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農 on TV「ふるさとマルシェ」【RING HIROSHIMA】

日本の食糧の自給率がヤバイと言われて久しい。新規就農者の開拓、農業従事者の待遇改善などやるべきことは数多くあるが、今回のチャレンジャーが目を付けたのはライブコマース。ネット版テレビショッピングというか、オンラインの映像配信を見ながら視聴者が気になった商品を購入できるこのシステムを使って農業の現場を盛り上げたいという。そのイメージと現在地を追った。

CHALLENGER「株式会社アンドピリオド」藤中拓弥さん


今回の挑戦者・藤中拓弥(ふじなか・たくや)さんは2022年、大崎上島で「株式会社アンドピリオド」を立ち上げた。目的は「新たな一次産業をともに創業する未来」を作ること。そのひとつの事業が今回RING HIROSHIMAにエントリーした「ふるさとマルシェ」である。

 ライブコマースって、たとえばテレビで『満天☆青空レストラン』とか『キューピー3分クッキング』とかの料理番組がありますよね。そういうものを見ながら、そこに出てる食材をその場で購入できるサービスのこと。「ふるさとマルシェ」は、それを個人で行うんじゃなくて、地域単位で緩やかにまとまって開催する方式で、それを《マルシェ》と呼んでるんです。あと《マルシェ》で紹介された商品をユーザーが好きに組み合わせて購入できるのも特徴。たとえば別々の生産者が紹介したにんじん、ジャガイモ、みかんを頼むと、1つの箱に入った特産品セットのような形で自宅に送られてくるんです

藤中さん
リアルタイムで生産者の想いが感じられるライブコマース

なるほど、現地でのライブ配信を見て生産者から直にモノが買える。しかもそれがまとまってるので、好きな人の好きなモノを選んで、それが組み合わされて自宅に届く――まさにリアル版のマルシェをネット展開したのが「ふるさとマルシェ」と言えそうだ。

 私たちがいま実証実験してるのは、現地で生産者さんにインタビューする形式ですけど、ライブの内容は料理番組風でもいいし、「ダーツの旅」(『1億人の大質問!?笑ってコラえて!』)みたいなのでもいいし、『どっちの料理ショー』みたいな企画をやってもいい。産地の特色を生かして、その土地を訪れたいと思うような使い方をしてもらえればと思うんです

藤中さん

 簡単に言えば農をテーマにした映像プログラムを作り、それを配信して商品を販売し、地域もアピールする。藤中さんがやろうとしていることはある意味、地方にテレビ局を作るようなことかもしれない。

まさに畑の前からオンエア!

と、ここで藤中さんのバックグラウンドに興味が湧いた。藤中さんはもともと東広島市の出身。県外のアパレル企業で働いた後、故郷で仕事がしたいと思い、5年前に大崎上島にやって来た。そこでレモン栽培の修業をはじめたものの、目にしたのは農業が直面する厳しい現実だった。

農家の方と知り合って話を聞くと本当に収入が厳しくて。若手は生活できてないんです。特に大崎上島は流通も不利なので、このままだと農業がなくなってしまうという危機感を感じて。これは農家をサポートする事業で産地の基盤を整えないとダメだと思って、2022年にアンドピリオドを起業しました

藤中さん

「農業×EC」「産直市×ライブコマース」という柔軟なアイデアは、元アパレル業界というキャリアを考えると納得がいく。ちなみにアンドピリオドではフードロス対策事業も展開している。これまで廃棄されていたオリーブを絞った後の果皮をサプリにアップサイクルした商品を現在発売中だ。

「OLIBIO」は2023年8月から販売開始

 

SECOND①「株式会社ima」内田康隆さん


藤中さんの挑戦には2人のセコンドが付いた。1人目は内田康隆(うちだ・やすたか)さん。これまで官民連携や官民共創のプロジェクトに携わってきた人物だ。

私はもともと福山市の生まれで。自治体職員や内閣府出向など経験しているうちに、故郷に関わりたいという気持ちが生まれてきて。今は民間で働きながら、副業人材という形で福山市役所で地域コミュニティづくりの仕事に関わっています

内田さん

藤中さんと同じく広島愛からRINGに接近。そんな内田さんは「ふるさとマルシェ」をどう見たのだろう?

最近スーパーに行くと野菜などに生産者さんの顔写真が入ってますよね。そうした農家さんと消費者の関係性にデジタルを融合するとこうなるのか、と思いました。私は行政経験が長いので、この取り組みが長く続いて、まちのプラットフォームになればいいと思うんです。そうしたまちづくり、コミュニティづくりの視点も加えながら、誰と繋がっていくといいかというアイデアを出しています

内田さん

さっきのたとえで言うと、その《テレビ局》が地域コミュニティの核に成長すれば面白いという視点を内田さんは付け加えた。セコンドが事業の新たな一面を加速するのもRINGならではの現象だろう。

SECOND②「学校法人角川ドワンゴ学園/株式会社TAKEOVER」村尾直哉さん

 
もう1人のセコンドは村尾直哉(むらお・なおや)さん。前回に続き2回目のエントリーで、前回は「グッドパートナー賞」を受賞した。

今回も参加を決めたのは、前回面白い人とたくさんつながることができたから。関わったプロジェクト自体がコミュニティを作ったり人と人をつなぐもので、そこで得たものが多かったんです

村尾さん

村尾さんの普段の仕事は教育関係。「ふるさとマルシェ」に関してはどう感じたのだろう?

