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ハワード・ヒューズ医学研究所とハワード・ヒューズの奇妙な半生

ハワード・ヒューズ(1905-1976)と言う大富豪をご存知だろうか。

18歳で両親を失い、その莫大な遺産を相続。21歳でハリウッドで多額の資金を利用して映画「地獄の天使」を製作し、大ヒットとなる。その後も映画製作にかかわり有名な女優たちと色恋沙汰を繰り返す。さらに、自ら起こした航空会社も成功し、自ら大陸間飛行を成功させ、当時最速の世界一周飛行も成功させている。のちにラスベガスのホテルを買い占め隠遁生活を始める。

これだけみても映画のような人生なのだが、実在した人物である。

なぜこのハワード・ヒューズを取り上げるのか。

それは彼の名のついた研究所 ハワード・ヒューズ医学研究所(Howard Hughes Medical Institute, 通称HHMI)を彼が設立したからである。

神経科学系でもHHMIが保有するJanelia Farmは世界でも有名な研究所の一つである。

ウェブページで公開されている情報を抽出してみた (2019年版)。財団の額でいうとBill & Melinda Gates財団に次いで2位である。

総資産:225億ドル (東大1.3兆円)
予算規模:8億ドル (東大2700億程度、三分の一以上)
研究者数:2364人
有名な研究者:ゲノム編集でノーベル賞を2020年に受賞した、ジェニファーダウドナ博士や, 利根川進博士など30名以上のノーベル賞受賞者
考え方:研究者に長期的なプロジェクト資金を提供する(5年から7年レベルで)

なんとこの一つの研究所で日本のノーベル賞受賞者数を超えている(日本人受賞者30人, 2020年時点)。医学系の研究所としては誰もが羨む研究所になっている。

世界に冠たる研究所は、どのようなきっかけで生まれたのか。

それは、彼の会社の経営状態の不調からうまれている。

28歳でヒューズ・エアクラフト社を設立した。実は偽名でアメリカン航空でパイロットとして登録しパイロット技術を習得していたようだ。ハワードヒューズ自身で、大陸間飛行や、世界一周飛行を完遂した。その当時としては世界最速だった。

時は第二次世界大戦の前後、航空機に対する需要はうなぎ登りで、その影響を受けたヒューズ・エアクラフト社は、搭載量の多い航空機の製作を空軍と契約した。これは、イギリスに物資を送る際の大型船舶をドイツの潜水艦に破壊されたところから、航空機による輸送を目的とした開発だと言われている。その目的に合わせた航空機は、H-4 ハーキュリーズ飛行艇である。その当時世界最大の木製飛行機であり、1947年にはハワード自身が飛行運転した。しかし、莫大な制作費と第二次世界大戦の終結による需要の低下になり軍から発注されることはなかった。

その後も多額の負債を抱えたヒューズ・エアクラフト社の立ち退きを通告を空軍からされる。

その最終通告とは、空軍が求める人物に経営権を譲るか、株を売却しろというものだった。

彼の回答は、「課税のないバイオメディカル研究所を設立し、ヒューズ・エアクラフト社の全株式を研究所保有にする」ということであった。

彼は、課税を逃れ、かつ研究所に経営権を譲ることで結果的に自分自身の影響力を守った。

そのため当初はそれほど研究所の活動はなかったようである。しかし、1970年代以降、つまりヒューズが死亡する1976年近くから所属する研究者たちの活躍がみられる。

1986年には全株式を売却しHHMIは莫大な資産を手に入れることになる。

これがHHMIが莫大な資金を手に入れた経緯である。決して善意の気持ちでやったものではない。偶然による歴史の奇妙さによって成立している。

だがアメリカの税制が、バイオメディカルへの寄付を免税の対象としていたことが結果的にこの研究所を産んだということだろうか。


彼の半生については、Podcastでも収録している。ぜひ聞いてほしい。

"博士のティータイム: ハワード・ヒューズの半生と医学研究所" by 博士のティータイム. ⚓ https://anchor.fm/hiroteatime/episodes/ep-empoid

他にも彼の半生を描いた映画「アビエイター (2004)」は特にオススメ。

マーティン・スコセッシ監督をヒューズを演じたディカプリオ自身が説得し製作にこぎつけたと言われたくらいディカプリオ自身もヒューズに心酔していた。

歴史の妙を楽しんでほしい。

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複数の財団や研究機関(ハワード・ヒューズ医学研究所, プリンストン高等研究所, コールド・スプリング・ハーバー研究所, ソーク研究所, カヴリ研究所, テンプルトン財団, サイモン財団, 東京大学医科学研究所など)について紹介していくマガジンである。

大富豪は寄付をする。 それも莫大な額で。 研究機関にはそういった寄付に期待する人もいるだろう。 しかし, 慈善の心で寄付をするのだろう…

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