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欧州連合は脱炭素で突っ走れるか

30年前にアメリカから帰国。33歳になっていた。その頃の大きな出来事といえば欧州連合(EU)という一大経済圏ができたこと。それまでバラバラだった通貨が統合されてユーロになった。旅行者は国境を超えるごとに両替商のところにいく。その手間が省けるようになった。旅行好きなわたしにとっては各段に利便性を高めた。それだけでなくEUには大きな狙いがあった。

欧州に大きな経済圏と作る構想。大西洋の西側にあるアメリカ合衆国と東側にある欧州の経済圏をつくる。欧州に連合経済圏とでもいうものを作りたかった。アメリカ合衆国(United States of America)が50の州が集まった経済圏としてドルで成立している。それと同じようなことをする。つまりそこから連合した欧州(United States of Europe)とでもいえよう。こんなことが可能になった。

あるオンラインイベントでこれからの欧州連合の在り方について話をする機会がある。欧州連合はどのくらいの経済活動をしているのだろう。


出所 World Economic Forum, "World Economy"

このチャートは経済規模の大きさを地球儀の中にうまくはめこんだものである。EUはアメリカ合衆国と中国・日本を含めたアジア経済圏に匹敵するくらいの経済規模をもっている。これをどうかじ取りするのか。特徴的なのは脱炭素を前面に出したクリーン政策がある。さて欧州連合は脱炭素で突っ走れるだろうか。

炭素価格の導入、クリーンエネルギーへの投資、そしてドイツとフランスによる取り組みが行方を左右する。炭素価格は1トンあたり一律にかけるという議論がある。消費税のような付加価値税として議論された炭素税ではない。ただ消費するつどに課せられる炭素排出への課金のこと。気候変動に悪影響を与える。それに対する罰則のような考え方である。

この考え方がすべてにおいて受け入れられているわけではない。欧州だけに適用したとしてもアメリカ合衆国や中国で同じように採用されなければ気候変動を抑えることは無理であろう。根拠としては以下のチャートが参考になろう。

Our World in Data

1950年から今日までの7年間で炭素排出量は50憶トンから7倍になり350憶トンになった。下から二つ(茶色)は欧州の排出量である。1980年くらいから排出量を抑えてきている。結果を出している。

ところが同じ期間においてアメリカは排出量が増やしている。1990年くらいから中国が世界の工場として台頭してきた。その勢いは年々増して炭素排出量もかなり増えている。アメリカと中国が排出を抑えないようでは気候変動はうまく制御できないだろう。

ただ欧州連合は炭素税を導入してさらに温暖化抑制への努力をしようという路線を強く打ち出している。グリーン産業といわれるような炭素を排出する度合いが大きい産業に一大変化をもたらそうと努力している。自動車ではドイツのVWは電気自動車の開発・生産を急いでいる。

クリーンエネルギーへの投資も積極的に取り組もうとしている。ドイツでは太陽光パネルによる発電は一般市民にも受け入れられてきた。ただしウクライナ情勢によりロシアからの天然ガスの供給が不安定になっている。重大懸念事項で頭をかかえている。従来の石炭・石油による発電といった時代へ逆もどりもありうる。

欧州連合は多くの国により構成されている。ただし主役はドイツとフランスによる経済圏ということがいえよう。この二つの国の消費、投資、そして金融政策によりどのような気候変動への政策が考案され実施されていくかが注目される。ドイツは国内でエネルギー政策が分断されているという。

30年前にこれからの経済を見通すことをしたときこの欧州連合の成立はとても大きな出来事だった。アメリカに匹敵する経済圏をつくる。通貨を統合してユーロを発行する。自由貿易と最恵国待遇により大西洋をはさんでアメリカが西にそして欧州連合が東にという貿易経済圏をつくるはずだった。しかしどうもこの構想には多くの課題が残されているようだ。

アメリカという金融と情報技術という特徴をもった経済圏に対して欧州は法律立国として脱炭素を打ち出して成長をする。脱炭素で経済成長できるのか。