G7広島サミットの課題
40年ほど前にアメリカのミシガン州で国際政治の授業を受けていた。そこでは日本では聞けないようなことが話されていた。日本では歴史を引き合いに出すことが多い。教授が史実を淡々と述べて90分過ぎる。それが授業というものだった。ところがアメリカでは歴史をいうことをそれほど取り扱わなかった。歴史はすべて教科書に書いてあるからそれを読んで授業に出なさいだった。
ある教授はレーガン大統領の政権下で中東の統合参謀総長を務めたひとだった。中東における米ソの均衡をどのように保つのか。防衛構想として話題になっているスターウォーズでさえとりあげいた。この構想はロシアから飛来する大陸弾道弾を成層圏で撃ち落とす計画だった。それにはどのような配備が必要か。
他の教授はジェット機や武器をどのように持ったら優位に立てるか。武器武装の話をしており学生は工学系の知識さえ必要とした。もうひとり別の教授はロシアを囲い込むには中国にどのような圧力をかけるのがいいか。いずれも戦略的な考えを本気で話していた。
当時のソ連(ロシア)とアメリカの関係は長い冷戦が背景にあった。両国の対立と分断をどのように抑えていくのか。わたしはこういった授業を受けたことですっかり国際政治というものの見方が変わった。はたして対立と分断の行方はどうなっていくのか。これが国際政治のテーマと理解した。ビジネスでは交渉といった分野に応用できるであろう。
あるオンラインイベントでG7広島サミットについて話をする機会がある。そこではある新聞記事に取り上げられたストーリーを中心に話をする。記事にはG7の成果として西側7か国が結束をしたこと。ロシアに対して強い抵抗のメッセージを発信したことが評価されるとある。しかしG7と参加国の間には分断という難題が待ち受けているという。
ひとつはグローバル・サウスと呼ばれる国々。それらはG7と置かれている立場が違う。次にBRICS(ロシア、中国、インド、ブラジル、南アフリカ)は購買力平価基準の国力ではすでにG7を抜いていること。日本は懸け橋役としての役割ははたした。だが肝心の国内での問題に目を向けていないこと。国益を追求する外交の舞台で関係力に力を注いてしまっている。それぞれどういうことだろうか。
グローバル・サウスは西欧の先進国のような状況に置かれていない。そのためG7との歩み寄りはしにくい。新興国であるため食料や天然資源を他国にたよらざるをえない。そういったものが豊富にある中国やロシアに目を向けざるを得ない。ウクライナ問題でロシアを批判することに対して新興国はまだ経済制裁に足並みを揃えていない。このG7とグローバル・サウスの分断を埋めることは容易ではない。西側の結束を確認したというくらいであろう。
次にBRICSで中国の経済成長が著しい。そのためBRICS経済圏の規模がG7を抜いている。G7は1980年代になってから降下しはじめており最近はどこの国も経済成長が止まりかけている。一方で中国は直近40年で平均9%の経済成長を記録している。しかも世界を相手に貿易をしていることで外貨、特にアメリカドルの保有量は世界一である。そこで基軸通貨のドルをつかって新興国に貸付をするようになった。
これはファイナンスの武器化と呼ばれる。
一方でG7のひとつ日本は軍事力・経済力ともに停滞している。失われた30年といわれ国自体に活力がない。その活力を裏付ける指標として用いられるのが人口動態、労働生産性、為替レートがある。いずれも芳しくない。
人口は減少に転じており増加の兆候はない。東京では男性の4人にひとりが50歳まで独身でいる。女性では5人にひとりあって子供を産まない。
労働生産性はG7の中で50年間最下位である。いつまでも遅くまでオフィスに残っているだけで生産や消費をしなければ生産性は上がらない。時間当たりの経済付加価値を考えながら仕事をしていない。長引くだけで必要のない人まで会議に参加してくることで時間が奪われる。メモを読めばいいだけの会議が無数にある。
為替レートも139円と円安になりドルに対して弱い。そうすれば輸出によって外貨を得ることができない。自動車産業には8%の労働者が従事していることを考えればこの円安は脅威であろう。円高に持っていこう日銀による市場介入がある。ところがドルを売って介入しようとすればそれだけ外貨準備として持っているドルを売らなければならない。ドルは自国の通貨ではない。
G7の各国が広島に集まったとはいえ自国の国益を外交で追及するのが本来の姿であろう。ところが日本の立場はどちらかというと関係構築や対立回避といった姿勢に回っている。特に懸念されるのが台湾問題であろう。これはアメリカと中国の対立次第では大変なことになる。というのは中国ではどうやら4年後までに台湾統一を目指すようにと指示が出ているとのうわさがある。中国工農紅軍が準備をしている。
もし両国の関係が悪化し中国が台湾になにかをすることがあった場合にどうなるか。ひとつはアメリカが海軍を派兵するのかどうか。なにかしらの抵抗をせずに批判だけをして台湾統一になった場合は次の狙いは尖閣諸島に向く。そのときに日本はどうしたらいいか。一歩間違って核武装をする事態になった場合が恐ろしい。核抑止による均衡という結果になってしまう。核兵器による平和はエスカレートする。
しかしこういった長く時間のかかる外交や複雑で回答のないことを首脳陣がやっている。すると国内の問題が深刻化してしまう。経済成長のための起業家支援やテクノロジーの人材育成に資金を投入できない。しかもそれほどしてこなかった。
国民と民間は将来に不安を覚え貯蓄と内部留保に向かった。一般家計の貯蓄は2千兆円。民間の留保は600兆円以上にまで膨らんだ。しかし必要な人材育成をしていない。
わたしは40年前にアメリカのキャンパスにいるときとてもいい授業を受けることができた。それはどんなにクラスが大きくても現在進行中の課題をとりあげて教授と学生、学生間で議論をすることだった。そこには不必要な対立もあり恐ろしく消耗する時間であり授業が終われば離れるという現実があった。しかしここまで双方の対立が国力を消耗させるのかということもよくわかった。
G7の中で日本だけがアジアに属する。どこかで取り残されることのないように願う。大学生の読者の方々はあまりひとまかせにせずに一歩国外に出てみれば情勢がよくわかるであろう。そこでは意見をいわないと取り残される。