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学生ベンチャーの史跡巡りアプリ「GURURI」始動【RING HIROSHIMA】

今回のプロジェクトは史跡や寺社仏閣など文化財の観光面への有効活用を推進する「マップ型史跡巡りプラットフォーム・GURURI」。ただ、その内容と同じくらい興味深いのが、チャレンジャーが現役大学生である点だ。コロナ禍で授業も交流もできなかった若者が起業に踏み出した、令和ならではのストーリー。彼の足跡と彼を支える大人たちを追った。

CHALLENGER「株式会社ぐるり」中野賢伸さん

 
今回のチャレンジャー・中野賢伸(なかの・けんしん)さんは現在23歳。現在、横浜国立大学経済学部の4年生であると同時に、2022年8月に設立した「株式会社ぐるり」の代表取締役でもある。 

 GURURIはマップ上の音声ガイドのプラットフォームアプリ。現在は寺社仏閣などの歴史コンテンツを中心に扱ってます。今って人気の観光地は人が集まりすぎてオーバーツーリズムになってる一方、マイナーな観光地は埋もれたまま。それを文化観光という形で分散・周遊してもらえればと思うんです

あとユーザー側としては、観光系のアプリはたくさんあるけど各地でフォーマットがバラバラなので、行った先々でアプリを入れたり機材を借りたりすることが面倒で。それをGURURIというプラットフォームに集約することで、どの地域でも無料で簡単にガイドを楽しめると思うんです

中野さん

GURURIはすでに大学のある神奈川県を中心に数々の実績を上げている。NHK大河ドラマに登場したスポットを集約させた「鎌倉殿と御家人たち ゆかりの地」、横浜みなとみらい地区の歴史的史跡を紹介する「よこはま 中区の歴史を碑もとく絵地図」、小田原・箱根の観光名所を回遊する「城下町おだわらツーデーマーチ」――中身は基本的にどれも同じ。マップ上にいくつかのポイントが設置され、そこで音声ガイドが楽しめる仕組みである。

ドラマに出てきた場所を巡り、音声ガイドを楽しめる
マップ上のアイコンを押すと音声ガイドが聞ける

中野さんは生まれも育ちも広島。大学中にGURURIをスタートし、神奈川以外にも広めたいと思って今回RING HIROSHIMAに応募した。そもそも起業のきっかけが興味深い。

僕はいつか自分で事業をやってみたいと思ってたんですけど、大学にいる間にやろうとは思ってなくて。ただ2年生になった頃からコロナ禍がはじまって、授業もサークルもなくなってしまって。その時大学発ベンチャーの事業案の応募があって、時間が余ってたこともあって応募したんです

中野さん
幼き日の中野さん。子供時代の「好き」が起業に繋がった

なんとコロナが起業の引き金を引いたとは。ある種、中野さんはコロナ禍の一番のワリを食った世代かもしれない。当初の事業案は観光用音声ガイドを集約したプラットフォームの作成だったが、観光アプリは数が多く差別化が難しいため子供の頃から好きだった歴史に特化し、今に至っているという。

ということで今回のチャレンジャーは現役大学生。そこがRING的にはポイントになりそうだ。

SECOND① 関原宏昭さん

 
1人目のセコンドは関原宏昭(せきはら・ひろあき)さん。尾道出身で広島市西区の自治会長などを務めた後、現在は川崎市在住。コミュニティデザインを手掛け、大学で教鞭をとっていた経験もある。神奈川ずまいと職場が大学、その2つがチャレンジャーとの共通項にあたる。

中野さんのプロジェクトについては、私は大学教員の経験があるのでどうしても厳しく見てしまうんです。こういうアプリって学生は結構作ってくるんですよ。ただ、学生だからマネタイズのことを考えてなかったり、誰に対してサービスを提供するかターゲットが曖昧なものも多くて。「このままだとビジネスにならず、作ってくれてありがとうって言われて終わっちゃうよ」ってことは感じました

関原さん

関原さんは今回RING初参加。「大学教員と学生ベンチャー」という組み合わせはうってつけの関係性に見える。

さらに今回は大学ベンチャーということで、地元の自治体に採用されやすかった側面もあったと思うんです。ここから民間相手に事業をするとなると、ハードルは高くなる。今回の実証実験はマネタイズが課題だし、「どこに持って行けばこのサービスで利益が発生するのか?」という課題は私も考えてます

関原さん

大学教員ならではの厳しい視点で学生の挑戦をサポートする。関原さんのセコンドのポジションは、まさにそこである。

SECOND②「株式会社J-VOICE」村田秀文さん

 
関原さんが大学教員の視点で中野さんを支えるのだとしたら、村田秀文(むらた・ひでふみ)さんは地元広島という部分でのサポートになる。大野町商工会の理事を務め、本業はイベント業を専門とする広告代理店経営。「大野かきフェスティバル」では実行委員会副会長も担当した。

