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保育士がいつまでも憧れの仕事であってほしい。かつて夢見たフリーアナウンサーが目指す社会【RING HIROSHIMA】

子供が好き。保育士になりたい。そんな夢を抱いて、大学で免許を取得した。だが、縁あって、地元広島を離れてアナウンサーに。フリーになって広島に戻ったら、ともに学んで保育士になった友人たちの多くが仕事を辞めてしまっていた…。そんな実体験から、アナウンサーの仕事を続けつつ、一念発起して起業した女性がいます。「保育士という仕事がみんなに憧れられる仕事であり続けるためには、変えないといけないところがある」。そんなアツい想いを抱きながら、事業としてどうやって成り立たせるかを学ぶためにRING HIROSHIMAにやってきた、異色の挑戦者ストーリー。

CHALLENGER 株式会社モロビト 住谷綾香さん 

広島生まれ、広島育ち。広島女学院大学在学中から、ローカルタレントとしてテレビ出演し、卒業後の2014年、とちぎテレビ(栃木県)でアナウンサーとなった住谷さん。4年間勤務して広島に戻り、現在はフリーアナウンサーとして、ラジオやテレビ、そしてイベントMCなどとして大活躍しています。

フリーアナウンサーでもある住谷綾香さん

広島に戻った住谷さん、あることに驚きました。保育士・幼稚園教諭免許を取得した友人たち10人のほとんどが保育の仕事を辞めていたのです。給与面、持ち帰り業務、あと人間関係の三つが大きな原因。

この現状、どうにかできないだろうか」。抱いてきた問題意識をもとに、2023年2月 株式会社モロビトを立ち上げました。「キャッチコピーは『保育現場の大変、分けてください』。10年後も20年後も保育士を続け、保育の仕事で一生食べていけるようになれば」。そんな願いをこめました。「みんな保育の仕事自体は好き。働き続けたいけど、続けるのがしんどいんです」。

自身が出演している、スタートアップ企業を紹介する番組「SETOUCHI STARTUPS SELECTION」(RCCラジオ)で起業家たちの話を聞いてきた住谷さん。「わたしもいつか起業したい!」と想いをしたためていたところ、広島県庁が運営する「イノベーション・ハブ・ひろしまCamps」が企画した短期集中型の事業加速支援プログラム「CAP(Camps Acceleration Program)」を知りました。

思い切って参加。「自分一人だと普段の仕事を優先して具体的に動けないけど、宿題を頂くことで気持ちを引き締めて前に進めた」と振り返ります。次に何か参加できるものはないか、営業で信用を得るためにはどうしたらいいか悩んでいたところ、RING HIROSHIMAに出会いました。


SECOND NPO法人ソーシャルバリュージャパン 竹之下倫志さん 

非営利のコンサルティングファームに勤務する竹之下さんは、非営利領域の資金調達や起業メンタリングに長けたスタートアップ・アドバイザーです。そして、住谷さんの伴走者として最強の要素が一つ。それは、彼自身が、保育園に子どもを通わせた保護者・利用者として感じたことを出発点として、事業プランを立てた経験があるということです。

竹之下倫志さん

「保育園に送り迎えしていて、妻と一緒に子どもたちと帰宅後の諸々のことをやる中で、『手ぶらで登園』を広げたくて、洗濯物系を引き取る衣類のサブスクみたいな集荷から洗濯から配達まで全部毎日やるサブスクをやろうとした。でも事業化に至れない」

ニーズは確かにある。けれども、それをどうやって「なくてもなんとかなる」から「それ必要」にできるか。そのための合意をどう取り付けられるか。そこが、突破できなかったそうです。「全員が合意しなきゃいけないし、施設運営者はお金がない。どうすればビジネスとして成立させられるか、私自身も壁の突破ができなかった人間なんです」

「保育の現場をなんとかしたい」という今回の住谷さんの想いに「同志」として共感する一方、この領域での起業の難しさもわかる。「イノベーティブなことが起こせれば、この領域を本当に変えられるかもしれないワクワクを持って入った。ワクワクしてるけど突破口はない。そんな感じ(苦笑)」

で、RING HIROSHIMAで住谷さんが具体的にやろうとしていることは。

資格を持ちながら保育現場で働いていない潜在保育士は100万人以上と言われる中、「長く働き続けてもらう」という課題を解決する。そのためには「保育施設の収入を上げる」「業務外注化」「相談できる第三者機関を持つ」という三つが必要だといいます。そんな問題意識を前提に、住谷さんは以下の3点で実証実験をすることにしました。

