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アメリカでMBAをとる理由

要約

経営学修士(MBA)は東京でとる。そのような結論を前回のブログで出しました。出した後でどうもそうでない人たちがいることに気づきました。ごくわずかで過去15年間、毎年60~100人くらいは海外にいく。この人たちはどういう人だろうと考え直すことがありました。なにか特別な理由があるからでしょう。

それらの理由を4点挙げてみることにしました。それらは、経済面、学びとネットワーキング、就職、生活面という4点がありましょう。まず要点だけを書いてみます。

第一の経済面。2年間、2,000万円以上の学費をかける。かけるだけのお金をすでに持っているということです。ビジネススクールに通い始める日本人は、ほとんどが4、5年の企業勤務の経験があることが前提です。28歳くらいが平均。その若さで2,000万円の貯金があるひとはそれほどいないでしょう。であれば、裕福な親族に払ってもらうということがありえます。

私の場合は、30年前、ジョージアの州立であったこともあり、年間にして学費は300万円でした。女房と生まれたばかりの長男をつれて、月$850(9万円)くらいのアパートに住んでいました。車も乗っていました。5年間、働いて蓄えました。

第二の学びとネットワーキング。これは、日本国内で学ぶプロセスが違うことをすでに身体でわかっている場合があります。わかっているというのは、議論を通して、つまり、ディベートをしながら学ぶ方法の優位性を理解している。またネットワーキングでは、アメリカ人や留学生と長い関係を持ちたいと切に願っていることがあります。

アメリカのビジネスは、ディベートで進むことが多いです。結論をはっきりと出す傾向があり、そのほうが好まれます。わたしは賛否両論の議論を好みます。そして30年経ったいまでもクラスメートと連絡がとれます。議論はしませんけど。

第三の就職先。勤めるところは、外資系経営コンサルティング会社と決めている場合です。コンサルティングであれば、年収はかなり高いです。海外、特にアメリカのトップスクール卒で入社すれば、最低でも1,200万円の年収はあるでしょう。30歳からそれだけもらえれば悪くはありません。

私の場合、外資系コンサルティング会社に勤務していたのは、30歳ではなく40歳でした。結構、いい年収はもらっていました。それでも少ないと言っていたように記憶しています。月給100万円に不満があるというのはかなり忙しく仕事をしていたということです。

第四の生活。これは、生活の舞台を留学を機会にアメリカに移してしまう。移したあとは、それを前提にアメリカで就職をして、アメリカに住むということになりましょう。つまり、東京にもどってくることはもう考えることなく、アメリカで一生を過ごすということです。

自分も家族をまきこんでグリーンカードを取得することをめざしていました。10年くらい前にそれはあきらめることにしました。しかしながら、これからは、アメリカでMBAをとってアメリカで生活をするというのはありえます。

これらの理由でごくわずかの人たちはMBAをめざしているのでしょう。次回からひとつひとつ詳しく述べてみます。

富裕層であること

経済面での壁を克服できる事情を紹介します。その事情とは、2,000万円の学費をかけるだけの貯蓄をすでに持っていることです。もっていれば、この条件はクリアです。クリアしていないとアメリカで働きながら通うことになります。それは現実としてはありえません。

貯蓄としてありうるというのは、個人の名義ですでにある場合。きわめて少数ではあるもののありえます。なにか特別な理由で合法的に金融機関にそれだけの預金があるといえます。

個人の名義でないとしたらどうでしょう。親が裕福であった場合は出してもらうことができます。2,000万円ですから、両方の親からもらえれば、1,000万円づつです。両親がそれぞれ比較的年収の高い職業についている場合があります。官僚、弁護士、医者、大学教授、実業家など。

一般のサラリーマンでは無理でしょう。しかしながら、サラリーマンであっても実はビジネスプロフェッショナルとして投資銀行や経営コンサルティング会社に長く勤務している。そこで結構いい収入をもらっており、かなりの財産がある場合があります。野村総合研究所の調査によると超富裕層に属する世帯です。

