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科学的根拠なき先天性アントレ論

今から30年ほど前、あと3ヶ月を残して大学院を卒業というところまできた。卒業には、次の3ヵ月で4科目をとり、6月で無事に卒業できればよい、としていた。あと4科目何をとればいいか。教授との1対1の授業もとり、ほとんど選択科目だけ。シラバスを見渡してもそれほど特別に何か変わった授業があるわけでなかった。

それもそのはず。アントレプレナーシップという授業は探してもなかった。

いまでは、ビジネススクールにおいてアントレプレナーシップの授業はどこにでもあるようになった。金融の保守的な授業を講義形式で進めるシカゴ大学においても十年以上も前から履修できる。履修できるだけでなく、大学内でビジネスプランコンテストも行われるくらいだ。

この十年くらいは、わたしは20歳くらい若いひとたち、特に起業を目指すひとたちに意識して会ってきた。どんなひとが起業をしたがるんだろう。起業家というのはどんなひとなのか。成功率1%以下といわれるスタートアップに向いている人というのはどんなひとなのか。そして起業家というのは生まれながらにしてそうなのか、それとも自分でつくりあげるものかのか。

Is an entreprenuer born or self-made?

この答えはいまだにわかっていない。ただ、ここでは、いままで会ってきたアントレから、その人たちの証言から、やや根拠のない説を書いてみよう。これは科学的には何も実証されておらず、どちらかといえば、でたらめに近い説であり、参考にはならない。とはいうものの、そうばかりともいえない。

起業家というのは先天的に決まる。

大学院の授業では、おそらくリーダーシップ論の中で問われるたぐいのものであろう。そこでは、あなたはどんな原体験をしたのか。原体験とは、大きな影響を与える幼少期、8~12歳くらいの体験はなにか。それを深く見つめる。そこからいつまでも自分を突き動かすなにかを見つける作業。

あるいは、セレンディピティ。10~20代の前半にいろいろなアイデア出しをしていく過程で何か偶然にであったもので発見したこと。それから自分をどんなことがあっても突き動かすなにか、それが気になって仕方がなく、どんなことをしても成し遂げたいこと。そういう体験を話し合う場になろう。

いずれもそれらを洗い出したとしても起業家に向いているかどうかはわからない。どうも先天的に起業家に向いているものが備わっていなければならない。それは、身体的、嗜好性、そして外形的なものであって、原体験やセレンディピティといった後天的な経験ではなさそう。もともと生まれた時にあるかどうかで決まる。

まず、身体的に脈拍がとても低いという特徴を持っている。1分間に45回くらいの脈拍しかない。ひとはだれでも運動をすれば代謝が上がり、当然ながら脈は上昇する。70,80,90へと上がるのは生理的には当然のこと。体温が上がれば身体を冷やす。ただ、普段、とても低い。20代のひとは自分の脈拍数を測ってみるとよい。60くらいであれば普通。50以下になるととても低い。

これは、ちょっとしたことにびくりともしないひと。起業は事件や事故に巻き込まれることが多い。もともとビジネスとしては攻めの姿勢を貫く。当然のことながら攻めには敵が多い。守りを重視する日本文化であれば抵抗されることは避けられない。つぶしにかかられることが多い。そこでびっくりすることはない。脈拍数が低ければよほどのことに驚かない。

次に嗜好性というもの。たとえはよくないかもしれない。例えば、オカルトやホラー映画を平気で見られる人。そういう人は起業家に向いている。これも怖いことにそれほど抵抗感がないことからいえる。犯罪にも慣れているし、詐欺にも慣れている。若いうちはそういうものもスリルのうち。

葛飾区の図書館で著名な私立大学の教授が発表したことがあった。その私立大学は、都内にあり、首都圏の高校生であればだれでも入学したい。それだけでなく、全国から受験生が押し寄せる大学としても知られている。そこに通う大学生に愛読書のアンケート調査を行った。結果はホラー映画になった「リング」がトップに入った。起業をするひとというのはホラー映画を見てもなにもびっくりはしない。

最後に身体的特性で外形的なもの。それは顔が丸い、丸顔であること。これには科学的根拠がない。ただ、マイクロソフトのビル・ゲイツやソフトバンクの孫正義氏を見ると確かにそうともいえる。世界の起業家の写真を見てみるとよい。そこに丸顔が多いかどうか。

大学院の授業では、科学的な根拠に基づいて仮説が実証されなければならない。このような根拠のない仮説を説くわけにはいかない。ただ、先天的に起業家というのは決まっているのではないか。生まれながらにして、遺伝的に決まっているという説。必ずしも間違ってはいない。正しいとも言えない。

アメリカのビジネススクールでは、身体的特徴、生理的特徴からアントレプレナーシップ論を学ぶことはまずないであろう。ただ、リーダーシップ論の中で後天的な原体験がどうの、セレンディピティの有無をどれだけ探ってみたところで自分がアントレプレナーかどうかはわからないのではないか。