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進まぬ男女間格差の行方

今から40年以上も前の今頃、わたしは、新鮮な大学生活を始めていました。なにもかもが新鮮であり、受験勉強では聞いたこともないことにあふれていました。そのため、わたしの知的好奇心は最高潮。そんな局面ではどんなことでも新しく、素朴な疑問を持ったものです。

その中でいまでも覚えているのが男女間格差をなくそう。性別で差別をしてはならないというものでした。ひょっとしたら、差別ということが社会に出たらあるのかな、と。そんな程度でした。

アメリカでは、1970年代から男女間格差をなくそうという運動がはじまっていると聞きました。すでに50年以上が経過しています。そろそろ是正されているのかな。

昨年2021年、HBSのオンラインイベントに参加しました。そこではホスト役である村上由美子さんがハーバード大学の教授とパネリングをして問題の緊急度と深刻度を訴えていました。村上さんは、教授に向けて、女性の管理職、役員に一定の比率を設けたらどうかと問い、教授でさえもそういった割り当ては妥当であるという答えていました。わたしはこのイベントに感銘を受けました。

さて、1年が経過してどうなったんだろう。

今週の4月18日、政策大学院大学のオンラインイベントに参加しました。1時間ほどのイベントで、キャシー松井さんによる40分くらいの講演の後にパネリストとの質疑がありました。

この文章では、講演を簡単にまとめて、わたしの疑問を書き、今後どのようになっていくかということを述べます。今回の文章は大学生に向けて書いています。4年間の学業においてなんらかの参考にしてほしいです。結論からいいますと、これからも男女間格差の是正は進まず。今と変わらないため、働き始めてもショックを受けないように。

キャシーさんの講演は3部構成でみごとな内容でした。まず、日本経済の成長のためには、労働力、資本(お金)、そして生産性の向上が欠かせないということ。それらの中で労働力に焦点をあててウーマノミクスを推進している、と。そしてこの労働力をあげるためには、出生率、移民、労働市場への参加をあげることを発表していました。

最後に根拠の薄い間違った社会通念があると指摘。女性の労働への参加と企業業績との関係、つまり、相関はないのではないかという点。そして女性が労働市場から家庭にはいってしまうときには育児、介護といったPULL型と会社への不満から辞めるというPUSH型があり、それがうまく理解されていないということでした。誤解をうけている。

発表はよく理解でき、パネリストとの質疑が始まる前まではわたしは、納得して聞いていました。ところが質疑が始まって終わるころにはなにか変であることに気づきました。わたしの意見としてまとめておきます。疑問が二つあり、そこから結論を書いてみます。

まず、疑問のひとつとして発表者の中にこんな指摘がありました。日本の女性はプロモーションをするのがあまりうまくない、といったことでした。はて、これはどういうことなのか。おそらく差別がいけないということを訴えることがうまくできていない。差別をされていても泣き直りをして現状維持のままでよしとしてしまう、そんな風に受け取られました。

もし、そうだとしたら、女性の方はなぜわざわざ一生懸命勉強して、少しでもいい大学に行こうとするのでしょうか。いい大学にいって、いい就職ができたとしても職場では差別扱い。それでもいいのだろうか。

あるファイナンシャルプランナーによると2歳から22歳までの20年間で教育費用は相当かかるとのことでした。オール私立であれば、2200万円(月9万円)、オール公立であれば、770万円(月3万円)。毎月9万円の教育費を20年間支払って、私立大学を卒業して、その職場で差別をうけながら働く。それでもいいのでしょうか。

コロナ過で生活費を切り詰めていかないといけない。そのため、一般家庭では、5万円ほど節約をして、将来に備えるようにしているとも聞いています。その中で月3~9万の教育費負担というのは結構大きいと理解しています。

発表によると女性の管理職は13.2%であり、役員は5.8%とのことでした。つまり、管理職、マネージャーといわれるひとたち、部下を指導しながら責任ある仕事をするひとは、10人中2人もいない。そして役員になると10人中1人以下です。であれば、職場でがんばる理由はなんなんでしょう。

パネリストからの質疑の様子を見ているとおぼろげながらいえることがありました。おそらく、ここに参加していた300人の女性参加者の多くは、事柄の緊急度(Sense of Urgency)、緊迫した気持ちを持っていない。そしてことの深刻度(Severity of Issue)、問題の深刻度を本気でとらえてはいないのではないか。

イベントを閉めるにあたり、ホスト役が画面の前で両手でぱちぱちやっていました。あたかもよくできました、といわんばかりに。あの光景をどう解釈したらいいのか。そんな程度で済ましてしまう。わたしはがっくりと肩を落とし、ため息とともにイベントを退出しました。あの終わり方はちょっと違和感があった。これでは今後何年やっても変わらないだろう。

もう一つの疑問は、女性の参加率が増える、管理職や役員の割り当て数を増やす、そうすれば業績はあがるという理論の紹介がありました。これはデータを使って説明されていました。ならば、なぜ上場企業はそれを方針として宣言しないのでしょうか。今年度、女性の管理職を30%にする。役員は20%にする。

それでもやらない。特に上場している大手企業ではやらないといいます。なぜでしょうか。考えられるのは、この理論が実証されていない。まだ仮説なのであって理論ではない。データどおりにはならないのかもしれない。あるいはそれよりも女性が昇進をして成功することが危険な前例になるのかもしれない。そういった抵抗心理が働いている可能性がある。

なぜ声をあげないのか。不思議でなりません。

40年経過してなにも変わらなかった。あの大学の授業を受けたときに新鮮だったものはそのままどこかで放置されたままだった。結局、企業は取り組むことはせず、女性もそれほど声を上げて訴えていかない。であれば、是正はないであろう。29か国中、28位のまま。

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Source: The Economist, glass-ceiling index

これを読んだ大学生にとって学業、そして就職先を考えるうえで参考になりますように。