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年収データでだまされないように

東京は大分暖かくなってきました。暖かくなってくるともう少しで4月になります。4月は、新学期、新年度、また、3月末でいまの会社を辞めて新しい職場に転職するひともいることでしょう。こういった節目の季節は、年に2回ほどあります。春と秋です。春は、なにか新しいことをはじめるにはよい。秋は、じっくりと考えを醸成させたり、本を読んだりして振り返るのがいいです。

新しい仕事を始めるにあたり、また、来年には新しいことにチャレンジをしたいと考えている大学生、社会人に向けて書いてみます。今回は、年収データをうのみにしないほうがよいというテーマです。その理由を書いて後にどうしたらいいか。そんな内容です。

年収の数字はだれにとっても気になるものです。会社で働き始めるといくらくらいもらえるのだろう。可処分所得はどのくらいになるのだろう。可処分所得とは、給与から税金等を差し引いた手取りのことをいいます。手取りが銀行口座に入金されます。つまり自由に使えるお金です。それが10年くらい働くとどのくらいもらえるか。そういった疑問はだれもが持っています。そしてこの気になる数字ですが、会社に働きはじめると気づきます。だれがいくらもらっているかは一切わかりません。

そうするとメディアでとりあげられた年収のデータを見ます。この数字は気をつけたほうがいいです。

例えば、東洋経済に掲載された30歳の平均年収というデータを見てみましょう。上位10社をみるとM&Aをてがけるところと総合商社が多いことがわかります。M&A関連は5社、総合商社3社です。これをみて、おお、こんなにいい年収がもらえるのか、じゃ、こういったところに転職しよう、ひょっとしたらこのくらいもらえるかもしれない。こう考える人がいるかもしれません。このデータをうのみにしてはいけません。あくまでも東洋経済社が推計したものです。

どういったところに注意したらいいでしょうか。ひとことでいうと30歳で1200万円の年収があるひとは上位の会社でもそんなに多くはありません。これはあくまでも広告です。広告ですから、これだけいい年収を払っているという会社側の宣伝です。ぜひ優秀なひとに来てもらいたい。そしていっぱい働いてほしいといったメッセージです。実際はそんなによくない。

その理由はなんでしょうか。三菱商事と三井物産をとりあげてみましょう。6,000人くらいですから、30歳の職員が150~200人はいるでしょう。そのひとたちの年収データが正規分布していない可能性があります。正規分布というのは、ベルカーブのように平均化されているチャートです。

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ところが10名くらいが並外れた業績をあげて1500~2000万の年収をもらったいる。そうすると平均の数字を押し上げてしまうことがあります。どうであれば、残りの人たちは1000万以下になります。

また、集計方法にも留意する必要があります。というのは、平均値よりきわめて低い年収にとどまっている職員の数字を加味していない可能性がある。500万程度の職員をデータから除外している可能性があります。すべての職員のデータを使っているとは限らない。歪みが生じている可能性があります。上位10%、下位10%を除くといった例外処理をしているかどうか。年収の高いところだけの集団を使って集計しているのではないかということです。

この年収といった定義が各社でまちまちである可能性もあります。収入というのは、確定申告をすればわかります。給与のほかに雑収入、配当、そして一時金とあります。それをまとめて収入としています。副業をしているかどうか。いまは、かつてよりも経済が不安定になり、副業に対して緩和している会社が多くなりました。株式投資をしている可能性があります。そこで得た数値をいれているかどうか。これを統一した方法で有価証券報告書で報告しているかです。

多くの場合、公表された数値よりも年収は少ないと理解した方がいいでしょう。平均でだます方法はいくらでもあります。詳しくはこちらをご覧ください。

同じように注意しなければならないのが、The Economist が公表しているデータです。これは、結構、長期にわたり、定期的に雑誌に掲載されているものです。アメリカのMBAは、3~4年くらいの職務経験を経て、28歳くらいで入学し、卒業時には30歳になっています。30歳の平均年収が掲載されています。かなり高いことがわかるでしょう。しかしながら、ここでも注意が必要です。

