野球はセンター前ヒット

野球をやったのはいつ頃だろう。もうかれこれ半世紀、50年以上前になるだろうか。はじめて校庭でバッターボックスにはいった。当時は中学生に野球はやらせてもらえなかった。その代わりにソフトボールというのをやっていた。硬式野球のボールとは違いサイズがひと回り大きく、かつ、固くないボールを使っていた。そのためグラブも長持ちした。

大学に入ると硬式野球はやってもいないのに球場に行った。テレビよりもラジオを聴いていた。夕方の6時になると決まって民放ラジオから巨人戦だけが流れていた。それをごはんとつくりながら聞いていたことを思い出す。どちらかというとテレビはそれほど見なかった。ラジオの実況のほうが好きだったからだ。

先週、大谷翔平選手がロサンゼルス・ドジャースと大型契約をした。10年で1015億円だという。もし10年間活躍をして途中で契約破棄がなかった場合にはそれだけのお金が支払われる。支払われるのは一度にではなく、何年もかけて分割される。仮に10年かけて支払われた場合は年間100億円をもらえる。月にするとざっと10億円だ。月どうやって10億円使うのだろうか。

うわさによるとそれでも大谷翔平選手はお小遣い10万円程度だという。浪費はしない。遠征先でも一切外出をせず、ショッピングモールにも出かけないという。

だれもがスタープレーヤーになりたい。ピッチャーとして年間10勝以上をあげる。またバッターとしてもホームラン王になる。ホームランというのは野球の中でもとにかく派手で目立つ。そして勝負を決めるシーンでは必ず祝福される。ピッチャーとしてもそうだ。

しかしこの文章では才能がそれほどなくても野球で活躍できる。そういう文章を書いてみます。それは野球というのはセンター前ヒットで勝負が決まるというものです。どういうことでしょうか。少々、理屈っぽいですががまんして読んでみてください。

ひとつはバッターとしてホームランよりもセンター前ヒットのほうが打つ確率が高い。かなり高いといってよいでしょう。それはホームランよりも力がなくても打てる。ピッチャーの足元を狙って打てばボールが外野に抜ける確率は高いということです。どうしてかというと野球の内野フィールドを見ればわかります。

フィールドというのは扇方になっています。つまり扇子を開いたような形です。そのなかでゴロで野手の間を抜けて外野に達するボールを打つには一二塁間、三遊間、そしてセンター前ヒットがあります。この野手と野手の間で一番間隔が広いのが二遊間です。

二塁手と遊撃手はどちらも右投げです。ボールをとってから一塁に送球するためです。そうすると二塁手は逆ハンドになりますからボールを捕球したとしてもなかなか投げにくい。ところがショートは逆ハンドにはならないため捕球したら一塁で指せる可能性はまだ高いです。こういったプレイの特徴があるものの、ピッチャーの足元を抜いてセンター前ヒットを狙うというのが一番ヒットになりやすい。

そうは言ってもピッチャーだってフィールディングがうまいひとがいるではないか。ボールさばきがうまくてグラブを出して捕球するではないか。そういう意見はあることはわかっています。

しかし、ピッチャーというのはいろいろなことを考えなければいけない。しかもほとんどのピッチャーはボールの投げた後に体制は崩れています。どんなにプロのピッチャーであっても全力投球に近いピッチングのあとにはボールをとる態勢をつくりにくい。

そういう状況からしてフィールドの中でも間隔の一番広い二遊間を抜くというのは一番ヒットになりやすい。つまり打率を稼げるということでしょう。バッターとして体格的に劣っていてもできる。

もうひとつは二刀流をやらなくてもよい。バッターとしてそこそこの打率を残しておけばショートか二塁手になればいいというものです。このひとたちはそれほど体格に恵まれていなくても守備で活躍できます。どういうことでしょうか。

それはまず第一のセンター前ヒットで勝負が決まるという確率の多さから来ています。センター前ヒットを防ぐにはどうしたらいいでしょうか。それはわたしが高校野球の実況をラジオで聞いていたときに解説者が話してくれたことです。

ある場面でピッチャーの足元を抜けてセンターにボールが達するかに見えたそうです。しかしそのボールをショートが回り込んで捕球をしてホースアウトにした。ホースアウトというのは一塁から走ってくるランナーを二塁でアウトにするというプレイです。そこで解説者がいっていたことはこうです。

あの打球は一昔前ではセンター前に抜けていた。しかしショートが守備態勢に入るときにおそらく体重をやや左側にかけていた。打球をみて一歩を踏み出すタイミングが早かった。そのためセンター前に抜けるはずのボールに追いつくことができたといいます。

どうしてそういうことができるのでしょう。それはキャッチャーがピッチャーに出すサインをショートが見ており、このバッターはセンター前に打つことを狙っている。あるいはピッチャーの足元をぬけてボールが飛んでくる確率が高いと読んだといいます。そのために捕獲ができてアウトにすることができた。

解説者はショートのファインプレーといっていました。というのはあのままセンターにボールが抜けてランナーが返ってきた場合は得点が入るわけです。

わたしは高校野球というのがここまできているのか。そういう見方があるのかと驚きました。しかしちょっと考えてみるとホームランよりもヒットはでやすい。バッターとして成功しなくても守備で活躍できるのではないか。そう思いました。

バッターはピッチャーのどこに投げてくるかわからないボールを器用に打つ。しかし守備は練習をすればうまくなるのではないか。たとえセンターに抜けそうでも打球のスピードと距離からしてアウトにできる確率を上げる。そういう地道な練習ができる。監督や解説者は必ずそういったところを見ている。

野球は勝てばいいのです。バッターとしてセンター前ヒットを打てる。あるいはショートでセンター前ヒットになりそうな打球を処理してアウトにする。才能や体格に恵まれてなくても練習でレギュラーになれる。そういう解釈をしました。

わたしは中学時代のソフトボールのことを思い出します。打つときはなるべく早い打順が好きでした。右打ちでしたがとにかくボールを見極めてライト前に打つのが好きでした。そして守備はファーストかライトを守りたかった。どうしてかというとファーストはボールを内野手が投げてくれて一塁でアウトにできた。またライトはそれほどボールが飛んでこない。そんなことを考えていたからです。

あのラジオの解説を数年前に聞いて以来、野球に対する観戦の仕方がこうも面白くできるのかと感心したことを思い出します。野球はセンター前ヒットで決まる。ならばセンター前ヒットをいかに防ぐか。ラジオで聞いていて高校生でそこまできているのかと驚きました。プロならともかくたいへんなことになった。

読者の皆さんにとって参考になりますように。