労働という苦痛から逃れる

愛知県豊田市。そこはわたしが生まれ育った場所。高校卒業まで豊田市で過ごした。親は事業に忙しくほとんど家にいなかった。わたしは三人兄弟姉妹の末っ子だったためかほったらかしだった。ある程度ものが手に入ったためそれほど不自由なく過ごした。やんちゃ坊主ではなかったが落ち着いているわけでもなかった。小さい頃は動きたくてしょうがなく教室にじっとしているのが苦手だった。

大学を卒業したら働かなくてはいけない。サラリーマンとして働くということがどういうことか。ほとんどわかっていなかった。80年代というのはそれでも仕事があり、結構いい給与をもらえた。当時を振り返えるといろいろなことを思い出す。働くとはどういうことなのか。労働とは何か。一言でいうのも難しい。

誤りや誇張という批判を受けることを承知であえていえばこうだろう。サラリーマンは奴隷であり、労働とは苦痛である。あたりまえのようなことだが一体どういうことか。ではそうであったらそこから逃れるにはどうしたらいいか。わたし自身の経験も参考になるかもしれません。書いてみます。

ひとつには労働は必ずしも楽ではないということ。楽ではないのでお金がもらえる。労働はむしろ苦痛であるということ。これが前提でしょう。この苦痛をこらえて頭と体を動かす。なので対価としてお金がもらえるのです。お金を払っているのが会社です。雇用をされているということは会社組織の一員。一員として役に立つことをしてほしい。そういう思いで雇っているわけです。役に立つためには少々の苦痛をがまんして働いてもらわなきゃ困る。それがお金を払っている会社の言い分でしょう。

しかし働くということはいっぱい失敗を伴う。だれでも成功するような簡単なものならば雇いません。労力が必要だから雇っている。馬車馬のように働いてほしい。なので苦痛になるわけです。会社では無料奉仕などしているひとはひとりもいない。ボランティアではない。

次にお金の話です。会社でお金がもらえる。わかってはいるけど簡単ではない。それでストレスがたまります。ストレスは危険ですけどストレスをためない方法でお金を手に入れることも可能です。手に入れるというよりも負担を少なくするといった方がいい。そうすれば苦痛が減ります。そのための方法を三つほど紹介しましょう。

ひとつは結婚です。

結婚はすべきです。それは結婚によってかけがえのないパートナーを見つけることができる。ただ東京都内ではどうもそれがうまくいっていません。40歳以上の男性は3人に1人は未婚です。また女性は4人に1人は未婚です。そうなるとパートナーといっしょにいることがない。全部ひとりでやりくりしなければならない。これは大変な負担になります。特に金銭的な負担は大きくなります。なぜならパートナーと家で分担をすればそれだけ助かります。

ただ子供を持つかどうかはパートナーと慎重に判断をしないといけない。少子化だと騒いでいますが子供を持つということは大変なことです。あるファイナンシャルプランナーによると教育費に770万円から2200万円かかるといいます。これはオール公立とオール私立の負担範囲です。公立の場合は小・中・高。しかも大学までも国立という場合です。

国立大学は授業料が安く55万円くらいでしょう。それでも2歳から22歳の20年で770万円かかります。月にして3万円の出費になります。これは負担といっても一番安くいった場合です。

ところが私立にした場合はどうでしょう。すべて3倍になります。月9万円で20年で2200万円です。これだけ投資しても大企業に就職できるかどうかわかりません。ですので子供をつくるかどうかはパートナーとしっかり相談する必要が出てくる。

まず暮らしの負担を減らすのが結婚のいいところです。次に同じように大事なことは結婚相手の家庭が裕福であるかどうか。裕福であれば金銭的なサポートがもらえる。なにかたいへんなことになったときに結婚相手の親族に救ってもらうことができます。永久的ではないにしてもサポートがもらえる。リスク低減です。

しかも労働は苦痛なため病気になることがあります。なにかあったときは結婚相手と家族にたよる。さらにはそれだけでなく自分の親に頼るということも苦痛を下げる一つです。

三つ目の方法は親からの遺産をあてにする。1人っ子であれば相続はひとりですから問題はありません。一番楽な道を選べます。兄弟姉妹がいる場合は分割協議をします。親が55歳になったら遺言状を作成してもらいましょう。死んだときに供養はしなきゃいけませんが供養のためにお金はちゃんともらうことが前提です。そういった親からの遺産がたよりなれば働く苦痛は減ります。