どういった注意が必要なんでしょうか。それは、卒業をした人がアンケートに答えて年収の額を回答しているためです。そしてすべてのひとが金融やITに就職するわけではありません。ですので毎年のように公表されていると平均よりも低い卒業生がアンケートに答えないということがありえます。おそらく答えないでしょう。答えることでなにもメリットがない。

もうひとつは、年収パッケージというものがあります。MBAとして卒業をし、就職先と雇用契約を結んだときに契約金が支払われることがあります。その雇用契約金の有無がはっきりしない。そして、1年の成功報酬としてボーナスのようなものが契約書に明記されている場合は、年収の2割増しであるとか、成功時に一定の金額を払うという約束があり、それをいれると20万ドル、日本円で2千2百万円になるともいわれます。成功報酬の有無はどうか。

東京では、雇用契約金や成功報酬といったことはほとんど加味されないのではないでしょうか。また、ストックオプション。雇用時に会社の株式を分けてもらえる。それが値上がりしたときに売却をすると一時金として計上できます。その額もひょっとしたら入れているかもしれない。日本人が海外のMBAをとってきたからといってこのような年収が30歳でもらえるとは考えない方がよいでしょう。

また、Wall Street Journal がPodcastでGoogleの全社員の平均年収が29万ドルといっていたことにも違和感があります。29万ドルというのは、日本円にすると3,000万円です。11万人の社員のうち、これだけもらっているひとはそれほどいないでしょう。

たしかに、CEOの年収は$2mですので、2億円です。そしてこれまでGoogleで働いて280億円の報酬があったと掲載されていました。それは、驚く数字ですが、そこまでGoogleで達成できるのはほんのわずかのひとたちです。そのほんのわずかのとびぬけて高い年収を加えており平均値を押し上げている可能性があります。

ここまでのことをまとめてみます。メディアに掲載される年収値は、ランキングになっていることが多くて会社の広告です。その数値には、すべての社員の生データを使っているわけではないため、上の方に偏りがあるのではないか。集計方法の問題。そして年収という定義が統一されておらず、あらゆる収入を加味したり、加味していなかったりしている可能性がある。データそのものの問題。そしてアンケートであれば、前年の平均値より低い値のひとはアンケートには答えない。そういった集計手段の問題。

そういったところに気をくばっておかないと転職をしたときに話が違うのではないかということになりえます。転職の動機が偏ったデータをたよりにしたことにより、こんなはずではないと期待はずれになります。

商社5社は、2年前にアメリカの投資家ウォーレンバフェットの会社が5%を取得しました。そして10%にまで引き上げる計画を出しました。アメリカは株主資本主義ですから、それは厳しい業績評価をします。わたしが90年代にコカ・コーラで働いていた時もウォーレンバフェットが筆頭株主でした。とても業績にシビアでした。

アメリカでは、株価がさえないと社長はクビになります。社長の在籍期間は平均7年です。日本のようにのんびりとしてはいられません。株価を上げるには業績を上げるしかありません。そうなると社内はとても厳しい環境になっている可能性があります。そういったところも調べましょう。

アメリカのMBAを卒業して、上位の年収につけるのは、外資系の経営コンサルティングしかありません。そこでは、顧客のためにほとんど土、日なく働くところです。

平均に近い数字をもらったとしても所得税の増税はあります。節約しながら生活し、無駄遣いをしないほうがよいでしょう。自由にできるお金はそれほどないでしょう。すでに国民一人当たり、1000万円の借金がある。加えてコロナ対策で80兆円、ひとりあたり67万円の税不足。さらにウクライナ情勢による自衛隊の出動可能性。それによる増税。ありえます。

新年度を向かえるにあたり参考になりますよう願ってます。