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【ろ】 ロックンロールが教えてくれた

僕は1969年生まれで、現在生きている人類の中で唯一ロックな年号に生まれている。

ロックとの最初の出会いは、ビートルズとエルヴィス・プレスリーだった。

ビートルズは1962年にデビューして1972年に解散しているし、プレスリーはもっと前だから年代的に合わないことになるが、親父が音楽好きで家でよくレコードを流していたから、小学校のときにはこの2大アーティストの有名な曲はほとんど知っていた記憶がある。

僕が10代だった1980年代は、今から考えると信じられないような素晴らしいアーティスト達が活躍していた時代だったりする。

ローリング・ストーンズはスタート・ミー・アップをヒットさせ、クィーンは名作「ワークス」を、デヴィッド・ボウイは「レッツ・ダンス」をリリースしている。エアロスミスはドラッグ問題によるゴタゴタから抜け出してオリジナルメンバーで再結成しているし、エルヴィス・コステロは毎年新作をリリースしていた。ジョン・レノンは撃たれてしまったが、ポール・マッカートニーはヒット曲を連発していた。

ハードロック/ヘビーメタルの世界ではヴァン・ヘイレンが名曲「ジャンプ」を含む1984をリリースし、モトリー・クルーがデビューしてLAメタルが全盛を極め、デフ・レパードも「フォトグラフ」をヒットさせ、アイアン・メイデンは「The Trooper」を収録する「The peace of mind」をリリースしている。ジューダス・プリーストはThe HellionからElectric Eyeの流れがたまらない名作「Screaming for Vengeance」を発表している。名作「エスケイプ」を出したジャーニーも、ロザーナが収録されている「TOTOⅣ」を出したTOTOもこの時期が全盛期だし、ガンズ・アンド・ローゼズの衝撃的なデビューも1987年だ。

ヒットチャートではマイケル・ジャクソンやビリー・ジョエル、シンディー・ローパーやスティービー・ワンダーなどのビッグアーティストが活躍して、女性ロッカーとしてはジョーン・ジェットがソロ活動を開始し「I Love Rock 'n Roll」を大ヒットさせ、パット・ベネターがハードロックだけではない幅の広さを見せつけていた。短髪をオレンジ色に染め上げたアニー・レノックスが出てきたのもこの頃だ。

音楽的には二度と来ないのではないだろうかと思われるこの黄金時代に10代を過ごし、持っているお金を全部つぎ込んでレコードを買って、素晴らしいアーティストたちの曲をコピーしたり、コンサートに足を運んだり、インタビュー記事を読んだり、歌詞を和訳したりしていたことは、僕の人格形成に大きな影響を与え、それは今でも変わっていない。

むしろここまで年をとってますますロックンロールが教えてくれたことが深くわかるようになってきている。

肌の色や人種、容姿や出生、性別や学歴などで人を差別するのはかっこ悪いということ、嘘をつくのは恥ずかしいことだということ、人に媚びへつらうような人生は意味がないこと、一度決めたらやり通す気構え、弱い者いじめをするようなやつはぶん殴っても罪にならないこと。

こういうことはみんなロックンロールが教えてくれた。

ロックンローラーは実は一般社会にもたくさんいて、長髪にしているとか膝の破れたジーンズを穿いているなどの見てくれでは決して判断できないものだが、何度か酒を飲んだり、一緒に仕事をしたりすると「あっ!この人はロックだ!」とわかる瞬間がある。

銀行の営業マンやデザイナー、機械設備の技術者や寿司屋のオヤジに至るまで、職業はあんまり関係なくロックな人たちはいる。

これはもう嗅覚みたいなもので、お互いに惹かれ合うから、老若男女を問わずすぐに仲良くなってしまう。

僕は日本ではなくマレーシアに7年ほど住んでいるのだけれど、この国にもロックな人はやっぱりいた。

バーで知り合った僕より少し年上のインド系の女性なんかはなかなかロックで、喫煙室でタバコを吸っていたら話しかけてきて、5分ぐらいですぐ仲良くなって電話番号の交換をして次に飲みに行く約束をしてしまった。

彼女は弁護士で子供が3人いるが、日本の家庭料理が食べたいというので自宅に招待したところ、自分が酒を飲みたいから子供をふたり連れてきて、最年少の子供に運転手だから酒を飲むのを禁じるというレベルのロックンローラーだけど、すごくチャーミングだ。

僕より10歳ぐらい年上の中華系の男性は、僕が勤務している工場や事務所の建設を請け負う業者で、酒量では他人にほとんど負けたことのない僕と同じぐらいウィスキーを飲むし、酔っ払うとすぐガールフレンドを呼び出して自分の隣に座らせるほどの豪腕だが、仕事はすごくキッチリしていて、適当な事を言ってごまかしたりしないし、約束は絶対に守る。

この1年半ぐらいは世界がこんな感じなので人と会うのが難しい状態になってしまっているけれど、こういう魅力的なロックンローラー達と早く酒が飲めるようになるといいな。

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