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撃墜王 アフリカの星:これは反戦映画だ

撃墜王 アフリカの星
1957年 西ドイツ映画
原題:Der Stern von Afrika

フー流独断的評価:☆☆☆

第二次世界大戦中のドイツの撃墜王、ハンス・ヨアヒム・マルセイユの短い生涯を描いた西ドイツ映画。終戦後12年が経過した1957年(昭和32年)に公開された。

ドイツ人がドイツの空の英雄を描いたドイツ映画だから、ドイツ的なのは当然だが、ドイツで暮らしたことがある僕の目から見ても、ドイツがとても自然に描かれていると思う。敗戦からわずか12年、祖国は東西に分断され、ナチス・ドイツのトラウマがまだ重くたちこめていた時期だ。空の英雄を主人公に、空中戦を描きながら、戦争という過酷な状況の中で人はどう人間らしく生きるのか、それを淡々と描いた立派な反戦映画だと僕は思う。

冒頭に描かれるのは、ポーランド侵攻の前夜。ヨット遊びを楽しむ明るく無邪気なドイツの若者たちだ。ルフト・ヴァッフェン・クリーク・シューレ(空軍戦闘学校)には自由があり、誇りもあったことが分かる。

主人公が帰省した時の清潔感のある家庭。あるいは、イタリア休暇中に恋人と過ごす甘美なひととき……これらがすべて良きドイツの典型であり、ナチス政権下でも、それらは変わることはなかったと訴えている。

そして、実写を主とした飛行機の映像の美しいこと。スペイン空軍で当時まだ現役だった機体を使ったメッサーシュミットBf109の編隊飛行には、うっとりさせられる。兵器である前に、エンジニアリングの結晶としての美しさを誰も否定することはできないだろう。

メッサーシュミットが飛行機の主役とすれば、脇役として「こうのとり」と呼ばれたフィーゼラーFi156シュトルヒも実機で登場する。僕のような飛行機マニアにとって、それは絶世の美女がヒロインを演じる映画と同じような意味がある。

この作品を有名にしたのは、映像以上にその主題歌である『アフリカの星のボレロ』だろう。夜の飛行場で出撃を待つメッサーシュミットのバックに流れるロマンチックなボレロ。戦争があろうとなかろうと、人間は美しいし、飛行機も美しい。絶対悪は、人間を殺戮し、飛行機を破壊する戦争だ。僕は、この映画には強烈な反戦のメッセージがこめられていると確信する。

監督:アルフレート・ヴァイデンマン
脚本:ヘルベルト・ライネッカー、ウド・ヴォルター
製作:ルディガー・フォン・ヒルシェベルク
出演:ヨアヒム・ハンセン、マリアンネ・コッホ
音楽:ハンス=マーティン・マジェウスキー
撮影:ヘルムート・アシュレー


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