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新入社員はお茶くみ講習を受ける必要なし

4月になり新学期・新年度が始まった。大学は18歳新入生。社会人は22歳新卒社会人。それぞれ4年間あるいはおそらく4年以上という長い期間をひとつの大学か会社で過ごす。わたしもいまから40年前に東京丸の内で新卒採用で仕事を始めた。職場は古河総合ビルに入っていたスイス銀行コーポレイション(SBC)だった。金融のことなどこれっぽちも知らなかった。

SBCはその後UBS(Union Bank of Switzerland)へ統合されUBS(United Bank of Swizerland)となった。今日クレディ・スイス銀行もUBSの傘下にはいった。あのときからすると考えられない。

外資系金融機関で金融のことをなにもわからない状態で仕事に就いた。行内にいる人は誰も知り合いはいない。同期もなし。入社時にオリエンテーションもなければマニュアルもなかった。席につくと何かしらのミーティングに出るようにいわれじっとメモを取っている毎日だった。3年間はノートをつけて仕事を覚えた。新聞を読みつづけ社内で話されていることとミーティングで交わされていることが肌感覚でわかるまでに3年かかった。

あるオンラインイベントで新入社員のときの思い出について話す機会があった。わたしは外資系金融機関のことを話した。イベントに参加したひとは日系企業に勤務した人。丁寧なオリエンテーションがありしばらくは社員研修期間があったという。社会人としてどのように振舞うかということを教育されたという。わたしにはそのような研修はなかった。

ある女性は社員研修にお茶くみがあったという。お茶をどのようにいれてテーブルにもっていくのか。社会人としてのマナーというもの。社員・顧客向けにマナーを学習するという。わたしは耳を疑った。まだこのような時代錯誤が行われているのだろうか。古風であり現代の組織の在り方としては間違っている。悪しき時代の封建主義の残骸ではないのか。新入社員に向けてお茶くみマナーの講習をするのは全くのナンセンスである。

その理由はさまざま。企業価値の向上とは無関係であること。営利企業の目的ですらない。社員のモチベーション、生産性、経常利益に直結しない。逆効果でさえある。給与や職務記述にはない。そして人権侵害にあたる可能性がある。

営利組織の目的はお金を稼ぐこと。それを企業価値の向上という。向上がなければ資産を食いつぶしているだけ。会社の損益計算書を見ればわかる。工場で働く人は直接費として労務に計上される。オフィスで働くサラリーマンは販売管理費にはいる。売上を上げてコストを下げる。それが利益を生み出す源泉である。お茶くみにそのような行為はない。

将来性のある事業とみなされたら株価が上がる。これが役員の成績表である。役員は株価を上げることで価値向上として評価される。お茶くみをされても役員のやる気が出て株価上昇にはならないだろう。無関係である。

社員のモチベーションはむしろ逆に下がる。同僚がお茶くみをしている。何のために会社に雇われているのか。逆効果だ。生産性にも悪影響を及ぼす。時間当たりのアプトプットを計算するのは難しい。ただ、日本の会社は25年以上G7の中で常に生産性は低い。それなのにお茶くみを研修の中に組み入れるとは何事だろうか。時代錯誤もはなはだしい。

nippon.com Japan's Labor Productivity Lowest in G7 | Nippon.com

次に給与を支払われるとしてもお茶くみをすることで給与が払われているわけではないであろう。今春の新入社員の平均月給は30万円とある。その人たちがお茶くみをしているのであればどこかがおかしい。9時から5時まで働く間にお茶くみを2回するとする。朝の10時。昼の3時。するとその時間はほかのことをできない。やりかけの仕事がかたづかないだろう。仕事へのロスが発生する。集中できないだろう。集中してやっているときにふとメールを見ただけでも25分はロスするという調査がある。それなのにお茶くみをしたらどれだけのロスが発生するか。

職務記述にはお茶くみというのは書いてない。書いてなくてもやるのだろうか。これはおかしい。どこまで職務について書くかというのはある。多くの会社には職務記述書なるものは存在しない。ただしお茶くみというのは役員の秘書であればやるかもしれないが一般社員がいまでもやるというのはおかしい。しかも新入社員の女性がビジネスマナー講習として会社が給料を払っているときに受ける。とてもおかしいといえる。

これはノーという旗を掲げるべきであろう。それに対して何かしら会社から不利な扱いを受けたとすれば人権の侵害にあたる。労働法にも強制的な労務をさせてはいけないと書いてあるはずだろう。それをこれまでの慣習だから、あるいは昔から先輩たちがやってきたことだから。そういう理由で今も続けていたとすればその考えは相当な封建主義である。会社というところを勘違いしている。

40年の月日が流れていまでもひょっとしたら女性の新入社員がお茶くみの講習を受けている。それは企業文化の後退を意味していよう。わたしが男女平等ということを聞いたのが1975年くらいであることから考えるとぞっとしてしまう。

企業の価値向上に貢献していない職務はそぎ落としてしまったほうがいいであろう。企業はエンターテインメントとしてお茶をサービスするようなところではないはずだ。過剰サービスもはなはだしい。新入社員はマナー講習としてお茶くみは受ける必要はない。