行事の映像配信:行事記録をプロに依頼し動画を収録・配信、販売収益のうち5〜10%を保育施設に分配する。保育施設に金銭的な負担は一切なし。

壁面装飾シェアリング:保育士の持ち帰り業務のうち大きな部分を占めるのが、保育室の壁面装飾。飾り終わった作品を買取り、他の保育施設にレンタルする。

延長保育・習い事:多くの保育施設では、子どもたちが好きな遊びをして保護者の迎えを待つ延長保育。一方で「習い事をさせたい」という保護者のニーズもある。そこで、延長保育の時間に講師を派遣し、習い事を行う。保育士には日誌や連絡帳を書いたりする時間ができる。

「一歩目として入っていけそう。そして住谷さん自身の起業家としてのリソースも含めて可能性がある」。この計画をみて、竹之下さんはそんな印象を抱きました。

ここまで走ってみて現状どうなっているのでしょうか。

住谷さん「映像はいくつかやらせていただき、保護者にも保育士にも喜んでいただけた。でも園ごとのカスタマイズが必要。例えば、中身は自分たちで作りたい幼稚園や保育園もたくさんあるし、人数や時間も私が1回入ってカスタマイズしないといけないので、2回やったけど正直『これはしんどい』。マネタイズに関しても映像をしっかり取ろうと思うと、制作費がかかる」

「壁面装飾は、何園かやらせていただき、子どもが破ったりなんだりで必要なメンテを潜在保育士にやってもらい、喜んでもらった。けど、園から高いお金は取れないので、いただいた金額がメンテ担当の潜在保育士への謝礼や配送費でほぼ消える」

やはり、マネタイズに難あり。

現時点での結論…。事業としてのサスティナビリティに難あり。「施設と、保護者、潜在保育士のみんなを救おうと思ってるのに、どうしても私が救われない」

これまでの進捗について語る住谷綾香さん

延長保育×習い事については今、講師をスカウトしてプログラムを作っているところだそうです。パルクールの日本代表、リトミックの先生、ダンスの先生、そして土を使わずにトマトを作る方、洋菓子関係者と気象予報士から承諾済み。「普通の習い事ではできない幼児教育的な観点のものを入れられたら」。目下、時間の問題やコンテンツの内容を幼稚園側と話をして詰めているところで、途中の段階だそうです。

難しさがわかる竹之下さん、どんな感じで伴走してきたのでしょうか。「突破口がどこにあるか。収益化にどう繋げるか。ニーズとしてはあるし、合理的に考えるとそうだよねというロジックを最初に受け入れてくれる先はどの辺か。企業内保育園か、私立か、みたいな」

保育士をサステナブルにすることを保育現場で実現しよう人が、サステナブルに働けない。「社会起業家がよくハマる世界。手伝うよって言われてもどう手伝ってもらっていいのかわからなくて、結局自分がやった方が早くなっちゃって自分でやっちゃう。そうやってパンクする」

そこを克服するため、事業化の柱をもう一つ作ろうという話をしているとか。「お金がないところからお金取ろうとしてもしんどいので、お金が出るところをどうやって巻き込んで行こうかって話で、企業へのタッチを模索してます」。竹之下さんは言います。

二足のわらじを続ける住谷さんの悩みは、営業に行けないこと。「手紙出して電話してとかはできるけど、時間不足もありつつ幼稚園って5時とかまでなので、その中でいかないといけない。そこは悔しい」

自分で企画して番組が始まったりしてきたけど、許可する人がたくさんいる、となると今までやってきた営業の仕方と違うことに戸惑う住谷さん。決定権がある人がその場にいないことが多く、手紙や電話といった疲弊する営業の仕方はやめた方がいいと、竹之下さんからのアドバイスもありました。

住谷さんがRINGで成し遂げたいこと。「営業方法とかスキルを確立する。四つ目のプランを形にする。営業は営業でやって、システム化できるところはシステム化する」。

バーニングニーズを発掘できるか知恵をしぼる2人

自治体へのアプローチも増えてきました。県の担当者と話をしたら、そこからいろんな自治体に繋いでもらったそうです。RING HIROSHIMAという、県主催のプログラムに参加していると説明すると、相手に話を聞いてもらいやすいと感じているそうです。他の挑戦者やセコンドの方とも集まって話をする機会があることも刺激。「自分1人だと出なかった発想がある。アナウンサーしながらじゃないと収益構造的に成り立たないから、今のまんま。自分が100時間働いてこれだけみたいなことが続いて、自転車操業でどこかで体を壊して終わりという感じだった。そうならないために、セコンドの竹之下さんが考えてくださってますし、自分でも見えてきました」。


EDITOR'S VOICE 取材を終えて

「かっこよくありたい」。フリーアナウンサーとして働きつつ、かつて憧れた世界のサスティナビリティに向けて起業もしデュアルキャリアを追求するた彼女は、目指す姿をそう表現した。多くの人に知られた「アナウンサー」という立場性に頼らない、とも。ちゃんと会社が軌道に乗ってから、SNSで社長業について発信したいとか。そんな目標を持つ彼女に、きっと多くの女性たちが熱視線を注いでいる。わたしも。(text by宮崎園子)

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