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【の】 飲み会は、ライブだ。

僕はお酒が好きで、晩酌は、よほど風邪がひどいとか、入院しちゃったとかそういうとき以外は、ほとんど欠かしたことがない。

今年で51歳になっているんだけれど、これまでの人間関係のほとんどが、酒の席で構築されてきたと言ってもほぼ間違いない。

酒を飲み始めたのは、中学生のときで、小学校のときの担任の先生から酒を教えてもらった。

この先生は、山梨県の山奥に小さな別荘(といっても風呂もないようなボロ屋だったけれど)を持っていて、そこに自分が担任だった卒業生を夏休みに招待して、教え子たちと酒を飲むのを楽しみにしているような人だった。

この集まりには社会人や大学生の先輩もいたし、僕のような小学校を卒業したての中学生もいた。

夜になるとバーベキューをやったりして、年齢を問わずみんなで酒を飲んだ。

当時はとても良い時代で、こういうことにうるさく言う人はいなかったし、こうやって教師や先輩たちから酒を教えてもらうということもそんなに珍しいことではなかったような気もする。

僕は中学生からバンドをやっていて、卒業のときに公民館を借りてライブをやったときも、英語の先生が観に来てくれて、差し入れにビールや焼酎を持ってきたこともあった。

「あんまり飲みすぎるなよ!」とか言ってた割には、相当酔っぱらえる量の差し入れだった。

高校生の文化祭のあとなんかも、居酒屋を予約することが出来たし、そこにいたおじさんたちが、ビールを奢ってくれることなんかもよくあった。

居酒屋の店主は「制服は着てくるなよ!」と言っていたが、今から考えるとちょっと論点がずれているような気もする。

大学の時は、新入生はまだお酒を飲める年齢ではなかったりすることもあるんだけれど、「まだ未成年なんで飲めないんです」言って断る人は誰もいなかったように思う。「お酒は飲めないんです」という人はいたけれど。

社会人になってからも、会社には高校卒の女の子なんかもいたけれど、みんなお構いなしに飲ませていたし、彼女たちもよく飲んでいた。

僕と同じように、先輩たちからお酒を教わって、飲みすぎたり、いろんな失敗をしたりしながら、お酒を覚えていったんだと思うし、僕もそうしてきたように思う。

この飲み会、例えば20歳から51歳までの31年間で、週平均で低く見積もっても2回やってたとすると、一年は52週なので、年104回。これを21年続けていたとすると、2,184回。
奢ってもらった分もあるし、会社のお金で飲んだこともあるので、平均金額が難しいけれど、飲み会に行くと1次会では絶対に終わらないので、仮に平均5,000円払ったとしたら、一千万円を超える金額をこれまでの人生で飲み会に費やしていることになる。

この金額が正解かどうかよくわからないけれど、これだけ続けているのにまだ飽きないんだから、この飲み会の魅力は相当なものなんじゃないかと思う。

なんでこんなに飲み会が楽しいのか、以下思いつくままに列挙してみたいと思う。

①いっしょに飲んでいる相手の、今まで知らなかった一面を見ることができる。
②なんだか、すごく仲良くなったような気がするし、実際もそうなる。
③嬉しかったことだったり悩んでることだったりが聞けるし、自分も話せるので、人生勉強にもなるしストレス発散にもなる。
④会ったばかりの人に対して、仲良くなる時間が短くなる。
⑤いろんな職種の人と飲むと、すごく勉強になるし、たまに貴重な情報をもらったりすることもある。
⑥すごーくたまに、極々まれに、素敵な女性と仲良くなれることがある。

まあ楽しいことだらけだけれど、飲んだ人全員とこういう経験が出来るわけではなくて、酒癖が悪くてしょっちゅう絡んでくる人とか、自分の話しかしない人とか、女性にすごく失礼なことを平気で言う人とか、説教を繰り返す人とかもいるので、1回限りしか飲まない人も中にはいるけれど、これらの癖があるような人でも、許容できる範囲内っていうのもあるし、それが芸になったりすることもあって逆に笑えることもあったりするので、まあまあ大きな心で飲んでいれば、だいたい大丈夫だ。

なんとなくここ10年ぐらいは、世の中も世知辛くなってきて、無理やり誘うとセクハラとかパワハラとかになることもあるみたいなので、僕もそれなりに気をつけているんだけれど、逆に先輩と飲みに行って愚痴を言いたいとか、仕事の相談をしたいとかいう後輩も少なからずいるわけで、先輩からも飲み会に誘いづらくなっているし、後輩からも「飲みに連れてってください」ってお願いしづらくなっているような変な雰囲気を感じることが、僕にとってはよくある。

もちろん飲みニケーションが全てではないし、飲まないと話ができないのか、って言われるとそんなことはないんだけれど、人それぞれに得意不得意っていうのがあって、僕は酒の席で話をするのが好きなだけなので、優しく見守ってほしい。

僕はいまマレーシアのイポーというところに5年半住んでいるんだけれど、この国はイスラム国家なので、全てイスラム教徒のマレー系マレーシア人はお酒を飲むのを宗教上禁じられている。

