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究極の「おわ恋」映画『マリッジ・ストーリー』

わたしたちの偏愛リレーという企画に参加しました。

恥を晒しつつ……でも読んでもらえたら嬉しいです。
恋が好きだ! とりわけ終わった恋が好きだ! 虚構の世界でくらい、恋が終わったあとに残るなにかを見せてくれ!! という話をしています。終わった恋、略して「おわ恋」。

とりあげたのは『ミッションインポッシブル・フォールアウト』、NHK連続テレビ小説『スカーレット』、『ラ・ラ・ランド』の3作品。
普段からおわ恋を積極的に探しているわけではないので、よほどじゃないと忘れがち。これを機に記録していくことにしました。根気のなさは筋金入り。どこまで続くか、我ながら見ものです。よろしくお願いします。

さて、緊急事態宣言が全国へ波及する前、最後に映画館で見たのが『マリッジ・ストーリー』でした。予告編を眺めながら、次はどれを見ようかなんて悩んでいたのが懐かしい。
本作は2019年公開のNetflix映画。作品紹介は以下の通り。

離婚プロセスに戸惑い、子の親としてのこれからに苦悩する夫婦の姿を、アカデミー賞候補監督ノア・バームバックが、リアルで辛辣ながら思いやりあふれる視点で描く。

アンコントローラブルなアダム・ドライバーの魅力

本作はスカーレット・ヨハンソン演じる妻ニコールの敏腕弁護士、ノラ役のローラ・ダーンがアカデミー助演女優賞を受賞したことでも注目されました。
彼女よかったですね! 最初に目頭が熱くなったのは、ニコールがはじめてノラの弁護士事務所を訪れた場面。
どうせ分かってもらえないと構えるニコールに、ノラは自分の離婚経験を語り、おいしいお茶とお菓子をすすめ、ハイヒールを脱いでソファに上がります。友達みたいに。
ニコールが離婚を決意したのは、いわゆる「気持ちの問題」です。誰にでも理解してもらえるわけじゃない。でも、だからこそ切実で……寄り添おうとしてくれるノラの姿勢に涙腺が緩んでしまいました。

そして、序盤にそこまで感情移入してしまったのはスカーレット・ヨハンソンとアダム・ドライバーの芝居力ゆえ。
離婚協議が行き詰まり、とうとう生の感情をぶつけあった場面のすさまじさ! 口喧嘩がエスカレートして、言葉が本心から乖離していくあの感じは誰しも身に覚えがあるものじゃないでしょうか。
ちゃんと立ち止まれて偉かったねチャーリー……。ニコールを応援していたのに、終わってみれば考えてしまうのはチャーリーのことばかり。ニューヨーカーになれてもロスに馴染めない理由、親との関係、息子への執着。チャーリー、チャーリー……アダム・ドライバー!!!!
アダム・ドライバーのかわいさ、いっそよくないと思います。作品の倫理観を揺るがすレベル。

『パラサイト』と『1917』が、アカデミー作品賞に有力視されながら役者の個人賞へノミネートされなかったのが不思議だったんですが、その理由がわかった気がしました。
この二作品における役者はあくまで作品の構成物。もちろんその上でのベストキャスティング、ベストアクトでしたが、あくまで監督の緻密な計算のもと。コントロール下にある。
『マリッジ・ストーリー』は作品自体が役者の魅力に拠っていて、しかも、うっかりコントロールからはみ出してしまったように見えました。本来はもっと妻側に寄り添った作品だったのでは……。「男は欠点すら愛される」ことを指摘している映画ですが、アダム・ドライバーのかわいさがその指摘を補強しながら揺るがしている。このズレも含めておもしろかったです。

究極の「おわ恋」映画!

そして『マリッジ・ストーリー』は究極の「おわ恋」映画でした。

おわ恋を語るうえでの補助線となる「恋の4段階」があります。

【恋の4段階】
1.恋の始まり
2.恋愛中
3.恋の終わり
4.終わった恋

※「恋の終わり」と「終わった恋」は、たとえるなら生傷と傷痕。恋が終わっていくリアルタイムの様子が「恋の終わり」、時間がたって、過去の出来事として懐かしむのが「終わった恋」。

離婚が決まり、カウンセラーの指示でお互いの好きなところを数えあげようとする場面からはじまる本作は、違和感を覚え、別れを決意し、離婚を切りだす……といった過程は見せません。周囲も残念だねーなんて語り合いながらも、夫婦の選択を受け入れている。
時間はあまり経っていませんが、恋の4段階における「3.恋の終わり」は終わっていて、「4.終わった恋」期だけで、起承転結が成立してるんです。

そしてラスト、作品の幕引き。紆余曲折をへて離婚裁判が終わり新しい生活がすっかり落ち着いてから、ニコールの書いた「チャーリーの好きなところリスト」を息子のヘンリーが偶然見つけ、ふたりの前で読み上げる。
映画の幕開けで彼女が口にするのを拒否した最後のメッセージ。そこには恋が終わったあとに何が残るかという、わたしがおわ恋に求める理想がありました。 


元夫婦か元恋人が出てきたらそれだけでおわ恋!というガバガバ判定でやってるので、おわ恋自体は珍しくありません。「1.恋の始まり」から「4.終わった恋」までを丁寧に描いた作品もいくつか挙げられますが(ラ・ラ・ランドもそうですね)、こんな映画は他に思いつかない。

『マリッジ・ストーリー』は、おわ恋だけで構成され、おわ恋の理想を突きつけてくる、究極のおわ恋映画だったんです。

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