 僕は去年、県の仕事で「ひろしまサンドボックス」の後方支援を行ってたんです。その時にRING HIROSHIMAのことを知って。横で見てたらセコンドの方たちの団結や、新しいものが生まれていくコラボレーションが面白いなと感じて。それで今回はセコンドという形で関わることにしました

村田さん

今回の目的は、広島を舞台にGURURIを活用してマネタイズの道を探ること。そういう意味で地元に詳しい村田さんの存在は大きい。

僕も中野さんの話を聞いた時、マネタイズの問題は気になりました。それでも学生でここまでできるのはすごいなと思って。僕はずっと広島にいますので、彼のほしい情報や人を紹介する形で支えていこうと思いました

村田さん

 厳しさと優しさと。まさに理想的な見守られ方の中、GURURIの広島での実証実験がスタートした。

教育ツアーや多言語展開
広がるGURURIの可能性

 
当初今回のRINGでは広島県内でのコンテンツを活用したGURURIの制作、そして企業への販売を考えていた。

広島には原爆ドームや宮島といった観光名所があるけど、そのあたりはガイドを作らなくても多くの観光客が来ますよね。なのでたとえば安芸高田市にある吉田郡山城など毛利元就ゆかりの地を辿るような、まだ未開拓のコンテンツを作れればと思ったんです

中野さん
マップが古地図風に表示される遊び心が嬉しい

まずは広島電鉄とミーティング。広電の駅周辺コンテンツを紹介することで駅の乗降人数を増やすという案を出すが、これはユーザーと加盟店集めの難しさからNGとなった。現在は三原市で事業者やユーザーから意見をもらうためにモニターツアーを企画している。

GURURIはまだ企業と取引した経験がないんです。これまでは自治体とのビジネスだったので。今回はまず一般企業とのコラボレーションによってお金をいただける事例を1つでも作ることが目標になります

中野さん
三原市に協力してもらいモニターツアーを開催

2024年1月には三原市でモニターツアーを開催。GURURIを使ってもらい
感想等を求めることが決定、という状況だ。

こうした若き学生の挑戦にはセコンドの2人もポテンシャルを感じている。

僕はGURURIの中身を特化させて、カテゴリーキラーになった方がいいと思うんです。たとえば修学旅行などの教育ツアーとして作り込んでいく。教育ツアーのアイデアは今、どこも求めてますからね。現在やってることを深掘りすれば大手旅行会社と組むことも可能だと思います

関原さん

このシステムを多言語化すればインバウンド客も狙えますよね。あと今は国内だけでGURURIをやってますけど、たとえば広島から韓国へは直行便が飛んでたりするし、韓国の観光スポット情報がこのまま見れたら面白いんじゃないでしょうか

村田さん

過去のチャレンジャーと
交流できる場があるといい


まだ状況は曖昧で見えない部分が多いかもしれない。しかしまるでパン生地を寝かせることが次のふくらみの準備であるように、さまざまな視点や方法論が事業の内側に浸透しつつある。

GURURIはいろんなところで音声が聞けるという意味で汎用性が高い一方、どういう部分に絞って展開していけばいいのかが難しくて。それに関しては1人では出てこない視点もあるので、お2人にいろいろ教えてもらって勉強になってます

あと、こうしたアクセラレーションプログラムにはいくつか参加させてもらいましたけど、RINGは地元に根付いた方がメンターに付いてくださるのが新鮮で。僕も地元が広島なので、そこはすごく助かりました

中野さん

初参加の2人からはRINGに対する意見ももらった。

セコンドさんたちのチームワークが素晴らしくて。ただ、すでにRINGも3年目でみなさんの関係性ができあがってるぶん、初心者としてはトップスピードで走ってる中に入りづらい側面があったんです。そのあたりが言語化されていると、もっとみんながイメージを共有しやすくなると思います

関原さん

実証実験の期間が短いので、2~3年といった複数年かけて挑戦できる仕組みがあってもいいですよね。あと過去のチャレンジャーが集まって現在の事業状況の発表会をやっても面白いと思います。そういう場があれば、過去のチャレンジャーと現在のチャレンジャーのコラボが起こるかもしれないし

村田さん

学生も、講師も、地元民も、ベテランセコンドも、新人セコンドも、すべて入り乱れながらRINGのチャレンジは続くのだ。


●EDITOR’S VOICE 取材を終えて

 
チャレンジャーである中野さんは、幼い頃から歴史好き。スタンプラリーである「日本の100名城」にもハマっていたとか。いやー、私も子供とやりましたよ! ちなみに中野さんがクリアしたのは1/3程度。個人的には吉田郡山城を中心とした安芸高田市周辺の山城を網羅する音声観光アプリ、めっちゃマニアックだけどあったらやってみたいな~。

(Text by 清水浩司)

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