超富裕層の資産は5億円以上です。これだけあれば、2年間の学費はそれほど多い出費にはなりません。その下の富裕層であった場合は、別の事情がありえましょう。両親だけでなく、両親の上の親たちが裕福である場合です。そうなると裕福な親族は、両親(2人)にその上の人たち(4人)が加わります。合計6人とも裕福であること。

6人が費用を公平に分担する場合は、負担は330万円づつです。そうであれば、それほどの負担額とはいえません。そんなことがありえるでしょうか。

普通はありえません。しかしながら、留学をするひとが1人っ子である場合はどうでしょう。たまたま両親が裕福で、かつ、その上の親たちが裕福な場合、すべて1人っ子に流れていく。少数家族が代々続いて兄弟がほとんどいない家系です。

わたしの愛知県の家系は、兄は3人の子供(女、女、男)。姉は2人の子供(男、男)。子供たちも結婚しています。兄弟からすれば、孫が大勢いますが、1人っ子は珍しい。

家系が裕福であり、富裕層以上に属している場合は、経済面での壁をクリアしています。日本国内では133万世帯が富裕層です。別の調査報告では、人口の7%が1,300万円以上の年収があります。であれば金銭面で反対しないでしょう。学費ローンを組む必要などなく、在学中に働くこともありません。学業に専念できる条件がすでにできているといえます。

前述の野村総研の調査ですと日本の家計全体の資産は、1,554兆円です。2019年時点であり、その後コロナ禍で貯蓄傾向がさらに強まりました。そのため1,900兆円を超えたという報道がありました。約2,000兆円といってもいいでしょう。さらに上場企業の内部保有資産の合計は、600兆円以上あります。

日本銀行はずっと量的緩和をしています。国債発行が続いています。つまり市中にお金があふれている。それなのにインフレは起きていません。極めて不思議な現象です。

富裕層、上場企業、そして中央国家とお金が集まるところには集まっています。ですので一部の人がいっている、「お金がない」というのは実は怪しい。ほんとうは持っているのではないかと疑いたくなります。

あともうひとつ言えるのは奨学金をもらっていく機会もあります。ユニクロやロータリー財団はビジネススクール留学であっても奨学金を出します。そこに応募していくこともありえます。

30年前に渋谷にある日本コカ・コーラで働いていた時のことです。働いて必ず元をとるからMBAに留学させてくれ。そういって社内の上層部を説得した人がいました。会社から学費を出してもらってコロンビア大学ビジネススクールに留学した。その方は、卒業後もどってきて1998年長野オリンピックのプロジェクト・マネージャーを務めました。そういうこともありえます。

長年、社費でビジネススクールに派遣しているところでは社内選抜をしています。その選抜から漏れた場合でも自分でこっそりと受験するひともいます。そしてビジネススクールから合格通知をもらってから会社に相談する。そのような事例を三菱商事で聞いたことがあります。トップスクールに合格したから学費を払ってほしい、と。極めて珍しいケースです。

いまのうちに合格通知だけもらっておくという手もあります。そしてコロナが落ち着いたころに入学する。それまで貯金をしたり、スポンサーを探しておく。大学は待ってくれます。ひとつの型があるわけでもなく、とにかくいってとってくればいいのです。

富裕層の家系、奨学金、合格後に社費相談、延期して貯蓄とさまざまです。ただし、これまで経験からしてアメリカへのMBA留学は富裕層に生まれた人が最も有利です。ほかの選択肢は手間がかかりすぎる。手間をかけることなく、経済面での壁をクリアしているのがいいといえます。親が裕福であったら経済面での課題はクリアです。

次回はディベートで学ぶ優位性とネットワーキングについてです。

学びとネットワーキング

この回では、学ぶこととネットワーキングについて述べます。

何を学ぶかは別のシリーズ、「MBAは国内でとる」で書きました。さて科目をどう学ぶかです。アメリカでは、ディベート(議論)を通して学びます。多くの授業で用いられている教材がケース(事例)です。そこには企業のおかれた状況が延々と描かれています。詳しいデータや当事者の証言があります。それらの状況設定を読んで問題提起をします。そこまではケースに書いてあります。

