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パーティに履いていくクロックス

東京で働くようになってからすでに40年。1980年代の東京を知る者としてまず思い出されるのはジュリアナ東京だ。バブル経済の真っ盛り。あれはバブルを象徴している。なにもかもがうまくいく気がしていた。若い人たちは景気はいつまでも続くと錯覚しており夜は歌って踊ってを繰り返していた。そんな雰囲気がどこにいってもあった。まさに狂った時代だった。

会社にいてもパーティはあった。しかも食べるだけのパーティではない。ちゃんとした服装をしていき食べるよりも踊ることをした。若い男性と女性が手をつないでちょっとしたチークダンスもしていた。翌日平気で出社して職員もいつもと変わらない仕事をしていた。なんの束縛もなかった。

わたしが勤務していたスイス銀行でさえもそういったダンスパーティーは行われていた。近くにいる女性の手をひいてふたりきりでダンスをする。わたしにとっても恥ずかしいことはなにもない。独身だったから。なにもかも忘れさせるくらいおおらかな日々だった。

それが次のコカ・コーラに勤務をした1990年代ですら続いた。そこではタキシードを着た職員がいた。バブルの後遺症かと勘違いした。

2000年代にはいるとダンスはなくなった。立食パーティが多くなった。わたしが最後にパーティらしいイベントに参加したのは2005年くらいのことだ。明治記念館近くのビアガーデンで行われたコンサート付きのパーティだった。それは三菱商事があの西城秀樹さんを囲んでヤングマンを踊るというものだった。確か記念館の近くにビアガーデンがあったと記憶している。

あるオンラインイベントでなにやら変わったデザインのハイヒールについて話すことがあった。あのスペインのファッションブランドであるバレンティアガがサンダルメーカーのクロックスと協力して新商品を開発した。それはBalantiaga-Crocs 2.0という。このデザインを見て、はて、これが売れるのだろうか。何かが起きている。何だろう。この商品を開発をした担当者は何を考えて企画したのだろう。そんな話をした。

Balenciaga Reveals Crocs Stilettos And Rainboots To Divided Reactions

色は二種類。緑と黒。ファッションショーでお目見えした。バレンティアガのバックにあわせるとなかなかのいまどきのものという。さてこの商品はいくらなんだろう。調べてみると$1000ドルということだった。為替レート140円で計算すると14万円になる。それに消費税を加えるとさらに高くなる。いくらコラボでファッションだからといって少し高すぎないか。

いやいやどうも高いということをいうまえに買う人は買っていくらしい。まずこの商品を企画した狙いを探ってみた。どこに履いていくか。商品の特徴は何か。そして値段の根拠はどこにあるか。そういったところだ。

買ったとしてこれをどこに履いていくのだろうか。これを買う人は間違いなくパーティに出かける。特にヨーロッパでは若い人がパーティに出かけることが多い。東京でもこれからはパーティが多く開催される。20代、30代はパーティを楽しみにしている。そんなときにこのハイヒールを履いていったのであればなにかと一目をひくであろう。

しかもこのコラボ商品にははっきりとしたメッセージがある。商品の特徴だ。緑というのはエコを意識している。グリーンであるため環境保全や温暖化反対といった意見を持つ人たちが履いていく。緑はその象徴的な色であろう。なので履いていくひとたちは環境にやさしい活動を支援しているひとたちであろう。逆にこの手の話についていけない同年代のひとやシニアのひとたちを相手にはしたくない意向がある。

そしてこの価格が14万円であるという設定。これはどう理解したらいいのだろうか。簡単に手が出る値段ではない。しかしよく考えてみるとファストファッションではない。使い古しを捨てるというコンセプトではないのだ。10年、15年と長く大事に使って愛着を持たせる。できれば将来は自分の娘にも履いてもらいたいという願いもあるのかもしれない。そういった長持ちするハイヒール。ならば14万円というのは高くはないかもしれない。

しかもこのブランド商品は珍しいためにこれを意識して知っている人どうしが仲良くなるはずである。下世話な話をするのではなくスペインのブランドメーカーとアメリカのサンダルメーカーがどんなことを考えて商品企画をしたのかというのを想像でも話せるひとたちが集う。

おそらくこれを買った人は顧客リストに名前を登録したがるだろう。登録をすればこれを履いていくのにふさわしいパーティのお知らせがくる。その知らせをメールで待っているだけでよい。こちらからパーティを探さなくてもいいのだ。そういったリスクを軽減できる。パーティにいって失敗したということは無数にあるはずだ。

パーティを探して登録する時間が省けるというメリットがある。顧客リストの公開とまではいかないが自分の嗜好に近い人たちと出会いやすいということがいえよう。

そういったことからこの商品を企画したひとたちはパリやニューヨーク、あるいはこの東京にいるごく一部のひとたちに向けてこの商品を企画した。そういったストーリーが成り立つ。20代の人たちへのパーティ用につくられた商品といえる。

東京ではすっかりダンスパーティというのはなくなってしまった。立食パーティーならばいまでもあるだろう。いきなりダンスというところまではいかなくてもこの商品を履いていくだけのパーティはどこかにあるはずだ。男性に会うことだけが目的ではない。けれど自分と同じような意識を持った女友達と会えるかもしれない。そういった期待をいだかせる商品であることは間違いない。

わたしが勤務したスイス銀行やコカ・コーラのパーティは社員向けのものだった。しかも会社が支払いをしてくれるものであって職員とは顔見知りである。なにか恋愛をするには期待外れということもあった。社員どうしで結婚した例はごくわずかしかない。

ならばどこか半オープンで自分からお金を支払っていくパーティはどうか。そこでクロックスを履いていったらどうだろうか。形式ばらずにちょっとしたセンスを出して男性にアピールできるかもしれない。男性にとってもひょっとしたらこの商品を履いていく女性に巡り会えるかもしれない。男性もこの週末には意識して表参道でリサーチをしてみてはどうだろうか。