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まさに猪突猛進?!「ジビエオタク」大学生起業家の静かなる野望【RING HIROSHIMA】

広島発のジビエのサステナブルブランドを創りたい!と息巻いている広島生まれの大学生がいます。そのエネルギーの源は、シンプルに「もったいない」から。食べてみれば美味しいのに、なんせ身近ではない。そんなジビエを、もっと多くの人に食べてもらって、野生鳥獣の廃棄問題を食文化によって解決したい、と日々アイデアを練っています。

CHALLENGER 合同会社gibierco代表・法政大4年 荒賀愼平さん

チャレンジャー・荒賀愼平さん

「おばあちゃんのみかん畑を荒らすとか、くさくて食べれんとか、いろいろ言われてますけど、食べてみたらめっちゃ美味しいんすよ!!もったいないなってずっと思ってて、それで起業したんです」

尾道で生まれた荒賀さんの原風景は、おばあちゃんのみかん畑。将来的に、ボランティアではなくてビジネスで社会課題解決をしたい、と常々思っていたところジビエと出会い、「野生鳥獣の廃棄問題を食文化によって解決する」という壮大な目標を打ち立てました。

野生鳥獣による農作物被害は深刻です。

・野生鳥獣による農作物被害額は161億円(令和2年度)。全体の約7割がシカ、イノシシ、サル。
・森林の被害面積は全国で年間約6千ha(令和2年度)で、このうちシカによる被害が約7割を占める。
・水産被害としては、河川・湖沼ではカワウによるアユ等の捕食、海面ではトドによる漁具の破損等が深刻。
・鳥獣被害は営農意欲の減退、耕作放棄・離農の増加、さらには森林の下層植生の消失等による土壌流出、希少植物の食害等の被害ももたらしており、被害額として数字に表れる以上に農山漁村に深刻な影響を及ぼしている。

(農林水産省ホームページより)

一方で、捕獲された鳥獣のうち大半は廃棄されているという実態もあります。国も、獣害対策とともにジビエ振興に近年積極的に乗り出しました。

令和元年度に全国で捕獲されたイノシシは約 64 万頭、シカは約 60 万 3,000 頭となっており、このうち、ジビエ利用のため解体されたイノシシは約3 万 4,000 頭(5.4%)、シカは約 8 万 2,000 頭(13.6%)となっており、9 割以上の捕獲個体がジビエとして利用されていない状況がみられる。

(農水省調べ)

MOTTAINAI!!

食べたら美味しいのに、もったいない!という思いが募りすぎて、大学2年のとき、友人と合同会社gibierco(ジビエコ)を設立しました。

荒賀さんが立ち上げたgibiercoのECサイト

さらに、「ジビエマニアによるジビエ発信アカウント」と銘打って、インスタグラムにジビエメディアを立ち上げ。

gibierco_official のインスタグラム

そして、東京でジビエイベントを50回以上主催してきました。そんな経験を引っ提げて、RING HIROSHIMAに挑戦しました。

「いつかは、広島県に移住して、ジビエの事業ができたらいいなとずっと思っていることもあって、広島ならやる気が出る」

なんと広島県は全国2位のジビエ利用量上昇県!!

ちなみに、広島県はジビエポテンシャルの高いところのようです。

ジビエ利用を激推ししている国が認証した全国31の食肉処理施設(今年4月現在)のうち3つが、なんと広島県内にあるというのです。しかも、2021年12月10日の日本経済新聞によると、2016年と2020年の利用量比較で、広島県は、徳島県に続いて全国2位のジビエ利用量上昇県!

具体的な目標は、スポーツイベントやスポーツ施設、または各種集客イベントで、キッチンカーなども活用して、シカ肉、シシ肉のホットドッグを売る仕組みをパッケージ化すること。そして、ジビエで広島発のサステナブルブランドを創る!と息巻いています。ホットドックならオペレーションがシンプルだし、お客さんだって食べやすいだろうなと、せっせとサンプルのソーセージを取り寄せては試食に勤しんでいます。

「全く違う形でジビエを出したいなって思ってるんですよね」

そして、猪突猛進で突っ走る荒賀さんの伴走者として、絶妙なセコンド、進矢光明さんが現れます。RING HIROSHIMAのセコンド同士のネットワークから、東広島市での集客イベントへの出店を提案。1時間弱で40食完売という成功体験ができました!