大学院生は、問題提起に対してなんらかの解決策を考えてクラスで発表をするように求められます。仮説を含んだ問いに発展をさせて、自分ならこうするという意見を持って準備します。解決策は個人、あるいは、グループの数だけ潜在的にあります。

解決策の提示に対して教授とクラスメートがその根拠を求めてきます。それを聞いた後、賛否に分かれて解決策を磨くようにいろいろな意見が提示されます。時には反対意見も多く出されるため、それに対してかなり強く主張し、論理的に展開をしなければなりません。二項対立形式で唯一解などはなく激しい論争になります。これをディベートといいます。

ディベートのいいところは、始める前に問題がある程度磨かれていることです。そしてその問題を解決し、それが当事者の企業にとってどのようなメリットがあるのか、それともデメリットがあるのかを問います。つまり業績にどう響くのかです。裏返すと業績に関係のないことは話す必要がない。ビジネスというのは業績をあげること。利益を上げることが目的です。

これが日本国内ですと、あれもいい、これもいい、となってしまい、意見だけはたくさん出るものの、授業が終わった後になにもはっきりとしないことがありえます。ああだね、こうだねで終わってします。それがアメリカで授業を受けると切れ味のよい結論が出ることがあります。そういったプロセスを好む人はアメリカが向いています。

ビジネスは、なにか狩りをするようなものです。そこにはその獲物(お金)を求めて闘争が繰り広げられます。ぼやかしたり、隠したりするものは少なく、勝負がつきます。しかも、日本よりはるかに早く決着がつく。ここがいいところでスピーディです。

そんなこと日本人ができるのかという疑問はあるでしょう。結構できる人がいます。例えば、HBSの日本支部のオンラインイベントに参加してみてください。だれでも参加できます。前回は460人集まったそうです。

2021年7月末のイベントは極めて印象深いものでした。男女間格差についての討議では、教授がパネリストとして話をしてくれました。そこで司会をしていた人は、司会だけでなく、パネリング、ファシリテーションとかなり高度なことをこなす。新たな問題提起をその場でしていく。しかもタイムマネジメントもできるといった方でした。

あのようなソフトスキルというのは、素養もありましょうが訓練によってだれでもできるものでもありましょう。アメリカのビジネススクールは、プレゼンテーション、ファシリテーション、そしてパネリングといった表舞台での表現がとてもすぐれており、科学的な方法を使った研究もとりいれられています。

クラスメートとのネットワーキングは、すぐに友達になれます。といっても表面的であって、あくまでグループワークでしのぎを削っていっしょに勉強できるかどうかです。

寮であれば、自分の部屋に入ってきていっしょに勉強することも多く、家族がいるのであれば、学校にいるうちにグループワークができる部屋を確保できます。この設備のよさがネットワーキングに適しています。

そして大学の中にはカフェやパブが多くあり、ひとつのプロジェクトが終わったときには打ち上げがあります。毎週半ばの水曜日には、学生が気軽に立ち寄れるイベントが主催されています。夕方からはじまり、夜遅くまで行われることもあります。気軽に、ほんとうに気軽に、話ができる環境があります。このフランクさがあって、多少ズケズケとしていたほうが好まれます。

ここわかんないんだけど教えてくれないというとなにかしら返ってきます。けっこう面倒見がよくて協力的です。

授業、クラス以外では、イベントが多いです。イベント以外にも有志による専門的なグループができています。会計、財務、マーケティング、そしてオペレーションといったサークルもあれば、週末にフットボール、バスケを見に行くこともあります。このカレッジスポーツがアメリカの大きな魅力のひとつです。