去年のチャレンジャーは、想いはあるけどまだ形にはできてないというフェーズ。今回の藤中さんはすでにシステムの構築ができていて、その実証の場を探してる段階。このシステムを使う人、場所をどう探していくのかっていうのが今の課題だと感じました

村尾さん

そう、ポイントとなるのは場所と人。この《人》というのが「ふるさとマルシェ」のひとつの肝である。

地域のキーパーソンを軸にする
「産地コーディネーター制度」


今回の挑戦者の藤中さんは「ふるさとマルシェ」に1つのフックを仕掛けている。それが「産地コーディネーター制度」だ。

産地コーディネーターというのは、産地をまとめる人のこと。どの土地にも現状に危機感を感じて、新たな販路を開拓したりECサイトを作ったりする方がおられるけど、そういう人が一番苦しんでるんです。全国にいるそういう方の活動が収益化できる仕組みが作れればと思って。あとマルシェをやるにしても、産地コーディネーターが出品・配信・検品・梱包・出荷などを担当してくれれば、他の生産者は余計な負担を軽減できますからね

藤中さん

つまり図にすると上のような構図になるが、テレビ番組でたとえると産地コーディネーターはプロデューサー&窓口。マルシェ全体を取り仕切って発信し、その対価を得る。地元に詳しいゆえ、その地に最適なプログラムを企画することもできる。

最初はなぜ産地コーディネーターが必要なのか疑問だったんですけど、実は生産者をつないだり地域を活性化する重要なプレイヤーだと気付いて。デジタルを挟むと無機質になってコミュニティ形成が難しくなることもあるんです。でもリアルなコーディネーターがいることで有機的なつながりが生まれ、それが新しいまちのプラットフォームになっていくんです

内田さん

ということで今回の実証実験は、実際に広島県内で「ふるさとマルシェ」を開催できるか――つまり協力してくれる地域と産地コーディネーターを見つけられるか、というのがゴールとなる。

配信画面の様子
さまざまな配信番組や生産者が並ぶプラットフォームを立ち上げる

道の駅や地方の自治体とゆるやかに連携しながら配信ができれば……と思っていたのですが、最初はなかなか壁が突破できなくて。道の駅には営業の電話が多くて全然取り合ってもらえないんです。今回は自治体の職員さん経由で依頼して、それで協力してくれるところが見つかりました

藤中さん

手を挙げてくれたのは安芸高田市の「道の駅 三矢の里あきたかた」と東広島市の「道の駅 湖畔の里 福富」。これまでの2ヶ月間でシステムの開発と実証実験パートナーの確保を終了し、いよいよ2024年1月「ふるさとマルシェ」配信の予定である。


混じり合う三者三様の視点
出会いが人生を変えていく

今回は2人のセコンドに付いてもらって。内田さんはもともと行政にいらっしゃったので、自治体の職員や道の駅の視点を教えてくださって助かりました。村尾さんは教育の現場に立たれてることもあり、いま何を考えないといけないのか、何がタスクなのか指摘していただきました

藤中さん

RINGに参加したことで、おのおの生活や思考に変化も現われているようだ。

藤中さん、RINGに関わる前までは大崎上島から出ることが少なかったと言っておられて。確かに出会った頃と今は雰囲気も変わってきた感じがするんです。いろんな人を紹介したことで、閉じこもってた藤中さんの殻が一枚ずつ剝がれていったというか。僕も多くの人とのつながりができたことで、また早く広島に行きたくなってますね(笑)

内田さん

私はこれまで教育、スポーツ、キャリア支援という3本軸で動いてたんですけど、RINGに関わるようになって地方創生のボリュームが大きくなってきて。これからの人生、それを主軸に動いても面白いかなと最近感じてます

村尾さん

RINGの上で偶然出会い、互いに交わり、それぞれの人生が変わっていく。新規事業をテーマにしながら、ここはさながら人間交差点のようである。


●EDITOR’S VOICE 取材を終えて

 
今回はスケジュールの都合で村尾さんだけ別日取材。先に取材した2人から伝言が。 「教育分野と『ふるさとマルシェ』のドッキングで何かできないか考えておいてください!」(藤中さん)、「いつも僕がどんどんしゃべっちゃうので、セコンドですけど先輩も前に出てきてください」(内田さん)。3人ともやけに爽やかなこのチーム。現場で伝え忘れたので、ここに記させていただきます!

(Text by 清水浩司)

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