コンドームの製造会社の社長として赴任しているので、官公庁の役人の人たちとの食事会やパーティのお誘いがそれなりにある。
マレーシアには、酒をバンバン飲む中華系とインド系の人たちもいるのだが、いわゆる公務員と呼ばれる人たちのほとんどはイスラム教徒のマレー系なので、こういう席ではお酒は一切出てこない。

ここで出てくるのは、甘くて赤いシロップの味しかしないジュースだったり練乳がたっぷり入った甘ったるいコーヒーだったりとてつもなく甘いミルクティーだったりする。

マレー料理と一緒にこういうのを飲みながら世間話をして、人間関係を作っていくということが時には大事だったりするのだが、完璧に僕の得意分野とは真逆のスタイルなので、最初はとても困った。
翼をもがれた鳥状態で、「俺は酒を飲まないとパーティで話もできないのか!」と凹んだ時期もあった。いまはだいぶ慣れましたけど。

いわゆる飲み会っていうのは、中華系やインド系の人たちとしか出来ないんだけれど、まあほとんど日本と変わらない。同じことばっかりいうおっさんもいれば、泥酔して絡んでくるやつもいるし、ものすごく面白いお酒の席にしてくれる気の利いた女性がいたりもする。

いまはこんな状態なので、マレーシアの友達や日本の友達とオンライン飲み会をよくやっている。

SNSとかで「オンライン飲み会で楽しいし、十分じゃん!」というコメントを見かけたりするけれど、僕はこれは全く別ものなんじゃないかなと思う。

確かに全然知らない人と気軽に飲んで話せたり、自分で作った料理を披露したり、自分の好きなお酒を好きなだけ飲めたりするっていう、オンライン飲み会の魅力はとてもよく理解した。
また、僕みたいに海外に住んでいると、めったに会えない日本の友達の顔を見ながらお酒が飲めるというのはとても楽しいことだし、会えていない時間を埋めてくれるものでもあるとは思うけれど、やっぱり帰国したら会いたいなという気持ちになる。

僕はマレーシアに来る前は、マーケティング全般を担当する部署にいて、広告の制作だったり、広報だったりのコミュニケーションに関わる仕事を長いことしていたので、メールでは決して伝わらないニュアンスは絶対にあることや、顔を突き合わせながら確認作業をしていくという重要性などを嫌というほど味わってきたので、オンラインと対面とのコミュニケーションの違いは、とても大きいと感じてしまう。

「オンラインで対面してるんだからいいんじゃないの?」という疑問もごもっともだと思うけれど、じゃあなんで人はミュージシャンのライブに足を運ぶのか、という疑問に対して説明がつかない。

この時期オンラインでライブを配信しているアーティストも数多くいて、それはとても素敵なことだし、オンラインならではの企画なんかもあって、すごく楽しめるものなんかもたくさんある。

星野源がいちはやくYou Tubeにアップした「うちで踊ろう」なんかはとても有名になって、数多くの人の心を揺さぶった企画なんだろうし、高嶋ちさ子が岸谷香と組んでプリンセスプリンセスの名曲「Diamonds」を演奏しているこの動画なんかは、オンラインならではの手作り感や人の温もりなんかがにじみ出ていて、素晴らしい作品だと思う。
このお二人が、ばっちりメイクをしていたり、派手な衣装に身を包んでいたりしていないのも、この映像に独特の「見ている人たちとの距離感を近くする」効果を生んでいて、素人っぽい編集も合わさって、心を動かす作品になっているんだと思う。

しかし、やっぱりライブとは違う。どっちがいいとか悪いとかいうことではない。「別もの」なのだ。

アーティストの鼓動や体温を感じて、その場にいるみんなが同じ場面で歓声をあげたり、同じ場面で涙を流したり、みんな一緒になって盛り上がったりするのがライブの醍醐味であって、人が近くにいないと、こういうライブ感は味わえない。

くどくどと回りくどいことを書いてきたが、つまり僕が言いたかったのは、「飲み会とはライブだ」ということなのだ。

老若男女関係なく、相手の顔色や表情の変化、声色や声の大きさなどを感じながら、自分の立ち位置や会話の内容を変化させ、五感を使って酒を飲む。
酔いの回り方によって言ってることが全然変わっちゃったり、気分が開放的になって変なこと言っちゃったり、そういう会話に誰かが突っ込んだり、たまに誰かが泣き出したり、それを見てゲラゲラ笑うやつがいたり、そういうやつをみんなで軽蔑したり、落ち込んでるようなやつを元気づけたり、すごくいいこと言ったような気がするんだけど酔っ払って忘れちゃったり、電車を乗り過ごして不要なタクシー代を払って後悔したり、そういうことがしたいのである。

それがまさに僕の思う飲み会で、ライブ感にあふれている。
こういうライブ感は、人と人とが会っていないと、決して体感できないのである。

いまはこういう時期なので、来る本番ライブに備えて、リハーサルのためにオンライン飲み会で我慢している。

誰にも気兼ねなくライブが開催できるときが来たら、全身全霊で立ち向かうつもりなので、ぜひ参加をお願いします。






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