わたしが通ったミシガン大学は毎年フットボールが強く、熱烈なファンがいます。たった3万人しかいないキャンパスに週末になると10万人がスタジアムに押し寄せます。当時、クウォーター・バックをしていたジム・ハーボーは、プロ選手、49ersのコーチを経て、母校のコーチになりました。

ビジネススクールとして選んだジョージア工科大学は、フットボールはちょっとさえないものの野球やバスケットではいい成績を残しています。スポーツ施設が隣接しているため、アメリカ人と仲良くなる環境が整っています。スポーツ好きなひとにとってはすぐにうちとけた会話ができます。

次回は、就職先としての外資系経営コンサルティングについて書きます。

外資系経営コンサルティング

厳しい学業を終えて無事に卒業。卒業後の就職についてです。ほとんどは日本に帰国します。帰国して何をやるか。これは、もう外資系コンサルティング会社に就職する。これしかないといってもいいでしょう。読者の中には、いやそんなことはない。ITや金融はどうなのか。そういう疑問はあるでしょう。それらの選択肢はありません。まず、それを説明します。

ITといえばGAFAです。ニューヨーク大学経営大学院のスコット・キャロウェイ教授によるとこの4社合計の就業者は、677,000人とあります。2017年、4年前の数字でGAFAの従業員数です。つい先週発表されたWSJ誌によれば、Googleには、144,000人が勤務しています。しかもその平均年収は3,000万円です。

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You Tube, "How Amazon, Apple, Facebook and Google manipulate our emotions | Scott Galloway", 2017

さらにFacebookはその上をいき、3,500万円、GAFAではないもののNetflixは、コーポレイト・カード付で4,000万円といわれます。これなら合点がいきます。

ところがこれらIT企業というのは、ほとんどがScience & Math、数学や工学を大学院で勉強をしてコンピュータ・サイエンスの修士号をとったひとたちです。MBAではありません。就職をしても、アメリカ人ですら平均勤続年数は5年、長くて7~10年くらいでしょう。感心しませんね。

金融(ファイナンス)はどうか。ビジネススクールでファイナンスを専門的に勉強したあとはM&Aを仕切る会社に就職します。ところが、M&Aというのは、ほとんどがアメリカと中国の株式市場を舞台に展開されます。日本市場では極めて少なく、アメリカのたった6%弱です。それにあまりまともな仕事として評価されません。

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The Economist, "An M&A revival, Corporate nuptials are back on", Jan 7th, 2021

どういうことでしょう。日本は、1980年代後半、40年前に土地・株によるバブルで株式市場が膨らみ、世界の資金額の半分まで占めたことがあります。しかしながら、1987年11月のブラックマンデーを機にバブルははじけました。そこから立ち直ることができていません。

欧州のイギリス、フランスほどの凋落ではないにしても回復していません。せいぜい、世界の5%程度の株式市場規模です。たった5%の株式市場規模で、アメリカと比較してたった6%のM&A取引額でどうやって稼ぐのでしょう。また、M&Aは日本になじまない。

一方、GAFA4社の時価総額合計は、日本の株式市場全体の額を超えました。国際的な期待値からもアメリカは株式市場が約半分と大きい。

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The Economist, "The world's stockmarkets, Who’s up, who’s down?", Oct 2nd, 2021

M&Aの対象となる会社はテクノロジーを駆使したスタートアップです。それは、ほとんどが株式市場の時価総額が大きいアメリカと中国で起こっており、それらの新興企業がIPO、M&Aの対象になります。Fintech、E-commerce、AI、Degital health、Cyber-securityといった分野で起こっていきます。

日本にもユニコーンといわれる時価総額$1bn (1,100億円、Y/$=110)の新興企業がではじめました。メルカリをはじめ10社ほどあります。ただ、きわめて数が少ない。

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The Economist, "Unicornucopia", Jul 24th, 2021

日本に帰国して金融機関、つまり、銀行や証券会社でM&Aをがんがんやるような機会はほとんどない。あってもアメリカ、中国に比べたら規模が小さい。小さいということはアドバイザリーの手数料もあてにできない。同じMBAをアメリカでとってもそれでは魅力はありませんね。