8月に東広島・西条で開かれたイベントに出店

SECOND 広島電鉄DX推進室 進矢光明さん

セコンド・進矢光明さん

「ジビエにも、獣害にも、全く関心がなかったんですよね。なんとなく苦手が先行して食べたこともなかった。でも、食べてみたら普通に美味しかったんです」

広島生まれ、広島育ちの進矢さんの本業は、広島電鉄の社員。自ら提案をしたDX戦略室の立ち上げに携わってそのまま配属となり、社内の業務改革に日々取り組んでいます。同社は副業が可能だそうですが、しかしなぜ、RING HIROSHIMAのセコンドに?

「二つあって、一つは、自分がどこまで社会や世の中に役に立てるか、挑戦してみたかった。もう一つは、こういう働き方を社内にも広げたくて。そういう活動を通じて、感化されたりする人がいればいいかな、みたいな」

セコンドでありながら、進矢さん自身もある意味、挑戦者。

「逆に言うと、すぐチャレンジャー側の視点になっちゃうんで、ちゃんとセコンドの仕事してんのかなって」

シカやらイノシシやら、いろんなジビエを次々に勧めながら、ジビエの魅力と取り扱いの難しさについてひたすら力説する荒賀さんの話に次第に引き込まれ、ジビエをめぐる状況が見えてきました。

「シカやイノシシが獲れる上流、解体して流通に乗る中流、商品として消費者に届く下流、そのいずれのところでも課題があるようなんです。食べたら確かに美味しいんですけど高い、っていうのは下流だけでもすごく感じます。販売の方法とかも含めてうまくやっていかないと消費量自体が増えないよね、という課題感は間違いないと確信しました」

農家さんを悩ませるイノシシ

食品衛生法などさまざまな法規制や流通のルールなどは当然ある。参入ハードルも相当高い。せめて、消費量を増やす、つまり、気軽にジビエに出会う風景を増やすことからならできるのではないか。

…ということで、首都圏在住の荒賀さんのために、地元のイベント開催情報などを収集してきました。8月下旬の東広島でのイベント出店に続き、11月下旬には宮島での出店に漕ぎ着けることになりました。

キッチンカーを視察し、笑顔を見せる進矢さん

とにかく事業計画を出せ!

そんな進矢さん、現在の進捗を冷静にみています。

「東広島で40本売れた、というのも、そもそもフードの出店が少なかったので、『ジビエだから』売れたわけでは正直ないんですよね。ただ、珍しがって買ってくださった人もいらしたので、『ジビエだから』売れるって言う必要もないんだろうなと」

今はただ、事業計画を出せ!と荒賀さんのお尻を叩いているそうです。

「原価だけで多分300円超えてるはずなんですね。結局1本600円で売ったのですが、ビジネス性としてはめちゃくちゃ厳しい」

そんな厳しい進矢さんの存在に、荒賀さんは感謝しきりのようです。

「進まないですよ、進矢さんがいないと。僕、計画性がないので、今必死で事業計画を作っています」

荒賀愼平さん(左)、進矢光明さん(右)

美味しいのにもったいない!をドライブに突き進んできましたが、ビジネスとして成立させるためには、とにかく具体的なオペレーションを考えて、カチッとした事業計画を出すことが必要。RING HIROSHIMAの挑戦期間に、そこまではなんとか辿り着きたいそうです。

「自分のホットドックとあうパンはこれ、ソーセージはこれ、そして何か
1本当たりの原価はこれ、と。ソーセージの原価は高いんですが、一般の半値ほどの業者を見つけました!」

下流、つまり消費拡大だけではなく、いずれ上流へも挑戦したいと荒賀さんは言います。

「やっぱり自分で加工場を持ちたいっていうのはあります。そして、いつか広島を拠点に事業展開をしたいんです」

試作品づくりに勤しむ荒賀さん

EDITORS VOICE 取材を終えて

知り合いのおじいちゃんの畑を手伝ったとき、山に設置した獣害対策用の檻を見せてもらった。小学生の我が子たちが中に入ってはしゃぐ横で、おじいちゃんは深刻な被害について語った。この秋稲刈りに行った田んぼは、一部の稲穂が無惨にも薙ぎ倒されていた。現場に行くと深刻さが身にしみる。ジビエは救世主!…なんだろうけど、現実は課題多し。物価高の昨今、ますますハードルが上がりそうですが、荒賀さんの異様なまでの勢いで、なんとかブレイクスルーを作ってほしいな、と口を開けて待つことにします。(text by 宮崎園子)


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