【ゆ】 優柔不断シチュエーション
優柔不断を日本国語大辞典で調べると「ぐずぐずして物事の決断が鈍いこと。また、そのさま。」と書いてある。
僕はこの「優柔不断シチュエーション」が大嫌いである。
例えば、忘年会などの二次会にカラオケがセッティングされているとして、「人数確認しますので、二次会に参加する方は手を上げてくださーい!」みたいな状況で「どうする?行く?」「ん~どうしよっかなー。」「〇〇君は行くの?」「えー、△△ちゃんはどうするの?」みたいな会話が続いて10分ぐらい店の外でぐだぐだしているこの時間、これがまあ大嫌い。
カラオケに行くと即断して先に店で待っていると、このぐずぐず軍団が30分ぐらい遅れてきて「おっ!盛り上げってる??」
はあ???
これも大嫌い。
楽しいことは決して向こうからやってくるものではなく、自分の足で踏み出してこそ出会えるものだとわかっているからだ。
「幸せは歩いてこない、だから歩いてゆくんだね。」
そのとおりである。こんな明確な真理は1968年、僕が生まれる前から水前寺清子大先輩が日本中に浸透させているのである。
例えば馴染みの中華屋にチャーシュー麺を食べに行ったとしよう。店に入るまでは完全にチャーシュー麺気分だったのだが、店内に「店長が本場中国で学んできた本格ワンタン麺、期間限定発売!」という張り紙がしてあったとする。さらにいつも食べているチャーシュー麺よりも価格がちょっと安い。
これは、迷う。
いつも美味しい中華を提供してくれている店長が、わざわざ中国に行って学んで来たんだから、美味しくないわけがない。更に期間限定というパワーワードもついている。しかしついさっきまで自分の舌はチャーシュー麺を欲していたのだ。ここで葛藤するのは人間として当然の感情の動きである。
しかし僕はこういうシチュエーションに遭遇してしまったときに備えて、忌み嫌っている優柔不断くんにならないために、常にこのような人生訓を自分に課している。
「新しい経験を優先しなさい。」
もし初志貫徹でチャーシュー麺を食べたとしたら、これは過去の経験で得られた満足感をもう一度満たしているという行為であろう。人間として成長するというよりも、もう一度同じ幸福感を得ようという欲求が勝っているといえる。
しかしここでワンタン麺を頼んだら、確実に新しい経験を得ることができる。もしかしたら人生で最高のワンタン麺に出会える可能性もあるし、noteでこの美味しさをうまく書くことが出来たら、注目記事に選ばれて、とんでもない数のスキを叩き出すかもしれない。もし結果的にチャーシュー麺の方が自分の好みだったとしても、チャーシュー麺とワンタン麺の差を体感することができたことになるし、人間として明らかに一歩成長した自分になるはずだ。
これは仕事でも全く同じで、なにか新しいことをしないとずーっと同じポジションに停滞することになるし、そんなことをしているうちに競合に手を打たれて相対的に後退してしまうことにもなってしまう。
「考えに考え抜いて、出ない結論はない」
これも僕の人生訓なのだが、ここでいう結論というのは、成功と必ずしも一致するものではない。
新しい施策なんかは所詮やってみないと成功するかどうかなんてわからないからだ。
しかし考えに考え抜いて、成功する可能性を極限まで高めるという行為は絶対に必要で、これをやっていないと、後々なんで成功したのか、なんで失敗したのかが経験値として残らない。
どこのメリットを優先して、どこのデメリットを軽視したから失敗してしまった、というような反省ができないから、失敗を他人のせいにしてみたり外部要因にその理由を求めたりしてしまう。こんなことでは次への財産にならないし、毎回ギャンブルに賭けているような仕事になってしまう。
どうしたらいいか迷って優柔不断になっている状態は、間違いなく思考が欠如しているのだ。迷いが消えるまで考え抜かなくてはいけない。
こういう行為を繰り返してきた人だけが、一流の「勘」を得ることができるということが、年をとって段々わかってきた。
「勘」というのは本能とは真逆に位置するもので、何度も何度も考えて考え抜いて、成功したり失敗したりしてきた経験が脳に蓄積されて、物事に対する判断が早くなって、得られるものなんだと思う。
他人から見ると瞬時に判断しているように見えるから「勘が鋭い」というような言葉になってしまうが、本人からすると過去に考えてきたことの蓄積があるから、もう一度理屈立てて最初から考え直さなくてもすぐに判断ができるということなんだと思う。
このように「優柔不断シチュエーション」が私生活でも仕事でも大嫌いなのだが、優柔不断な人というのは時として魅力的だったりすることもある。
僕はいま日本の会社のマレーシア現地法人の社長として赴任していて、世界がこんな感じになってしまう前までは年に二回ほど日本に一時帰国をしていた。
その際には必ずマレーシアのお土産を買って帰るのだけれど、ネタも尽きてくるので、なんかリクエストはある?って聞いてみたら、カオリちゃんという女性社員が「紅茶がいいです」って言ってくれた。
あまり有名ではないかも知れないが、マレーシアは紅茶の産地で、すごく美味しい紅茶がすごく安く手に入る。
それ以来カオリちゃんには紅茶を買って帰っているのだが、何種類かの紅茶を買って、好きなものを選んでもらうようにしている。
このカオリちゃんが、優柔不断ガールだからだ。
「あっこれは飲んだことがないかもしれないからこれがいいかなー。でも、これも美味しいんだよなー。ああでもこれも前に飲んだらすごくいい香りがしたんですよねー。うーん、どうしようどうしよう・・・。」
この悩んでいる様子がとてもチャーミングで、もっと眺めていたくなってしまう。
しばらく迷って「じゃあ、これ!」って結論を出すんだけど、僕はわざと「えー?これ前に飲んだらすごく美味しかったよ。」と別の紅茶を勧めたりする。「えっ?そうなんですかー?どうしようどうしよう・・・」
早く世の中がもと通りになって一時帰国ができるようになったら、またたくさんの種類の紅茶を買って、カオリちゃんの優柔不断ぶりを見たいものだ。
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