IT、金融が選択肢としてなくなってくると残るのは経営コンサルティングです。しかもアメリカのMBAをとったのならば、外資系コンサルティング会社です。これらの会社はいまでも業績を伸ばしています。こういったところで働く覚悟があるのであれば、アメリカのMBAもありでしょう。

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The Economist, "Loss of Sneadership, McKinsey casts off its managing partner", Feb 27th, 2021

アメリカに行くというのは、生活をアメリカに移すくらいの覚悟があるということです。日本には帰ってこなくていい。それもありです。次回にそれを述べます。

アメリカで生活する

2千万円の学費を支払い、厳しい学業に専念する。アメリカ人や留学生の知り合いをつくる。さあ、あとは帰国して就職。ただ、帰国する前にふと考えることがあります。ひょっとしたら帰国しなくてもいいのではないか。アメリカ国内で就職するのはどうか。そのまま現地でプラクティカルトレーニングを受ける。就職できるのであればそのままアメリカで働くことも可能ですね。

20代後半であれば、日本での就業年数が4,5年程度です。年金基金もそれほど積み上がってはいません。日本国内では10年以上働くことによって受給権が得られます。ならば年金の受給権を放棄してアメリカで働けばいいのではないか。日本にもどることなく、アメリカにずっと暮らす。そのように考えてアメリカのMBAをとりにいくひともいるでしょう。

わたしもそんなことを考えて留学しました。一度目は、ミシガン大学で国際政治・経済を学び、ニューヨークの国連で働きたい。そのようなぼんやりとしたアイデアがありました。二度目は、ジョージア工科大学でビジネスを学び、アトランタのコカ・コーラ本社で働きたい。あるいは、ジョージア州にある日本の会社でローカル採用として働きたい。

結論からするとそれらはうまくいきませんでした。ニューヨークの国連本部では、日本人の現地採用などはなく、帰国して東京で試験を受けなければ職員にはなれませんでした。結局、帰国していろいろ職を探して、投資銀行に落ち着きました。たまたま職があったからよかった。

バブルがはじけ、金融以外では働くことにしました。もっと他にいい業種があるだろう。二回目の留学途中にコカ・コーラ本社でインターンシップの面接を受けました。ただ、日本人としてアトランタ本社での採用はなく、東京渋谷オフィスでのインターンでした。10週間働いた。

ビジネススクール留学中に現地での日本人採用というのはなかなか見つからなかった。

運よく、アメリカ内で就職できたとしましょう。そうすると通ったビジネススクールが近くにあるというのはとてもいいことです。年1回はホームカミングデイがあります。クラスメートに会えるかもしれません。

生活をすべてアメリカに移す。そう考えてアメリカにいく。残ってアメリカの会社で働く。ドルで稼いでドルで預金をする。選挙権もあって民主党、あるいは、共和党のどちらかに投票する。年金もアメリカで積み立てる。健康保険にも入る。不動産といった資産もドル建てで蓄え老後に備える。このようになりましょう。

次回、これまでのまとめをします。

まとめ

アメリカでMBAをとる理由には何があるか。学費はかなりかかるけど払える。ディベートを通して厳しい学業に専念したい。帰国後、外資系コンサルティング会社に勤務したい。帰国しないでアメリカに残りたい。こういった理由でしょう。おそらくこれ以外の理由はなく、この中では外資系コンサルティングが一番妥当な理由でしょう。

ただ、外資系コンサルティング会社はどんなにがんばっても40歳くらいまでが勝負。40歳以上になれば、パートナーとして案件獲得ができなければならない。それまではかなりの激務です。ということは、心身がそれなりに丈夫であり、日頃からトレーニングやメンテナンスをしていなければならない。それがどれほど、大変なことであるか。