いくぶん仕事に対する圧力も減ることでしょう。仕事でもらった給料はおこずかいのようなもの。しっかりとためて将来に備える。高いクルマを買ったり贅沢なホテルに泊まらない。余裕があっても何度もハワイ旅行にでかけるようなことをしない。無駄使いはやめましょう。

ひとつは結婚相手。次に相手家族。そして自分の親。この三方向からお金がはいってくるところがあるとそれほど稼がなくてもいい。するとマイ・ペースでのんびりとできる仕事を選べばいいでしょう。仕事をしていれば給料もはいってきます。そういうことができる職場を探す。給料の高いところはだめです。こき使われるだけです。奴隷のように。

楽な仕事を確保できて苦痛を和らげることができる。そうしたならば病気に気をつけることだけが残ります。それでも病気になる原因はいくつでもあります。東京では普通に暮らしていこうとするだけでも病気になります。そうなると通院や服薬でとても苦しくなる。

仕事を持たずに普通に暮らしている。これがなによりです。それから病気にならずに過ごす。それすら簡単でない。病気になるとお金がかかる。苦痛で過ごしている時間が長い。楽しいことができない。これほどつらいものはありません。もしすべてそろっていればこういうことができます。わたしにはうらやましい生活です。

日曜日には軽い散歩をする。散歩をして20分くらいするととてもいい気持になります。隅田川付近を90分歩く。浦安公園からタワー・オブ・テラー、コロンビア号の裏側をいく。海岸にそって1時間ほど歩く。景気がよく苦痛などありません。軽く汗を流して日に当たる。そういったことをして喜ぶ。それだけでいいでしょう。

お昼になると都内で友達とおしゃべりしながらランチする。そのときに世間を騒がしていることを話すよりもささやかでシンプルなことに気づく。病気になればそんなことできません。苦痛でお金も出ていきます。そんなときたよるところがあれば苦痛なことをしなくてもよい。がんばらなくてよい。これはすばらしいことです。都内だとできるのです。

都内にいると43年働いて65歳になると定年です。64歳から年金が少しもらえます。65歳になれば年金が出ます。偶数月の15日。金融機関のATMはどこも込み合います。しかしいまの仕事の苦痛を考えたら65歳までは働きすぎです。60歳になったらほとんどのひとが実質引退です。仕事もかりかりする気はない。あと定年までの5年間はお金をもらうだけでよい。どこかしら心身が壊れているはずなんです。

もし先ほどあげた条件がそろっている場合は50歳をピークに引退を考えてもいいでしょう。ただそれだけ余裕のあるひとはかなり少ないのではないかとも考えられます。それでも少なからず可能です。

ある税理士によると日本で3億円以上の年収があるひとは40人いるそうです。2億円というひとは東京にはたくさんいる。これは大企業の役員であってだれでもなれるわけではない。しかしいるのです。下のチャートは野村総合研究所によるものです。結構な資産家がいるのです。

出所 野村総合研究所 日本の富裕層は149万世帯、その純金融資産総額は364兆円と推計

先ほど書いた裕福というのは準富裕層より上の層を指しています。そういう層になろうという意欲もいいのですが成功確率はかなり低い。それは競争が激しすぎて人材が埋没してしまう。それが東京です。

この統計によると日本全国には5413世帯あります。そのうち超富裕層は9万世帯で0.2%。富裕層は140万世帯で2.5%。この二つを合わせると約150万世帯で3%。

さらに下にいき準富裕層になると325万世帯で6%。この層より上は475万世帯もいる。その世帯がおおよそ10%いるといっていいでしょう。全体の1割にもなるわけです。アッパーマスでは十分とはいえないでしょう。しかし日本の9割はそうでないひとたち。

そこで頼るのがパートナー、パートナーの親、自分の親、そして仕事です。サラリーマンは奴隷です。奴隷としての苦痛から逃れること。病気をせずに楽をする。それもいいことなんです。病気になったらだめです。

愛知県豊田市から東京に来て40年。これほどサラリーマンがつらいとは思ってもみませんでした。大学生の読者でサラリーマンになる予定のひとはどうでしょうか。