見出し画像

日本の縁故と腐敗はまだましな方なのか

20年前くらいの出来事。2度目のバブル経済が崩壊した。1度目は1987年10月のブラックマンデー。土地神話と株神話が消え去った。2度目は2000年前後。ITバブルといわれ当時ヤフーの株価が1億円をつけた。このバブルもみごとにはじけた。わたしはITの新興企業で働いていた。そこはi2テクノロジーズというサプライチェーンマネジメントの会社で品川駅の近くにあった。また影響を受けた。

2001年9月には従業員の3分の1にあたる60名に解雇通知が出た。わたしのところにも解雇の知らせがきた。1か月だけの給与を与える。当時長男がまだ12歳であったこと。1年前にマンションを買ったばかりでどうしようもない。途方に暮れていた。どこか雇ってくれるところがあるのか。もう40歳を過ぎていたのでそれほどいい場所はないだろう。

そんなとき人事から話があったのは三菱商事グループが受け皿を用意してくれたことだ。商事が5社を合併させて晴海にアイ・ティ・フロンティアという会社をつくった。ITソリューション事業を展開していた。そこで働いてみないか。藁をもつかむ気持ちでお願いをして1年ばかりしょげていたころのこと。駒のようにあつかわれるが親会社の三菱商事の方に出向をしてみないかということだった。

三菱商事というところで働いてびっくりしたことがある。これほどの才能のある人たちがあふれている場所は知らない。17年間外資系で働いていたけど商事というのはバイタリティがある。一方で外資系のコンサルティング会社や投資銀行のひとたちがやることに比べてとてもつまらない仕事をしている。なにかスケールがない。特に20年前であったたためか女性の職員が活躍していない。どう考えても才能や資格を発揮していない。これはちょっと不思議だった。

ひょっとしてこの人たちは縁故で入社したのだろうか。そんなことが頭をよぎったのである。

あるオンラインイベントで縁故資本主義と腐敗について話をする機会があった。ウクライナ侵攻以降ロシアの資本家の資産は凍結をされた。そこで縁故資本家の推移がどうなってきたのかを調べた調査がある。それによると25年前に42.8兆円で世界のGDPの約1%を占めていた資産は膨張した。現在は約10倍になり407兆円になっているという。それだけ金持ちがますます金持ちになって資産を買い占めた。

世界の富裕層を調査しているフォーブス誌によると25年前に個人資産が1300億円ある富豪(billionare)の数は209人だった。その数が現在は2640人にまで増えた。総資産額は1630兆円にせまるという。その富豪が富豪を生むというのはロシア、アメリカ、中国、インドで6割を占めている。

このようなことが起きる原因は何か。ひとつにはレントシーキング(超過利潤)という行為がある。不公正な利益により得た資産が金持ちに流れる。このレントシーキングというのは富を創出するのではなく経済にダメージを与えて得る利益のことである。国家の富を破壊する活動ともいえる。それは日本では財閥系の企業でよく行われている。メガバンク、建設、不動産、そして天然資源を扱う会社でよくみられる。三菱商事というのはその中でも筆頭にはいるであろう。

ここで注意したのは富豪の中でも起業家はレントシーキングによって富を得たのとは違う。ビルゲイツやスティーブ・ジョブズはレントシーカーではない。彼らは富を作り出した起業家。富を受け取るよりより多くの富を与えている。日本でいえばユニクロの柳井氏やソフトバンクの孫氏。

さて日本はロシア、アメリカ、中国、インドと比較すれば比較的平等な国ともいわれる。超富豪が国民総生産に占める割合は低く36位。比較的富の分配が上層にかたよっていない。そんなこともいわれていた。でも日本国内での富の分配はほんとうに公平にされているであろうか。野村総合研究所の調査にを見る。するとちょっと疑問符がつく。

野村総合研究所、「日本の富裕層の推計」、ニュースリリース、2023年3月

この調査結果だけからすると日本で公平な分配がされているかどうかは怪しい。むしろされていない。超富裕層は9万世帯。東京千代田区の人口くらい。その純金融資産は一世帯あたり5億円以上だという。このひとたちは相当華やかな生活をしていると推察できる。つぎに富裕層といわれる人たちは約140万世帯。ほとんどが東京、大阪、名古屋、福岡に住んでいることだろう。資産額は1億円以上。1億円あれば結構余裕があるだろう。

準富裕層といったこれから富裕層になっていく層は325万世帯ある。中間層(ミドルクラス)といわれる家計は726万世帯ある。その資産額は3千万以上であること。3千万円ないと中間層とはいえない。それ以下の資産であればむしろ貧困層かと勘違いしてしまいそうだ。

これだけ日本人はお金をもっているといえる。そういうことがいえるであろう。

これは日本での富の分配の一例であるため予測要素が入っており現実とはやや乖離しているといえる。ただこれでも世界36位。先にあげた4ヶ国のロシア、アメリカ、中国、インドにおいていかに富がひとにぎりのひとたちに握られているのかがわかるであろう。こういったことがどうして可能なのだろうか。

それはお金持ちどうしが結びついていろいろなことを工作するからである。ひとつには企業が政府にロビイストを送る。ロビイストは雇われた企業のために活動をする弁護士。霞が関にはいりこみ政府関係者の近くにいく。そこで法令に圧力をかける。場合によってはスパイ活動をしているともうけとれる。

もうひとつは独占禁止法に触れるようなこともやりかねない。いろいろなことを隠す。そういった腐敗がなかなか表に出てこない。下のチャートは世界の腐敗指数を地図上に表したものである。

Corruption perception index, Wikipedia

緑の国は比較的腐敗がない国と特徴づけられる。色が黄色になりオレンジに代わり腐っていく。やがて赤い色になっていくと腐敗が進んでいるといわれる。ロシア、中国、インドは緑ではない。アフリカには緑である国は1つしかない。それだけ多くの国は腐敗しているといえる。

では日本は腐敗のない国といえるのだろうか。なぜ毎日のように不祥事が流れるのだろうか。

わたしは4年間働いた三菱商事グループを辞した。どうしても働き続けることがいやだったからである。子供もまだ学校がある。家のローンも返済が残っている。それほど貯金があるわけではない。もっともつらいのは40歳を過ぎて働き口がほとんどないということだった。それでもやめた。

ある部署でよくランチをいっしょにしてくれた女性とまたお昼ご飯を食べることになった。大学を卒業してからずっと商社で働いている。わたしのような外資系を渡り歩いている人とは違った。社員教育もできておりしっかりとした会話をするひとだった。マナーもすぐれ立ち振る舞いもなにも問題がない社会人ように見ていた。

お昼ご飯をいっしょにしながらこんな依頼があった。これから議員の選挙があるけどこれこれの政党に一票いれてくれない。わたしはそれを聞いたときに辞めるという決断をしてよかったと振り返る。おそらくこの女性は会社での振舞は問題なくできる。けどあまり腕を振るって仕事をしているようには見受けられない。ひょってして縁故なのかな。そう疑ってしまった。

それでも日本は買収や腐敗の少ない国なのだろうか。一部の上層部による富の独占が進んでいくのではないか。そう懸念している。