でも待てよ、経営コンサルティングの仕事の性質を理解しているのだろうか。

コンサルは周りからどんどん突き上げらます。突き上げられるのは、一部のひとからばかりではありません。案件は、数か月におよび、億単位の仕事ばかり。事業会社の中にある部門を横断的にまたがる性質を持っています。横断的であるために多くのくせ者が関与してきます。

やがて経営コンサルタントにとってやっかいなものに出くわします。それはプロジェクトに関わる組織内外での利益相反(Conflict of interests)です。それがエスカレートし、顧客企業の内部抗争(Internal battle)が起こることがあります。運悪く、その渦中にはいってしまうことがあります。

卒業をして5年を過ぎればポテンシャル採用はなくなります。仕事での実績の方が重視されます。業績アップにどれだけ貢献できる仕事ができるのかのほうが重視され、単にMBAというだけではいい仕事は見つからないでしょう。

MBAの減価償却は5年です。つまり、卒業後は、400万円づつMBA自体の価値がさがっていく。それを上回る実績を出していかねばなりません。投資回収期間は5年くらいでしょう。留学前に27歳、600万円の年収であれば、留学後は少なくとも1,000万円。28歳、800万円の年収ならば、留学後1,200万円。そのくらいはもらわないと元がとれない。

行く人たちはそこまでするでしょうか。短命な激務にあえて飛び込むのだろうか。

ひょっとしたら投資を回収することをそれほど考えていない。親の資金をかけるため。2年間、なんとかたいへんでも卒業してくる。特に1年目に比べて2年目はそれほど大変ではない。要領がわかってきて苦にはならなくなる。アメリカでMBAをとること自体は苦にしていない。そんなところでしょう。

きわめて少数ではあるものの毎年60名ほどアメリカに行きます。確かにあれはライブでないと身につかない。どんなに本で読んでも、教室の映像を視聴しても、あのとうりにはならない。現地で生活し、そこの臨場感でやる以外に方法はない。

まとめとしては、投資回収でなく、厳しい学業を苦にすることもない。帰国して外資系コンサルティング会社で働きたい。それが理由といえましょう。

書き終えて

書き終えたあと、まだ整理しきれていない点を書いておきます。

これからいく人たちは、ほんとうに外資系コンサルティング会社で働きたいのだろうか。コンサルであれば、アメリカのMBAにいく理由としては十分でしょう。あれほど厳しい学業を経て、帰国してからもさらに忙しく働く。時間を拘束される仕事をしていくのでしょう。

経営コンサルティングは、組織を強くする仕事。業績のさえないところに入って、財務諸表(BS、PL、CF)の改善をする。インタビューや事象からクライアント組織の病理・病魔を解明し、診断する。診断結果をもとに処方箋(解決策)を提出する。処方箋に従えば、財務諸表は改善するはずです。

ただ、帰国してコンサルティングをするにしてもいまの国内の実情は厳しい。組織の病は深刻といえる。

労働生産性 過去50年G7で最下位
→ 生産性が伸びる兆候なし
働かない中高年がはびこる
→ これからもはびこり若手の成長を阻む可能性
男女間格差 149か国中121位 女性管理職15%、役員11%
 是正には135年かかる
→ 上場企業に是正する気がない
いまだに東芝による不正会計、三菱電機の品質隠ぺい
→ 役員は企業統治やる気なし、見せかけの社外取締役

これでどうコンサルティングして組織を強くするんだろう? 

これらのテーマはリーダーシップの授業で話題になります。それぞれ、Knowledge Workers' Productivity, Middle Managers, Gender Equality, Corporate Governanceです。日本から来た留学生としてどう振舞うんだろう。日本人としてプライドを持って帰国できるだろうか。

それよりは大企業で定年まで無難に仕事をした方がいいのではないか。なにもわざわざアメリカにいかなくても・・・。

推計ではあるにせよ1億円以上の保有資産のある世帯は133万世帯もある。そのうち5億円以上は、8.7万世帯。これだけ裕福ならばそんなにお金を稼がなくてもいいのではないのか。