Google役員と広島県知事が対談《スタートアップも〝10X〟思考が成功のカギ》広島スタートアップサミット開催
G7サミットの開催を機に改めて国内外から注目される広島で、Google主催の「広島スタートアップサミット」が開かれました。Googleバイスプレジデント マーケティング アジア太平洋・日本地区の岩村水樹さんと、広島県の湯﨑英彦知事が広島のスタートアップ活性化について対談。 岩村さんは、スタートアップ支援プログラム「Google for Startups」などを紹介したほか、Googleの急成長の秘訣とも言える〝10X〟思考(10倍の成果を目指す)についても言及。そして、湯﨑知事は10年間でユニコーン(時価総額10億ドル以上)に匹敵するほどに急成長する企業10社の創出を目指す「ユニコーン10」の意気込みなどを語りました。 偶然にも10倍や10億ドルなど「10」という数字に縁がありますが、両者の話からは〝大きなゴールを設定して可能性を信じる〟ことが重要だと読み取れそうです。
岩村 Googleは、社会にイノベーションを起こすスタートアップをさまざまな形で支援していきたいと思っています。なぜGoogleがスタートアップを支援するのか。それは、私たちはテクノロジーによるイノベーションが世界をより良くするという信念があるからです。高い志を持ったスタートアップの皆さまが世界を変えるお手伝いをしたいと思っています。湯﨑知事とはスタンフォード大学(経営学修士)時代からの知己ですが、互いに元起業家であることも共通点です。知事は、ご自身の経験を振り返ってスタートアップについてどう考えていますか。
湯﨑 通産省(現在の経済産業省)に務めていた頃にインターネットの普及が始まりました。当時は新しい技術で、そうした新しい分野を発展させていくのはスタートアップだと感じました。スタートアップの成長には資金調達が欠かせず、ベンチャーキャピタルの存在が大きい。それで米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルに出向したんですよ。その後、自らブロードバンド会社の創業に携わり、5年後にジャスダック(当時)上場。広島県知事になってからイノベーション立県を掲げたのも、経済のダイナミクスや新しいものを生み出すためにはスタートアップが不可欠だと実感していたからです。今回の広島スタートアップサミットなど、Googleが後押ししてくれることは大きな力になります。
岩村 広島県とGoogleとのパートナーシップには、実は10年近い関わりがあります。例えば2014年の「デジタルによる働き方改革と女性活躍推進を目指す Women Will」プロジェクトには、実証実験パートナーとして広島県が参画してくださいました。 デジタルの力を日本中のすべての人に活用していただくことを目指した2016年の「Innovation Japan」というプロジェクトでは、広島県と一緒に地場のスタートアップを支援するトレーニングなどを提供。2019年からは「Grow with Google」と銘打ち、日本全国1000万人へのデジタルスキルトレーニングプログラムを実施。昨年からは日本リスキリングコンソーシアムとして、官民連携で一体となってデジタル人材育成やスタートアップ支援に取り組んでいます。 また2017年にはイノベーションサミットを開き、湯﨑知事、Google、マツダの「魂動」デザイン責任者、アスリート出身で実業家の為末大氏など多彩な顔ぶれによるパネルディスカッションを行ったほか、県内外から募集したベンチャー経営者や起業家によるビジネスプランコンテストを開催。広島県には一貫してパートナーになっていただき、感謝しています。
湯﨑 Googleから広島のスタートアップをサポートしていただけて大変ありがたい。広島県は、広島からユニコーンに匹敵するような世界に羽ばたく企業を10年間で10社創出することを目指す「ひろしまユニコーン10」プロジェクトを2022年3月に始動。企業のニーズや成長段階に合わせたサポートを提供しています。 具体的にはスモールスタート支援から、実証フィールドの提供、コミュニティの形成、事業成長支援などさまざまな取り組みを実施。今年7月からは、国内外で活躍するメンターがハンズオンで企業の個々の課題について徹底的に支援するアクセラレーションプログラムを予定しています。 よく「無理ではないか」と言われますが、「できない」という〝心のハードル〟を取り除くことが第一歩です。世界には、広島県の人口より少なくてもユニコーンをたくさん輩出している国があります。広島県には長年にわたり育まれてきた技術や文化があり、これまでも広島発で世界を舞台に活躍する企業が多数存在します。
「できないこと」はない。「ひろしまユニコーン10」プロジェクトでは候補企業を毎年選定し、つながりを蓄積していきます。その中から10社のユニコーンが現れるよう期待しています。
岩村 日本でスタートアップのエコシステム(連鎖・循環的に生まれる仕組み)は東京に集中している事実がありますが、広島県にもつくろうとされているのですね。
湯﨑 東京のスタートアップエコシステムが成功し、スタートアップが生まれる理由は何かというと、(先人や周囲を見て)みんなが「できる」と思っているからです。広島に人材・情報などのさまざまなリソースを呼び込み、県内外の支援者と連携して「オール広島」で挑戦者の後押しを行うことで、〝心のハードル〟を取り除ける環境をつくりたい。 特に、ユニコーンの創出には世界市場を狙う必要があります。広島は世界平和都市として国際的知名度があり、このたびG7サミットも開催されました。広島から世界に羽ばたき大きく成長することを志す企業の挑戦を、今後も応援していきます。
岩村 世界市場を狙うのは、よい試みですね。例えばインドの人口は日本の10倍超の規模があります。Googleには〝10X〟シンキング(10倍の成果を目指す)という考えがあり、非常に共感します。今後も、デジタルの力で広島という地域の個性と魅力を世界に発信し、広島発のグローバルスタートアップの創出に貢献したいと考えています。 G7サミットを通じて広島の文化、伝統芸能、産業など、さまざまな魅力を再発見させていただき、今後も広島のスタートアップを通じたイノベーションを後押しできるような取り組みをしたいという想いで、本日の広島スタートアップサミットを開催いたしました。 また、Google for Startupsが実施しているプログラムは、地方のスタートアップの方々がリモートでも受講できます。ぜひGoogleをスタートアップの成長に活用していただきたいですね。
対談後にはスタートアップがピッチを実施。単分子誘導体メモリ開発の株式会社マテリアルゲート、カテーテル関連尿路感染症を予防するためのデバイス開発を行う株式会社Medlarks、日本酒由来の熟成酒「浄酎」開発のナオライ株式会社、バイオDXとゲノム編集のプラチナバイオ株式会社の計4社が、それぞれの事業に懸ける思いを語りました。他にも広島スタートアップサミットではベンチャーキャピタルによる「マーケットトレンドと投資戦略」に関する講演、「事業会社とスタートアップの協業」や「広島と東京のスタートアップ」などがテーマのパネルディスカッション、グローバル戦略ワークショップなどが行われました。 スタートアップ4社のピッチを受けて、湯﨑知事は、「テック系を含めて多彩な分野のチャレンジャーが出てきたことがうれしい。新しい発想やストーリーの深みがある。大きな市場をにらみ、グローバルに活躍していただきたい」 岩村さんは、「スタートアップが世界を変えていく可能性を改めて感じました。ストーリーや想いの深さで人の心にささる起業家は、周囲に支えられます。Googleとしてもみなさんの想いをサポートしたい」と、それぞれエールを送りました。