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マッキンゼーは中間管理職を切らないともいえない

30年前の今頃、渋谷にある日本コカ・コーラで勤務して2か月過ぎようとしていた。なんとなく仕事の様子が分かりかけていた頃の話である。なんとなくというのは入社の前年にインターンをした。10週間。その期間は私費でアメリカに留学しているインターン仲間がいた。いまからでは考えられないが8人が集まった。翌年わたしを含めて5人がコカ・コーラに就職した。

そんなインターン仲間で時々会う機会もあった。なんとも心強い。いろいろ相談することもあった。その中でコロンビア大学に留学をしてMBAを取得した仲間の一人がいた。そのひとは普段は静かな人なのだけれども飲み始めると元気になる。ところがある日、なんとなく元気がない。どうしたのかなという思いで様子を観察しながら話を聞いていた。

38歳では高齢だという。なんのことですか。なにが高齢なんですか。そう質問すると彼の答えはこうだった。コカ・コーラに決まった後にマッキンゼーに面接にいったんだ。そこで十分な経歴ではあるといわれた。けど38歳でコンサルティング会社に勤務するのは年を取りすぎている。そのため採用を見送られてしまったという。そんなことがあるのだろうか。

彼はがっかりしていた。それほどまでにマッキンゼーで働きたかったのだろう。

マッキンゼーといえば経営コンサルティングの中でも最高峰である。入社の倍率は100倍。初任給はおそらく2千万円くらいだろう。年収2千万円というのは魅力がある。そういったことからも彼はコンサルファームで働きたかった。

あるオンラインイベントで少しだけマッキンゼーのひとが書いた記事をとりあげることがあった。表題は中間管理職をむやみやたらに切ってはいけない。そのような内容であった。ただ、この表題だけを見て本当にマッキンゼーのコンサルタントがきたら中間管理職を切らないで済むか。そこがわたしの気になったところだった。

そこで記事を読みながらやや違和感を覚えたところを話してみた。現実の世界でマッキンゼーのコンサルタントが入ったら中間管理職を切らないで済むのかといったことを考えてみたかった。この文章の読者は安心してはいられないというのが結論である。

ひとつは、この記事の中をよく読まなければいけないということ。表題は人員削減を軽々しく行うべきではないとしている。しかし、文中には「クリティカル・フュー」、つまり少数精鋭に注目している。中間管理職の中からスタープレーヤーにだけ注目するというものだ。他は重要視しないと書かれている。

次に文中にマネージャー(中間管理職)は解雇する必要があるかもしれない。そうはっきりと書かれている。こういったところを見落とさずに読まなければいけない。

どういうことかというと彼らは激しく働く。そのために課金料金が高い。一時間10万円以上はする。年収も高い。それはそれだけ払っても顧客にとってメリットがあるからだ。そうでないと解決策を提案できない。解決策というのは依頼人である社長を喜ばせること。社長の通信簿は業績である。業績をあげることが目的になる。しかし社長は自ら手を汚したくない。そのため、コンサルタントを雇うのである。

リストラまではいかないが組織編成か配置転換は起こる。

この記事でどうしても気になるのは現在すでにマッキンゼーではこういった企業戦略や人事戦略はそれほど人気がなくなっていること。つまり稼ぎ頭のプロジェクトではなくなっているということだ。企業戦略は収入の10%程度にすぎない。9割はM&A案件かデータサイエンス案件で稼いでいる。ということはマッキンゼーのコンサルタントにとってもう人事戦略というのはそれほど魅力のある仕事ではないのではないか。だれもやりたがらない。

そういったところから短期間の単発の案件であれば一番効果がある手口としては中間管理職の解雇というのが考えられる。コンサルタント自身がそれほど自分たちのキャリアになると考えていないやりがいのない仕事。しかも顧客が中間管理職をなんとかしてほしいというものを持っていれば最初から何を提案するかは決まっているというものだ。

つまり社長もコンサルタントもそれほどやりたがらない仕事。そういったことがいえるのではないだろうか。

1995年にマッキンゼー社がやってきて、その5年後に大きなリストラがありほとんどの社員は退職をした。そこでの退職パッケージは相当にいいものだったらしいが、それでも仕事を失うというのはつらい。

あの青山学院大学のそばにある日本コカ・コーラ社。そこを通る度に思い出す。あのマッキンゼーのコンサルタントがやってきた。社内で分厚い資料をつくり提示した。そこには中間管理職削減の数値はなかった。

たしかに彼らの仕事は一流だ。しかしその一流の人たちはあくまでも依頼人ために働く。社長の財布が潤えばいいのである。中間管理職はいらなくなる。実際のところ長年勤務をしてどうにもなりそうもない職員に対して社長からこういった発言があったのである。日本では安易に人を解雇できない。それが悩みだ。致し方ない。

その方が依頼人であれば5年後に中間管理職のリストラが起きてもおかしくはない。