それの「作り」がちょっと凝っているだけだと思うのですが……。
「おカネの教室」の世界も、7年の連載の間に定番の「いつでもアクセス可能な世界」に育ちました。
そこには、登場人物たちだけじゃなく、本には出てこない脇役というか住人もいて、あれこれ会話を交わしたり、寸劇を繰り広げたりしています。家庭内連載をやっている間には、寝る前なんかにその世界にちょいちょい遊びに行ったり、物語の続きを書く前に30分ほど空想に浸ってウォーミングアップしたりしたものでした。
ちなみに今は「続編」の3年後の世界で、3人組や他の人たちがウロウロしたり、アレコレやったりしていますが、あまり先に進まないように「雑談」や「寸劇」にとどまるよう、時間の流れにブレーキをかけています。書くときの楽しみが減るので。
コミカライズ企画書、アリます
閑話休題。
2018年に商業出版され、売れ行きも好調だったので、「これはコミカライズできるんじゃないか」と期待が膨らみました。
実際、いくつかの出版社に企画を持ち込みました。
以下、私が作ったペラ2ページほどの企画書の一部をご紹介します。
「1.原作について」はネタバレ(&私の身バレ)満載ですので項目のみ列挙し、「2.マンガ化について」も適宜省略してあります。
経済青春小説「おカネの教室」の漫画化企画書
1.原作について
<あらすじ>
<特徴>
<出版の経緯と実績>
<著者略歴>
2.マンガ化について
<作品のテーマ>
お金は「社会の基本ルール」。なのに、学校では教えてくれない。君も「そろばん勘定クラブ」に!
<舞台設定>
首都圏の周縁部にある、人口数万規模の街の、ごく普通の公立中学校(埼玉・神奈川・千葉あたりをイメージ)。
ドラマの軸は学校内のクラブ活動で、主人公とヒロインの家庭の描写も挿入される。クラブはときに、ホテルのカフェや工場見学、会社訪問、河原での散策といった校外でも展開される。
マンガ化にあたっては、小説内で省略されている、少年と少女の各クラス・部活動や、両家庭の様子、講師の回想シーンなどを具体的なストーリーとして描くことができる。
<キャラクター案>
▽主要キャラ
◎サッチョウ
◎ビャッコ
◎カイシュウ
▽サブキャラ(〇は準主要キャラ、★はマンガ版オリジナルキャラ)
サッチョウ一家
〇木戸勇人(父) 消防士。夜勤で留守がち。
〇木戸●●(母) パートの兼業主婦。自由放任主義だが、締めるところは締めるタイプ。
〇木戸千秋(姉) 地元の公立高に通うお気楽女子高生。
ビャッコ一家
〇福島啓介(父) 消費者金融とパチンコ業を差配する実業家。
〇福島優子(母) 祖母の不動産業を補佐する、優雅で楽天的なマダム。
〇福島喜代(祖母) 街の半分を支配する大地主の女帝。
★福島雄介(祖父) 故人。不動産業から、金融、パチンコなど娯楽に事業を拡げた。超頑固。
★福島慎介(兄) ビャッコの兄。大学卒業後に大手不動産で修業して跡取りとなる予定。
★山本(運転手) 2代にわたって仕える老運転手。ビャッコが心を開く数少ない相手。
学校関係者
★富樫翔也 バスケ部のセンター。同じクラスでビャッコの孤立に気遣う。
★立川実咲 ビャッコのクラスのボス的女子。ビャッコを孤立させる。
★宮川先生 ビャッコの担任。
・小木曽先生 サッチョウの担任。
その他(カイシュウの回想シーンで登場予定)
〇ラジーブ カイシュウの大学時代の同級生。数学・物理の天才
★スティーブン教授 カイシュウとラジーブの指導教授
★ベン・ウェバー カイシュウの大叔父。
「おカネの教室」を読まれた方なら、★のついたキャラクターにご興味を持たれるかもしれません。
これらは本では登場しない人たちですが、私の頭の中の「おカネの教室」ワールドでは顔なじみです。
たとえば、「僕」ことサッチョウさんはバスケ部所属ですが、部活の様子やチームメートは本には出てきませんが、頭の中の世界にはビャッコさんとクラスメートの長身のセンターの少年(翔也)がいて、同じクラスにはビャッコさんをクラスで孤立させようとする女子(実咲)もいます。
頭の中では、この4人が絡むシーンがいくつも浮かんでいて、それが実際のストーリー展開に影響しています。
勝手に動く、勝手に動かせない人々
これは、作劇術としてみれば「裏設定」みたいなものですが、そんなテクニックというより、私の妄想の産物という側面の方が強いように思います。話を膨らませて遊んでるわけですね、頭の中で。
執筆という面では、こういう世界がすでにあって、人物たちはそこで人格をもって生きているので、勝手に動いてくれるというか、私が勝手に動かせない状態になっています。
そのあたりの機微は、この異様な分量の執筆体験記に書きましたので、お時間あれば。
元はただの私の妄想癖なわけですが、こういうバックグラウンドの世界があることは、実際に漫画化にむけたネーム作りでとても役に立っています。
具体的には、もう脳内に存在する回想シーンを入れたり、本では出てこないやり取りのシーンを挿入することで、よりキャラクターの感情表現を豊かにできる、納得感のある形でストーリーを展開できる、といった点が挙げられます。詳しいことは今後のこのnoteの連載で。
高かった「連載」のハードルと突破口
さて、ご紹介したコミカライズ企画書に話を戻しますと、結論から言えば、具体的に持ち込んだ先からレスポンスはなく、話が進むことはありませんでした。「幻の」というより、単なる「ボツ」ですね(笑)
理由はおそらく、「連載のハードル」を超えられる見通しが立たなかったからだと思います。
週刊にせよ、月刊にせよ、コミック雑誌の連載枠というのは、恐ろしく競争の激しいイス取りゲームです。
「おカネの教室」は、新人作家のデビュー作としては上出来の売れ行きで5万部出ていますが、「コミカライズすればヒット間違いなし」というほど売れているわけではありません。
「漫画的」な物語ではありますが、そのまま右から左に漫画化できるはずもなく、かなりの再構成も必要で、だからこそ企画書には★のようなキャラを配置したわけです。
それでも、やはり「雑誌連載」というハードルには届かなかった。
「それでも、何か手はないか」と考えていたところで突破口になったのが、前回書いたコルクの佐渡島さんとの出会いだったというわけです。
今回は漫画化に至る前日譚と私の妄想癖について詳しく書いてみました。
次回以降は現在進行形の漫画化作業について、具体的なことをご紹介する予定です。
乞うご期待!
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